フジ(読み)ふじ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フジ」の意味・わかりやすい解説

フジ
ふじ / 藤
[学] Wisteria floribunda (Willd.) DC.

マメ科(APG分類:マメ科)の落葉藤本(とうほん)(つる植物)。昔、大阪の野田がフジの名所だったので、ノダフジともいう。つるは左巻きで、支柱を左上りに巻いて伸びる。樹皮は灰色。葉は互生し、奇数羽状複葉で長さ20~30センチメートル。小葉は11~19枚、卵状長楕円(ちょうだえん)形で長さ4~10センチメートル、先はとがり、質は薄い。若葉には毛があるが、のちになくなる。5~6月、枝先に長さ30~90センチメートルの総状花序を垂れ下げ、下部から先へ順々に淡紫色または紫色の花を開く。花冠は蝶形(ちょうけい)で長さ約2センチメートル。果実は倒披針(とうひしん)形、長さ15~18センチメートルの扁平(へんぺい)な鞘(さや)で、短毛を密生する。果皮は堅く、10~11月に裂開する。種子は扁平な円形。山林に生え、本州から九州に分布する。棚づくりや盆栽にして観賞する。園芸品種に、花が白色のシロバナフジ、淡紅白色のアケボノフジ、淡紅色のモモイロフジ、花序が1メートル以上になるノダナガフジ、紫色で八重咲きのヤエフジ、小木のイッサイフジ、葉に白色または淡黄色の斑(ふ)が入るフイリフジ(カワリバフジ)などがある。

 近縁の別種ヤマフジW. brachybotrys Sieb. et Zucc.はフジと異なってつるは右巻きで、小葉は9~13枚と少なく、短毛を密生する。花序は短くて花は大きく、全体がほとんど同時に開花する。兵庫県以西の本州から九州に分布する。品種に、花が白色のシロカピタン、淡桃色のアケボノカピタン、藤紫(ふじむらさき)色で八重咲きのヤエヤマフジがある。

小林義雄 2019年11月20日]

栽培

水湿に富む排水のよい砂質土を好み、日当りのよい肥沃(ひよく)地でよく開花する。伸びた枝は元の部分の花芽を残して剪定(せんてい)し、冬季に樹形を整える。繁殖は実生(みしょう)、挿木接木(つぎき)による。

[小林義雄 2019年11月20日]

名所

各地にフジの名所があり、特別天然記念物の埼玉県春日部(かすかべ)市の「牛島(うしじま)のフジ」、国の天然記念物の岩手県一戸(いちのへ)町の「藤島のフジ」、宮城県川崎町の「滝前不動のフジ」、静岡県磐田市の「熊野(ゆや)の長フジ」、山梨県富士吉田市の「山ノ神のフジ」、福岡県八女(やめ)市黒木町黒木(くろぎまちくろぎ)の「黒木のフジ」などが有名である。同じく国の天然記念物である宮崎県宮崎市の「宮崎神社のオオシラフジ」は中国原産のシナフジW. sinensis (Sims) Sweetの白色花品である。

[小林義雄 2019年11月20日]

文化史

フジはつるから繊維をとり、衣服を編んだ。藤衣(ふじごろも)は『万葉集』に「須磨(すま)の海人(あま)の塩焼衣(しおやきぎぬ)の藤衣(ふじころも)間遠にしあればいまだ着なれず」(巻3)や「大王(おおきみ)の塩焼く海人の藤衣なれはすれどもいやめづらしも」(巻12)と、作業着として詠まれている。フジの衣服はじょうぶだが、肌ざわりが悪く、麻などにとってかわられ、10世紀までには通常の衣類から姿を消し、わずかに喪服として用いられた(『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』)。繊維をとったフジはノダフジで、ヤマフジより繊維が強い。フジ糸はつるを槌(つち)で打ち、皮をむき取り、灰汁(あく)で煮て、流水でさらし、乾かしたのち手でほぐし、撚(よ)りをかけてつくった。近年まで畳の縁はその糸で編んだ布が使われていた。諏訪(すわ)大社の御柱(おんばしら)を山から切り出し引く縄は、ノダフジの糸で綯(な)われていた。

[湯浅浩史 2019年11月20日]

文学

早く『古事記』中・応神(おうじん)天皇条に、春山之霞壮夫(はるやまのかすみおとこ)が伊豆志袁登売(いずしおとめ)に求婚したときに、衣服や弓矢がことごとく藤の花になった、という話が伝えられている。すでに『万葉集』から数多く詠まれており、「藤波の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君」(巻3・大伴四綱(おおとものよつな))のように、「藤波」という形が多く、季節は春から夏にかけて詠まれているが、どちらかというと夏が主流で、「時鳥(ほととぎす)」と配合される例もしばしばみられる。

 平安時代に入って、勅撰集(ちょくせんしゅう)の部立(ぶだて)では、『拾遺集(しゅういしゅう)』の夏を除き、おおむね春の歌材となっている。水辺の松に藤の花が咲きかかる構図は、大和絵(やまとえ)の画題の一つであるが、和歌にもしばしば詠まれ、「淵(ふち)」を懸詞(かけことば)とする例も多い。藤花(とうか)の宴もよく催され、『源氏物語』にも「花宴(はなのえん)」「藤裏葉(ふじのうらば)」「宿木(やどりぎ)」などにみえる。『枕草子(まくらのそうし)』「木の花は」の段には「藤の花は、しなひ長く、色濃く咲きたる、いとめでたし」と賞賛されているが、『花月草紙(かげつそうし)』は「殊(こと)におのれひとり盛りを見することかたく、かならず異木(ことき)によりて丈高き勢(いきほひ)見する」として、高い評価は与えていない。季題は春。

[小町谷照彦 2019年11月20日]


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改訂新版 世界大百科事典 「フジ」の意味・わかりやすい解説

フジ (藤)
Japanese wistaria
Japanese wisteria
Wisteria floribunda DC.

日本人の生活や伝統文化に密接な関連をもつ日本固有種で,マメ科の落葉つる性木本。ノダフジ(野田藤)ともいう。岩手,埼玉,山梨,静岡,福岡などの各県には天然記念物に指定されているものがある。茎は初め草質,生長が早く,長く伸び,右巻きに他物に巻きつく。後に木質化して老大し,径数十cmに達する。観賞用に栽培されるものは藤棚として整枝される。葉は大きく,9~19枚の奇数小葉をつける羽状複葉で,長さ20~30cm。小葉は卵形で先がとがり,長さ4~10cm。4~5月ころ長く垂れ下がる総状花序を伸ばし,多数の蝶形花をつける。花序はふつう20~50cm,長いものでは2mにも達する園芸品種がある。花は美しい紫色で藤色と呼ばれるが,白色や淡紅色の園芸品種もある。果実は細長く,扁平で長さ15~30cm。果皮は木質で固く,細かい毛が密生している。冬に空気が乾燥してくると2片にはじけて,円形,扁平な種子を飛び散らせる。本州,四国,九州の低山地,平地に生える。

 古くから観賞用として日本で広く栽培され,園芸品種も多い。つるはひじょうにじょうぶなので,いすや籠などの家具として利用され,またかつては繊維をとり,織物にしたり,ロープのように利用された。

 ヤマフジ(山藤)W.brachybotrys Sieb.et Zucc.はフジに似るが別種で,カピタンフジとも呼ばれる。本州西部,四国,九州の山地に野生する。つるが左巻きで,小葉は9~13枚,成葉の両面に細かい白毛が密生する。フジと同様に栽植され,シラフジ(シロカピタン)などの栽培品種がある。

 フジの類はほかにシナフジW.sinensis(Sims.)Sweet(英名Chinese wistaria)やアメリカフジW.frutescens(L.)Poir.(英名American wistaria)も中国や欧米で栽植されている。フジ類の植物体には配糖体のウィスタリンwistarinを含有し有毒であるが,少量で腹痛などの薬として利用されることがある。
執筆者:

藤づるの繊維から作った藤布は原料が自給できるうえにきわめてじょうぶであったため,山村では長い間愛用されてきた。古く《古事記》にも,春山之霞壮夫(かすみおとこ)のために母親が一夜のうちに藤葛(ふじかずら)で衣服や弓矢を作ったことが見え,《万葉集》では〈荒妙(あらたえ)の藤〉と詠まれ,織目の粗い布を意味した。フジはつる状でヘビに似ており,また不時に通ずるとして屋敷に植えるのは忌まれた。一方で,フジの花はその垂れ下がる形から稲穂を連想させ,豊作を予兆する神聖な木ともされた。農作業の始まる卯月八日(うづきようか)に天道花(てんとうばな)などといってツツジヤマブキの花とともにフジの花を山から採ってきてさおの先につけ,庭先に立てる風習は広い。この日は花折節供ともよばれるように,山から農作の神を迎える日であり,庭先に立てる花は神を招く依代(よりしろ)であった。フジの花は自然暦として農作業や漁期の目安とされ,古く勧農鳥とされたホトトギスがきて鳴く木でもあった。また〈朝藤夕縄〉といって,朝,藤をもやすのを忌む風もみられる。
執筆者:

藤の紋は,ふつう藤家すなわち藤原氏の家紋のように考えられているが,これは必ずしもあたらない。ただ加藤,後藤,斎藤,佐藤,近藤というように,名字に藤のついた諸家が,それにちなんで多く用い始めて今日にいたっている。家紋の中でもとくに優美な文様的性格の強いもので,だいたい両側から二つの花房の垂れ下がった,下がり藤の丸が多いが,このほかにも上がり藤の丸,藤巴(ふじともえ),八ッ藤などがあり,種類は数十に及んでいる。
執筆者:


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百科事典マイペディア 「フジ」の意味・わかりやすい解説

フジ

ナイジェリア,ヨルバ人のシキル・アインデ・バリスターがビアフラ戦争(1967年―1970年)のすぐあと創始したポピュラー音楽。ジュジュから派生した音楽ではあるが,ギターをまったく使わず,イスラム的な歌とトーキング・ドラムを中心としたアフリカの打楽器だけから成る,野性味あふれる音楽。この意味で伝統に回帰しているのだが,歌詞の内容は生き生きとした現代性を持ち,ラゴスの下層大衆のあいだで高い人気を得る。1940年代に出現したアパラはフジの前身の一つで,もともとはイスラム的な歌と打楽器だけから成る,打楽器中心の音楽。

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日本の企業がわかる事典2014-2015 「フジ」の解説

フジ

正式社名「株式会社フジ」。英文社名「FUJI CO., LTD.」。小売業。昭和42年(1967)設立。本社は松山市宮西。チェーンストア業。愛媛県地盤で四国最大手。中国地区にも店舗展開。ショッピングセンター形式の出店が特徴。東京証券取引所第1部上場。証券コード8278。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フジ」の意味・わかりやすい解説

フジ
FUJI CO., LTD.

四国最大のチェーンストア。アスティ系。1967年十和(現アスティ)の全額出資により設立。1978年株式額面変更のためフジ(1950山陽興業として設立)に合併される。愛媛を地盤に広島など中国地区にも大型店を展開する。

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デジタル大辞泉プラス 「フジ」の解説

フジ〔スーパー:フジ・リテイリング〕

株式会社フジ・リテイリングが展開するスーパーマーケットのチェーン。主な出店地域は四国地方。1967年、愛媛県宇和島市に1号店オープン。

フジ〔スーパー:富士シティオ〕

富士シティオ株式会社が展開するスーパーマーケットのチェーン。主な出店地域は神奈川県。

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世界大百科事典(旧版)内のフジの言及

【挿頭】より

…古く男女が自然植物の花や枝葉をめで,これを頭髪にさして飾りとした風習があったが,のち中国から伝わった冠の飾りにつけた髻華(うず)と習合して,ながく年中行事のうちの一部にこの風習が伝えられた。そのおもなものは大嘗会(だいじようえ),賀茂や石清水の臨時祭(使いや舞人,陪従など),政治的な行事では列見や定考(こうじよう)のとき,また踏歌節会(とうかのせちえ)のときなどで,さす花にはフジ,サクラ,ヤマブキ,リンドウ,キク,ササ,カツラなどがあった。これらは,さす人や行事によって種類がちがい,フジの花は大嘗会のとき天皇および祭使が,また列見のとき大臣などが巾子の左にさす。…

※「フジ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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