フェルト(英語表記)felt

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェルト」の意味・わかりやすい解説

フェルト
felt

羊毛または他の獣毛繊維縮絨してシート状にしたもの。羊毛などの繊維を集め,石鹸ソーダなどの温液で濡らし,長時間,たたいたり,もんだりすると,繊維がからみ合い,密着,収縮して,緻密な構造となって固まる。この現象を縮絨 (フェルティング felting) といい,得られた集合体をフェルトという。接着剤を使用しない一種不織布である。紡毛織物を縮絨させたものを織りフェルトという。また最近は耐久力を増加させるため羊毛に合成繊維を混合する。縮絨剤には,石鹸,アルカリ類,希硫酸などの酸類が使われる。次の3種類がある。 (1) 圧縮フェルト (厚さ 1mm~数 cmのシート状)  草履スリッパ,靴,かばん用,薄地のものは衣料用,裁ち目がほつれず,染色性がよい。工業用として,ガラス,金属の研磨用,防音材,断熱材,フィルタなどに使用。 (2) 帽体フェルト (すり鉢状)  帽子用。 (3) ハンマーフェルト ピアノのハンマーのクッション用。日本にフェルトが輸入されたのは室町時代以後で,陣羽織旗印などに用いられた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェルト」の意味・わかりやすい解説

フェルト
ふぇると
felt

平面の布帛(ふはく)のようにつくられたシート状の繊維品。これには織(おり)フェルトと圧縮フェルトがある。織フェルトは、紡毛織物に織り上げたものを縮絨(しゅくじゅう)機にかけて織り目がみえなくなる程度まで強く縮絨したもの。「引張り強さ」や「摩耗強さ」が大きいので、製紙機械・紡績機械などの部分品、玉突き台に張るビリヤード・クロスbilliard clothや硬球テニス・ボールの表面裂(ぎれ)などに使われる。圧縮フェルトは、毛繊維を薄く積み重ねて、これに熱とアルカリとを加えて圧搾しながらもむことにより、毛繊維の縮絨性だけで互いに絡み合わせて布帛状にしたものである。引張りや摩擦に抵抗する力はきわめて弱い。用途は、保温材、防音材、パッキングなど弾力性を利用するものに使われる。

[角山幸洋]

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精選版 日本国語大辞典 「フェルト」の意味・読み・例文・類語

フェルト

〘名〙 (felt)
① 羊毛などの獣毛繊維を、湿気・熱・圧力を加えてからみ合わせ縮絨(しゅくじゅう)した厚い布状のもの。保温・防熱・防音・振動防止性などに富む。工業材料・服飾・敷物・手芸材料などに用いる。
※うき草(1897)〈二葉亭四迷訳〉大団円「柔いフヱルト氈の靴」
② ①で作った帽子・ぞうり・敷物などの製品。
※道草(1915)〈夏目漱石〉一五「浅い鍋底の様な形をしたフエルトをすぽりと坊主頭へ頭巾のやうに被るのが」

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百科事典マイペディア 「フェルト」の意味・わかりやすい解説

フェルト

羊毛繊維を圧搾して布状にしたもの。原料をセッケン水などに浸してから蒸気,熱,圧力によって繊維を交錯密着させる。地厚で弾性,保温性に富むので敷物,芯地,スリッパなどにし,ほつれにくく整形しやすいので袋物,帽子,アップリケ用布などに適する。また織フェルトは紡毛織物を縮充仕上げしてフェルトの外観をもたせたもの。
→関連項目フェルトペン毛氈遊牧

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デジタル大辞泉 「フェルト」の意味・読み・例文・類語

フェルト(felt)

羊毛などの獣毛に蒸気・熱・圧力を加えて縮絨しゅくじゅうさせ、布状にしたもの。保温力・弾力性に富み、帽子・履き物・敷物などに使用。

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世界大百科事典 第2版 「フェルト」の意味・わかりやすい解説

フェルト【felt】

羊毛やその他の獣毛繊維は,水や弱アルカリ性溶液(セッケン液など)を含ませたり,熱,圧力,振動などを加えると,繊維が互いに密にからみ合い離れなくなる。この現象をフェルト化とか縮絨(しゆくじゆう)と呼んでいるが,獣毛とくに羊毛の表面をおおっているうろこ状の外皮(スケール)がこの縮絨作用に大きな役割を果たしている。フェルトとは,獣毛繊維を縮絨させ,布帛状に固着させ平面としたものを総称していう。用いる材料によって羊毛フェルト,山羊毛フェルト,兎毛フェルト,牛毛フェルトなどという。

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世界大百科事典内のフェルトの言及

【テント】より

…移動式の家屋で解体して持ち運びのできる簡易なものを指す。獲物や家畜を追って移動する狩猟民,牧畜民の住居として,北アジアの狩猟民や北米インディアンの用いた3本の木を組み合わせた形や2本ずつ組み合わせた上に1本を渡し,さらにその上に皮や草で編んだマットを覆ったものやモンゴル,キルギスの遊牧民のユルタゲルのような柳の枝などで組んだ笠状の屋根にフェルトをかぶせたもの,西南アジアの遊牧民の長方形のブラックテントなど,現在も用いられているものもあるが,一般的には日常的住居としてではなく,臨時の露営,キャンプ用として軍事,探検,登山などで用いられる布製のテントを指すと考えてよかろう。運動会用や工事用に用いる野外の日よけ,雨よけに用いるものもテントと呼んでいる。…

【もうせん(毛氈)】より

…フェルトに同じ。〈氈〉は敷物の意味で,元来,毛氈は毛の敷物一般を指すものであるが,今日ではいわゆる絨毯(じゆうたん)(カーペット)のような織物状のものは除き,獣毛に湿気,温度,圧力,摩擦などを加えて縮絨させ,無織のまま布状としたものをいう。…

※「フェルト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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