改訂新版 世界大百科事典 「フッ(弗)素樹脂」の意味・わかりやすい解説
フッ(弗)素樹脂 (ふっそじゅし)
fluorine-contained resin
fluorocarbon resin
ポリエチレンの水素の一部または全部をフッ素でおきかえた樹脂の総称。フッ素原子は不活性であるため,フッ素樹脂は耐薬品性,撥水性,耐候性,耐熱性にとくにすぐれ,また摩擦係数が小さいため,すべりやすく,粘着しない特性がある。したがって,家庭用品ではフライパンや電気アイロンに塗布され,こげつき防止などに用いられたり,化学プラントの配管,釜のライニング,パッキングなどに用いられる。電気特性にもすぐれているので,電気絶縁テープ,電線コーティングにも用いられている。フッ素樹脂フィルムをラミネートした鋼板は,耐候性,耐薬品性にすぐれ,メンテナンスフリーの恒久建造物に用いられる。
工業的によくつくられているのは,ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化樹脂)およびポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ化樹脂)である(テフロンTeflonは前者に対するデュポン社の商品名)。第2次大戦中,原子爆弾製造に必要なウラン235の濃縮工程で使用されるフッ素やフッ化水素酸に耐えうる材料として開発され,戦後工業化された。
四フッ化樹脂は,260℃近くまで安定であるが,成形が難しく,粉末樹脂の加圧成形法で成形品とするか,焼結成形法でコーティングされる。三フッ化樹脂は,耐熱性は180℃くらいであるが,成形性がよく,射出成形,押出成形が可能である。テトラフルオロエチレンモノマーは,
の反応により,またクロロトリフルオロエチレンモノマーは,
の反応によってつくられる。樹脂は,これらのモノマーをオートクレーブ中で,酸素または過酸化ベンゾイルを触媒として加圧・加熱下に重合させて得る。四フッ化樹脂,三フッ化樹脂のおもな物性は表のとおりである。他のフッ素樹脂としては,ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA),四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP),エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリフッ化ビニル(PVF)などがある。
執筆者:森川 正信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報