精選版 日本国語大辞典 「プリズム」の意味・読み・例文・類語
プリズム
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翻訳|prism
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滑らかに研磨された平行でない平面を二つ以上もつ透明体。用途により,分散プリズム,偏角プリズム,偏光プリズムなどがある。ギリシア語およびラテン語のprismaに由来し,原義は〈削る〉。起源については明らかでないが,多くの稜をもつガラスに光を入射させるとスペクトルが得られることは古くから知られていたようで,1世紀にL.A.セネカが書いた《自然の研究》にもこのことが述べられている。プリズムに関してはニュートンが行った太陽光によるスペクトルの実験が有名で,彼は第1のプリズムによって得られたスペクトルを第2のプリズムを通すと再び白色光となることから,それぞれのスペクトルはもともと太陽光に含まれており,これらが集まって白色光となることを明らかにした。
(1)分散プリズム 分散,すなわち透明体の屈折率が波長によって異なることを利用して光とスペクトルに分けるもの。研磨した二つの側面をもつ三角柱状のものがもっとも多く,分光器,分光計,屈折計などに用いられる。稜に垂直な平行光線束をプリズムに入射させると,屈折を2回受けて,射出光は入射光と異なる方向に進む。入射光と射出光のなす角は偏角と呼ばれ,プリズムの屈折率n,頂角Aおよび光の入射角の関数である。透明体の屈折率は一般に波長とともに減少するので,偏角は短波長側で大きく長波長側で小さい。そのため白色光を入射させると鮮やかなスペクトルが得られる。一定波長の光に対してはプリズムの第1面への入射角と第2面からの屈折角が等しいときに偏角が最小値δmin(最小偏角という)をとり(図1),の関係式が成り立つ。この関係は分光計によって光学ガラスなどの光学材料の屈折率を精密に測定するのに用いられる。分散用のプリズムにはA=60°のものがもっとも多い。すべての波長に対して一定の最小偏角をもつ定偏角プリズム(アッベのプリズムなど)も用いられる。材料としては,可視光に対しては分散の大きいフリントガラス,紫外線に対しては水晶や蛍石,赤外線には岩塩や臭化カリウムなどの結晶が用いられる。プリズムの底辺の長さをt,光の波長をλとすると,分解能は,で与えられ,回折格子や干渉計に比べてかなり小さいが,次数の異なるものはなく,ゴーストもないのでラマン散乱などの強度差の大きい分光測定などに利用される。
(2)偏角プリズム 光線束の方向を変えたり,像を正立させるのに用いるもので,全反射を利用する場合が多い。図2に示したのは頂角が90°の直角プリズムを用いて,1回の全反射を利用して方向を90°変える場合と2回の反射によって180°変える場合である。金属鏡に比べ,反射率が高く,表面の汚れを取り除くのが容易である。像の倒立を打ち消す例を図3に示す。これは2個の直角プリズムを組み合わせたものでポロプリズムと呼ばれ,進行方向を変えることなく像の上下,左右を反転させるので,双眼鏡に多く用いられる。図4は直角プリズムの直角をなす頭部が切り取られた形のドーブのプリズムである。図の配置によると,物体の上下関係は反転するが左右関係はそのままなので,プリズムを光線を軸に回転すると,物体はその2倍の角度で回転することになる。
(3)偏光プリズム 結晶の複屈折を利用して直線偏光を作るプリズムで,方解石や水晶などを光学軸に対して適当な角度に切断研磨したものを組み合わせて作る。ニコルプリズム(図5),グラントムソンプリズム,ウォラストンプリズム,ロションプリズムなどがある。ニコルプリズムは,方解石から作った同形の2個のプリズムをカナダバルサムで接合し,接合面で全反射された常光線を側面で吸収させ,異常光線だけを取り出して使用する。偏光プリズムの特徴はポーラロイド(商品名)と比べて波長特性がフラットで透過損失がないばかりでなく,取り出した直線偏光の純度が高いことである。
執筆者:鶴田 匡夫
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