ファクシミリ(英語表記)facsimile

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精選版 日本国語大辞典 「ファクシミリ」の意味・読み・例文・類語

ファクシミリ

〘名〙 (facsimile)⸨ファクシミル⸩ 画像電送システムの一つ。文字、図形、写真などを電気信号に変換して電話回線で送り、受像側で原画の画像を再生する方式。また、その装置。ファックス。〔百万人の科学(1939)〕
※放送よもやま話(1981)〈坂本朝一〉I「放送をとりまく環境も、CATV、ビデオカセット、ファクシミリと愈々複雑化して来た」

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デジタル大辞泉 「ファクシミリ」の意味・読み・例文・類語

ファクシミリ(facsimile)

ラテン語の、同様に作れ、の意から》
文字・図形などを電気信号に変えて電話回線で送り、受信側で原画と同様な画像を紙面に再現する通信方式。また、そのための機械。ファックス。
書物・絵画・原稿などの、複製。複写。模写。複製本。コピー。

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改訂新版 世界大百科事典 「ファクシミリ」の意味・わかりやすい解説

ファクシミリ
facsimile

文字,図形,写真などの二次元画像を光電変換系により電気的信号に変換し,これを通信回線を通して遠隔地に送信し,受信側において記録変換系により電気信号から原画像を再生し,永久的に残る形の記録画像として原画像のコピーを得る方式を総称してファクシミリという。ファクシミリの語源はラテン語のfac simileで,英語のmake(it)similar(同形の物を再生する)に対応し,略してファックスfaxともいう。ファクシミリのうち白黒2値画像を取り扱うものを模写電送,または模写電信document facsimile,中間調を含む画像を取り扱うものを写真電送,または写真電信photograph facsimileといっている。ファクシミリは1843年イギリスのベーンAlexander Bainによって発明された。S.F.B.モースの電信機の発明に遅れること5年,A.G.ベルの電話機の発明に先立つこと33年である。日本では1928年に丹羽保次郎,小林正次らにより,外国とは独自のNE式写真電送装置が開発され,昭和天皇御大典の写真が京都から東京まで電送されたのがファクシミリの始まりとなっている。ファクシミリは当初,新聞ニュース写真の電送,警察・国鉄(現JR)などの指令通信,NTTの電報集配信業務,気象図の電送などの特定分野で使用されていた。初期の装置は操作が複雑で価格も高く,また伝送速度が遅く通信料金も高くついたため普及が遅れた。しかし72年に,それまで規制のあった電話網利用のファクシミリが自由に使えるようになり,ファクシミリ技術が急激に進展し利用分野も増え,一般事務用・家庭用として,急速に普及率が高まっている。

 ファクシミリ通信方式の原理を基本構成図(図1)で概説する。(1)まず,二次元画像を一次元情報に変換するため,原画像を碁盤の目のような多数の微細な区画(画素という)に分解する。これを送信走査といい,機械的または電子的走査機構が用いられる。代表的な機械的走査である円筒走査方式では,円筒にまきつけられた送信原稿を,円筒の回転と光学台の移動により走査する。電子的走査方式には,電子管による走査,ICイメージセンサーとレンズを用いる走査,密着形イメージセンサーを用いる走査などがある(図2)。ICイメージセンサーは微小光電変換素子を1列に配置したもので,レンズ系により原画像の画素と各素子を1対1に対応させて主走査を行い,一方,送信原稿の移動により副走査を行っている。密着形イメージセンサーによる走査方式は,原稿サイズと同一の大きさを有する光電変換素子を用い,光ファイバーなどの導光系を通して各画素と光電変換素子を1対1に対応させて主走査を行う方式で,レンズ系を必要としないため小型になるという利点を有している。(2)次に光源,光学系,光電変換素子よりなる光電変換系を通して,各画素の濃淡情報を電気的信号(画信号)に変換する。画信号は初期のファクシミリではアナログ信号として表現されていたが,現在は画素あたり1~nビットの白黒または多値ディジタル情報(カラー画像の場合は3nビット)として表現されている。光源としては,白熱電球,管状蛍光灯,発光ダイオードなどが用いられる。光学系にはレンズ,プリズム,ミラー,光ファイバーなどが用いられる。光電変換素子には,光電管-光電子倍増管,フォトダイオードフォトトランジスターなどがある。(3)画信号はMH・MRまたはMMR方式により冗長度を削減したのち,電話網を経由して通信する場合はモデムによりアナログ信号に変換して伝送し,公衆データ通信網あるいはISDNを通して通信する場合は,DSU(網終端装置)によりディジタル信号の速度を網のクロック速度に合わせてから伝送する。(4)画信号は通信回線を通して伝送され,受信側では変調あるいは符号化と逆の操作である復調あるいは復号化の操作を経て,元の信号が復元される。(5)復元された電気信号は,記録のために別の形のエネルギーに変換され,これにより画像が再生される。2値画像の記録には,熱記録ヘッドの発熱により感熱記録紙を発色させる感熱記録方式,静電荷を記録紙上に与え,これにトナーを含んだ微粉末を付着させて記録画像を得る静電記録方式,霧状にしたインクを記録紙に吹きつけるインクジェット記録方式(インクの種類を増やすことによりカラー記録も可能)などがある。2値記録を用いて中間調画像を復元する方式には,画像の濃淡を大小の点で記録する網点方式,ディザマトリックスを用いマトリックス内の黒画素の数を変化させて濃淡を示すディザ方式などがある。写真の記録には露光量に応じて感光材料が黒化する銀塩記録が用いられる。(6)受信された信号から画素を組み立てて,送信側と同じ二次元画像を再生する操作を受信走査と称し,送信側と同じく機械的または電子的手段が用いられる。静電記録の場合は1列に配列した針状電極を記録電極とし,これに駆動回路を接続して主走査を行い,記録紙の移動により副走査を行っている。感熱記録では,発熱抵抗体を1列に並べた感熱ヘッドに駆動回路を接続し主走査を行っている。(7)受信側で送信画像と同一の画像コピーを得るためには,送信走査と受信走査の速度と位相をあわせる必要がある。このことを同期という。商用交流電源を利用する電源同期,送信側から画信号と同時に同期信号を伝送する伝送同期,および送信,受信の両側に独立の発振器をおき,両発振器の周波数をよくあわせて使用する独立同期の3方式が用いられている。
執筆者:

ファクシミリはテレックスに比べて,漢字を多用する日本に適した通信手段として,早くからその潜在需要が指摘されながら,新聞社や警察などの特殊用途での利用にとどまり,〈眠れる巨人〉といわれてきた。これは前述のとおり1972年の公衆電気通信法の改正法施行による通信回線の開放(電話回線に送受話器以外の端末機の接続が認められたこと)と,ファクシミリ端末機の性能向上・低廉化によって,急速な普及をみせ,90年代後半には,事業所の約8割がファクシミリを利用し,家庭でのファクシミリ利用率も年々高まった。
通信
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファクシミリ」の意味・わかりやすい解説

ファクシミリ
ふぁくしみり
facsimile

文字、図形、写真などを電気信号に変換して遠隔地に電送し、相似な記録を得る通信手段、またはその装置。写真電送、写真電信、模写電送、または略してファックスfaxともいう。

[坪井 了]

歴史

ファクシミリそのものの歴史は古く、1843年イギリスのベインAlexander Bain(1810―1877)による発明にさかのぼり、電信に次ぐ古い電気通信手段である。日本では1928年(昭和3)に、丹羽保次郎(にわやすじろう)らによってNE式写真電送装置が開発されている。ファクシミリは当初は、新聞ニュース写真の電送、警察・国鉄などの指令通信、気象図の電送などの特定分野に限られ、一般に普及するには至らなかった。

 しかし、1972年(昭和47)の公衆電気通信法の改正、いわゆる回線開放により、電話網を用いたファクシミリ通信が可能となり、一般企業の事務用として急速に普及し始めた。最近では個人商店や一般家庭にまで広範に使用され、1984年には全国の設置台数が70万台を突破した。また、1981年からは、一度に複数の端末に送信できる「同報機能」や、相手が通話中の場合でも自動的に何度か送信を繰り返す「再呼(さいこ)機能」などのサービスが受けられる「ファクシミリ通信網サービス」も開始されている。

[坪井 了]

原理

送信原稿を走査して、電気的な信号に変換しながら画素に分解し、これを電送するとともに、受信側では送信側と同期をとりながら順次組み立て、記録画を得るものである。

 走査方法としては、機械的走査方式、電子的走査方式があるが、近年は帯域圧縮技術などの採用による高速走査が可能で、機械的な故障も少ない電子的走査方式が積極的に採用されている。電子的走査は、撮像管などの電子管走査方式と、半導体素子など使用する個体走査方式に大別されるが、近年は個体走査方式が用いられていることが多い。

 受信側で復原された電気信号は、記録のために別の形のエネルギーに変換され、その刺激によって記録媒体上に画像が再現される。エネルギー別に記録方式を分類すると、(1)電気エネルギーを利用する静電記録、放電記録、電解記録、通電感熱記録、(2)光エネルギーを利用する電子写真記録、(3)熱エネルギーを利用する感熱記録、熱転写記録、(4)その他のインクジェット記録などがある。

[坪井 了]

分類

国際電信電話諮問委員会(CCITT)ではファクシミリの電送などについて、世界の標準として次のように分類している。

(1)グループⅠ(G1) 電話回線を用い、送出する信号の帯域を圧縮する手段をもたない両側帯波変調を使用してA4判の原稿を約6分で電送する(6分機)。

(2)グループⅡ(G2) 電話回線を用い、符号化または残留側帯波変調などの帯域圧縮技術を使用してA4判の原稿を約3分で電送する(3分機)。

(3)グループⅢ(G3) 電話回線を用い、ファクシミリ信号の冗長性を抑圧する手段を用いてA4判の原稿を約1分で電送する。変調方式として帯域圧縮技術を使用してもよい(1分機)。

(4)グループⅣ(G4) 主として公衆データ網を用いるデジタルファクシミリで、冗長度抑圧符号化機能を有し、エラーフリー通信が可能である。

[坪井 了]

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百科事典マイペディア 「ファクシミリ」の意味・わかりやすい解説

ファクシミリ

ファックスfaxとも。文字や写真など静止画像を細かい画素に分解し,電気信号に変えて伝送し,受信側はそれを紙面上に再生する通信方式。ベルが電話機を発明する33年前の1843年,英国のベーンにより発明された。中間調のある写真電送と,文字や線だけの模写電送がある。電送速度によりA4判1枚の送信に6分必要なGI,3分必要なGII,1分のGIIIの規格が定められている。現在では,GIII規格のファクシミリがコピー,ワープロとともにOA機器の最も一般的なものとしてオフィスでも家庭でも広く用いられている。日本では当初電話網でファクシミリを使用することは規制されていたが,1972年の法改正により電話網が開放され,急速に普及した。一方で,電話回線利用のファクシミリより安価で効率的なサービスを受けられるファクシミリ通信網サービスも開始されている。1928年に丹羽保次郎,小林正次らにより,日本独自のNE式写真電送装置が開発され,昭和天皇御大典の写真が京都から東京まで電送されたのが始まりとされている。戦後では1959年朝日新聞社が東京〜札幌間約1000kmをファクシミリで結んだのが初め。→テレックス
→関連項目CCD事務機械走査双方向通信端末装置電子郵便電信ファックス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ファクシミリ」の意味・わかりやすい解説

ファクシミリ
facsimile; fax

文書,図面,写真など静止画像を電気信号によって遠隔地との間で送受信する通信機器。模写電送,写真電送とも呼ばれ,ファックスと略称される。一般的に,送信側がイメージスキャナによって画像を走査して画素に分解し,通信回線で送信,送られた電気信号を受信側で再現して印刷する仕組み。低廉さや安定性,速度,操作の容易さから,商用,家庭用を問わず広範に利用される。アメリカ合衆国のサミュエル・F.B.モースによる電信機の発明から 7年足らず,1843年イギリスのアレクサンダー・ベインが特許を取得。1851年ロンドンで開催された国際博覧会でイギリスのフレデリック・ベークウェルが初めて実演した。商業利用としては,1863年フランスのパリ―リヨン間で導入されたのが初。1902年にドイツのアーサー・コーンが写真の走査と電送に初めて成功し,コーンの装置は 1906年からベルリン―ミュンヘン間での新聞紙面用の写真の電送に使用された。日本では丹羽保次郎が NE式写真電送装置を開発し,1928年京都―東京間の電送に成功。一般への普及は電話回線網の発展を待たなければならず,1980年代であった。1974年に国際電信電話諮問委員会 CCITTが初の国際標準規格となるグループ1(G1)を定めた。G1はアナログの電話回線を用い,A4版の文書の電送に約 6分を要した。技術の発展に伴い 1976年にグループ2(G2)が,1980年にグループ3(G3)が,1984年にグループ4(G4)が制定された。G4はデジタル通信網の ISDNを用い,A4版の文書を 10秒以内で電送可能。近年は電話機や複写機と一体化したものが多く,電子メールで送受信できるインターネットファックスも利用される。(→電気通信

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「ファクシミリ」の解説

ファクシミリ

文字や画像のある原稿を静止画として伝送する装置。FAX。

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世界大百科事典(旧版)内のファクシミリの言及

【画像通信】より

…固体撮像デバイスでは,平面上に受光部と信号呼出し部からなる多数の画素を規則正しく並べ,受光部で光を電気信号に変換し,それを信号呼出し部で出力端に取り出している。ファクシミリでは,フォトダイオードを用いたMOS形イメージセンサー,光電変換と走査の機能を一体化したCCDセンサーなど固体撮像デバイスが用いられている。 面像信号変換装置は,画像情報を通信路を通して伝送するのにつごうのよい形の信号に変換して送信する装置である。…

【事務機械工業】より

…事務機械は,一般的に,文書(ドキュメント)作成,複写印刷,伝達,保管検索の四つの基本機能を単独または複合的に備えている。おもな事務機械には,複写機(コピー機),ページプリンター,ファクシミリ,日本語ワードプロセッサー(ワープロ),電卓,レジスターなどがある。また,パーソナル・コンピューター(パソコン)も,事務機械としてオフィスに導入されることが多い。…

※「ファクシミリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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