フリッシュ(Max Frisch)(読み)ふりっしゅ(英語表記)Max Frisch

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

フリッシュ(Max Frisch)
ふりっしゅ
Max Frisch
(1911―1991)

スイスの小説家、劇作家デュレンマットと並んで現代スイス文学の代表者として名高い。劇作家としてはブレヒトから劇作術と道義的問題とを学びとって『そらまた歌っている』(1946)、『支那(しな)の長城』(1947)、『アンドラ』(1961)などで社会における個人の倫理的責任を問う問題劇を書き、『伝記』(1967)では一転して人間個人の生きざまの可能性とアイデンティティ模索主題として話題を投げた。アイデンティティの問題は小説家としての彼がつねに追求してきたことであって、『シュティラー』(1954。邦訳名『ぼくではない』)、『ホモ・ファーベル』(1957。邦訳名『アテネに死す』)、『わが名はガンテンバイン』(1964)などで一貫して現代人の自己疎外と自己探求の努力をテーマとした。後の『モントーク』(1975)、『完新世』(1979)などでは狭義の小説の型を脱したスタイルで同じテーマが扱われている。もう一つ見逃せないのは『日記1946―1949』(1950)と『日記1966―1971』(1972)で、現代批判に満ちた省察を多く含んでいる。その批判精神は母国スイスの民主主義病弊にも向けられて、『学校向けのウィルヘルム・テル』(1971)は中立と平和の神話に安住するスイス人に衝撃を与えた。

[宮下啓三]

『中野孝次訳『ぼくではない』(1959・新潮社)』『中野孝次訳『アテネに死す』(1963・白水社)』『加藤衛訳『戦争が終った時』(『現代世界戯曲選集2 ドイツ篇』所収・1953・白水社)』『加藤衛訳『ドン・ファン』(『現代世界戯曲選集10 ドイツ篇2』所収・1954・白水社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android