プリオン(読み)ぷりおん(英語表記)prion

翻訳|prion

精選版 日本国語大辞典 「プリオン」の意味・読み・例文・類語

プリオン

〘名〙 (Prion) 感染性の蛋白粒子。人間動物の脳に海綿状変化をおこし種をこえて感染をもたらす。牛海綿状脳症(狂牛病)。羊のスクレイピー、人間のクロイツフェルトヤコブ病などの原因になるとされる。

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デジタル大辞泉 「プリオン」の意味・読み・例文・類語

プリオン(prion)

たんぱく質性の感染因子正常型と異常型があり、異常型は、クロイツフェルトヤコブ病牛海綿状脳症BSE)の病原体とされる。ウイルス細菌のように遺伝子をもたないことから、病原体ではないという意見もある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「プリオン」の意味・わかりやすい解説

プリオン
ぷりおん
prion

感染性のタンパク粒子proteinaceous infectious particle。ウイルスや細菌と同様に病原体の種類として提唱された名称がプリオンである。スローウイルス感染症といわれる人間や動物の脳神経病の原因として注目されている。ヒツジがかゆがり、体が震え、足がまひする病気のスクレイピー、ミンクの脳病、牛海綿状脳症(BSE)、人間のクロイツフェルト・ヤコブ病などの原因になる。アメリカのカリフォルニア大学教授プルジナーが命名、当初は遺伝子なしに増殖できる謎のタンパク質と考えられた。その後の研究で人間や動物が自分のもつ遺伝子で正常型プリオンをつくった後、異常型にかわると病原性をもつとわかった。プリオンはアルツハイマー病の患者の脳にたまる物質、アミロイドの一種でもあり、一連の病気の解明につながると世界的な関心がもたれている。なお、プルジナーはプリオンの研究により1997年のノーベル医学生理学賞をうけた。

田辺 功]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プリオン」の意味・わかりやすい解説

プリオン
prion

ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病,ニューギニアの風土病クールー,ヒツジのスクレイピー,ウシ海綿状脳症 (狂牛病) といった,脳などの中枢神経がおかされスポンジ状になる病気を引起す病原体。感染・増殖性の蛋白質とされるが,メカニズムは解明されていない。プリオンを発見・命名したのはアメリカの S.B.プルジナーである。プリオンはもともと生物体内で働いているアミノ酸 253個からなる蛋白質であることが確認されている。この正常プリオンにあるαヘリックス (螺旋) 構造の一部がβ構造 (プリーツシート) になると,神経細胞にたまり,それをおかす異常プリオンになるとされる。また異常プリオンと接触すると,正常プリオンが異常プリオンに変化するという推測もあるが,完全な解明はなされていない。異常プリオンは消毒剤や加熱消毒にも大変強い。ヨーロッパなどで発生した狂牛病やヒトの硬膜移植によるクロイツフェルト・ヤコブ病も,このプリオンが経口あるいは接触感染したためと考えられる。

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化学辞典 第2版 「プリオン」の解説

プリオン
プリオン
prion

略号PrP.構造変化により海綿状脳症を引き起こすと考えられているタンパク質.正常な立体構造を有するプリオン(PrPC)の機能は不明であるが,調べられた限りでは,すべての動物のリンパ球や神経細胞に多く発現している.異常プリオン(PrPSc)はいったんできてしまうと,熱や有機溶媒やプロテアーゼに耐性となり,感染性を獲得する.タンパク質のみからなる感染因子は,これまでの常識では考えにくく,賛否両論であったが,プリオン遺伝子をノックアウトしたマウスにPrPScを接種しても発症しないことから,プリオンのかかわりがはっきりした.病原性のPrPSc(β-sheetに富む)が正常のPrPC(αヘリックスに富む)の構造をPrPSc型(βシートに富む)に変換し,海綿状脳症を引き起こすと考えられている.[別用語参照]BSE

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百科事典マイペディア 「プリオン」の意味・わかりやすい解説

プリオン

核酸を持たずに増殖するとされる,タンパク質粒子からなる病原体。クロイツフェルト=ヤコブ病などの病原体スローウイルスの本体が,感染性のタンパク質粒子であるとして,S.E.プルシナーがタンパク質(protein)と感染体(infection)から合成した造語(prion)。分子生物学の常識に反するとして疑問視するむきもあるが,近年,狂牛病とクロイツフェルト=ヤコブ病との関連が指摘され,注目を集めている。
→関連項目人工赤血球

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家庭医学館 「プリオン」の解説

ぷりおん【プリオン】

 イギリスでは昔から、ヒツジやヤギの間に伝染するスクレイピーという病気が知られています。これは全身の震(ふる)え、歩行障害などの多様な神経症状を現わし、数か月の経過で死に至る原因不明の奇病です。その脳を解剖すると、まるでスポンジのようにみえます。
 イギリスで流行した牛海綿状脳症(うしかいめんじょうのうしょう)(BSE。俗に狂牛病(きょうぎゅうびょう)と呼ばれる)は、スクレイピーに感染したヒツジの内臓を用いた飼料が原因といわれています。かつてニューギニアの部族間に流行したクールー病、初老期認知症の1つであるクロイツフェルト・ヤコブ病でもスクレイピーと同様の神経症状と脳の解剖所見および伝染性がみられます。この伝染性は、ウイルスによるものではなく、プリオンという特殊なたんぱく質が媒介物質であると、近年いわれています。プリオンは感染動物の脳、肺、脾臓(ひぞう)などに蓄積され、消化酵素や熱に強い性質があります。

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知恵蔵 「プリオン」の解説

プリオン

ウシの牛海綿状脳症(BSE)やヒツジのスクレイピー病などの病原体たんぱく質(分子量約2万7000)。プリオンはプルシナー(英国)の命名で、病原性のたんぱく質という意味。神経細胞の細胞膜に存在し、異常プリオンが神経組織に蓄積することによって発症する。ヒトのプリオン遺伝子は第20番染色体にある。

(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)

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栄養・生化学辞典 「プリオン」の解説

プリオン

 感染性タンパク質粒子ともいう.ヒツジのスクレイピーやヒトのクロイツフェルト-ヤコブ病の原因とされるタンパク質.prpという正常のプリオンタンパク質の構造が変化したもので感染性を示すとされる.

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