ピグマリオン効果(読み)ピグマリオンコウカ(英語表記)Pygmalion effect

デジタル大辞泉 「ピグマリオン効果」の意味・読み・例文・類語

ピグマリオン‐こうか〔‐カウクワ〕【ピグマリオン効果】

他人から期待されることによって学習・作業などの成果が上がる現象。米国の心理学者ローゼンタールが、教師からの期待の有無が生徒の学習成績を左右するという実験結果をもとに報告。名称はギリシャ神話ピグマリオンにちなむ。ローゼンタール効果。教師期待効果。

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最新 心理学事典 「ピグマリオン効果」の解説

ピグマリオンこうか
ピグマリオン効果
Pygmalion effect

教師が,児童・生徒の学業成績の達成についてある期待を抱き,その期待が実現するように行動することによって,実際に子どもの学業成績に向上が見られる現象をいう。自分が彫った彫刻に対して,強い愛情を込めた結果,その彫刻に生命が宿ったというギリシア神話の主人公ピグマリオンにちなんでローゼンソールRothenthal,R.によって名づけられた。

 教師が自分の児童・生徒の現在の学力将来の学力について行なう推論を教師期待とよぶ。そしてこのような教師期待が現実の児童・生徒の学業成績の伸びに影響をもたらすことを教師期待効果teacher expectancy effectという。このような教師期待効果が生み出されるプロセスについても検討されている(浜名外喜男,1988)。まず,教師は自らが抱いた期待に沿って児童・生徒に異なる行動(差別的行動)を取る。たとえば教師がある児童・生徒の学業成績は今後顕著に伸びるであろうという高い期待を抱けば,彼らに対してその期待に相応した行動(ほかの児童・生徒に比べて,①正答に対する賞賛が多い,②正答に至るまでのヒントを多く与える,③視線やほほえみを多く与えるなど)を取る(Brophy,J.E.,& Good,T.L.,1974)。次に,その児童・生徒はこのような教師の行動に内包された期待を推測・受容する。そして,児童・生徒が認知した教師期待は学習意欲や学業成績に反映する。また,このような教師期待形成の規定因については,①身体的魅力,②児童・生徒の素行,③事前に知らされた児童・生徒の情報,④人種,⑤社会階級などが挙げられている。

 一方,否定的な教師期待もある。すなわち,児童・生徒の学力に対する教師の低い期待が,結果的に学力を低いレベルに変化させてしまう。否定的な教師期待効果は,ゴーレム効果Golem effectとよばれる。とりわけ,児童・生徒の人種や社会階級など,ステレオタイプ的な期待形成をもたらす情報の影響を受けやすい教師には,ゴーレム効果がより生じやすい。このような教師は,そうでない者に比べて自分を理想的な人間であるように見せかける傾向があり,児童・生徒に対してもより独裁的・衝動的・差別的な態度で接するから,その先入観は,児童・生徒の評価に影響をもたらす可能性がある。

 ピグマリオン効果やゴーレム効果はハロー効果とも関連している。ハロー効果halo effectとは,人を評価する際に,特定のある望ましい(または望ましくない)特性をもっていると,確証もなしに評価対象者の他の諸側面までを望ましい(または望ましくない)とみなす傾向である。たとえば教育場面において,教師は知能の高い生徒を,よく努力し,社交的であり,活動的であるなど学力とはあまり関連のない特性で肯定的に評価する傾向にあることがわかっている(Brophy & Good,1974)。このように,ハロー効果は一種の先入観といえる。したがって,ハロー効果がゴーレム効果を増幅させないように留意する必要がある。 →教育評価
〔淵上 克義〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピグマリオン効果」の意味・わかりやすい解説

ピグマリオン効果
ぴぐまりおんこうか
pygmalion effect

期待することによって、対象者からやる気が引き出され、成績が向上する現象をさす心理学用語。キプロスの王ピグマリオンが自分で彫った象牙(ぞうげ)の乙女像を愛し続けた結果、乙女像が本物の人間になったというギリシア神話にちなんでこうよばれる。「教師期待効果」あるいは「ローゼンタール効果」ともいわれる。逆に、周りから期待されていない対象者の成績や成果が、平均値を下回る現象を「負のピグマリオン効果」「ゴーレム効果」とよぶ。

 ドイツ生まれでアメリカの教育心理学者ローゼンタールRobert Rosenthal(1933― )が1963年から1964年の一連の実験で、実際には無作為に抽出しながら、「将来、成績が伸びる子供」などと偽った情報を教師にあたる実験者に与えると、その無作為に抽出された初等教育段階の子供の成績が平均以上になる現象を報告した。この効果は、担任教師が子供に期待をかけてていねいに扱い、子供たちも期待されていることを意識するため、平均以上の成果が確認できると説明されている。他方、ピグマリオン効果は実際には確認できておらず再現性もないとして、教師や指導者の心構え程度の概念と考えるべきだとの意見がある。

[編集部]

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人材マネジメント用語集 「ピグマリオン効果」の解説

ピグマリオン効果

・人間は期待された通りに成果を出す傾向があることを指す。別名、教師期待効果(きょうしきたいこうか)、ローゼンタール効果と呼ばれる。
・教育心理学における心理的行動の1つで、1964年にアメリカ合衆国の教育心理学者ロバート・ローゼンタールがネズミを用いた実験で、「このネズミは
利口なネズミの系統」と学生に伝えたネズミと、「このネズミは動きが鈍いネズミの系統」と学生に伝えたネズミとの間で、迷路による実験結果の差を調べたところ、「利口な
ネズミ」と伝えられていたネズミのほうが結果が良かったという実験結果が得られた。この結果から、教師の生徒に対する期待や態度が、生徒たちの知能や学習の意欲に大いなる影響を与えるということが発見され、ギリシャ神話に因んでピグマリオン効果と名付けられた。

<名前の由来>
・昔、ギリシャのキプロス島に、ピグマリオンという名前の彫刻の上手な王様がいた。ある日、自分自身が象牙に刻んだ理想的な女性の彫刻像に、恋をしてしまった。この彫刻像を、生きた女性に変え、妻にしたいと熱烈に祈っているうちに、愛と美の女神アフロディーテがこの願いを聞き入れて、その彫刻に生命を与え人間にしたとい
う逸話。

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「ピグマリオン効果」の解説

ピグマリオン効果

アメリカの教育心理学者、ローゼンタールが発表した心理学用語。実験では、教師が期待をかけた生徒とそうでない生徒では成績の伸びに明らかな違いが見られたという。このことから、他者への期待値がその後の成長を決定づける大きな要因のひとつになると考えられている。なお、「ピグマリオン」はギリシャ神話の登場人物。自分の作った彫刻に恋をしたピグマリオンが、神に祈りを捧げて彫刻を人間にしてもらい、幸せに暮らしたという神話に由来している。

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