ピエロ(英語表記)pierrot

精選版 日本国語大辞典 「ピエロ」の意味・読み・例文・類語

ピエロ

〘名〙 (pierrot)
サーカスなどで、演技の合間に登場して道化を演じる者。また、その役。滑稽な化粧とだぶだぶの衣装で、おどけたしぐさや無言劇などをする。元来、イタリアの即興喜劇中の道化役フランスコメディパントマイムの役柄にとりいれられたもの。
即興詩人(1901)〈森鴎外訳〉好機会「色蒼ざめたる一童子『ピエロオ』(滑稽役)の服を着けて」
② 滑稽なことばや動作で人を笑わせる人。また、人の笑いものになるだけの人。
放浪記(1928‐29)〈林芙美子〉「何とコッケイなピエロの姿よ」

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デジタル大辞泉 「ピエロ」の意味・読み・例文・類語

ピエロ(〈フランス〉pierrot)

サーカスなどの狂言回しをつとめる道化役者。紅を入れた白塗りの顔、長袖の寛衣、こっけいな動作などを特徴とする。元来、イタリアの即興喜劇中の道化役がフランスのパントマイムの役柄に取り入れられたもの。
人前で、こっけいな振る舞いをする人。笑いものになるだけの人。
[類語](1道化師クラウンアルルカンハーレクイン

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改訂新版 世界大百科事典 「ピエロ」の意味・わかりやすい解説

ピエロ
pierrot

喜劇,パントマイムなどに登場する喜劇的な定型人物(役柄)の呼称。また日本では混同してサーカスのクラウン(道化)をこの名で呼ぶことも多い。

 コメディア・デラルテの召使役ペドロリーノPedrolino役が起源とされ,その後1547年の台本にはピエロの名で出現する。白い円錐形の帽子をかぶり,灰色の長いズボンをはいて,跳んだりはねたりするこの道化役は,アルレッキーノのような主役ではなく,軽い脇役であり,仮面をつけず,白っぽいメーキャップをするのが特徴である。フランスでは,たとえばモリエールの《ドン・ジュアン》(1665)に田舎言葉まる出しのまぬけな百姓役として登場するが,1673年,イタリア人俳優ジャラトーニG.Giaratoni(ジラトーネ)が,真っ白なダブダブの衣装に幅広の帽子をかぶったピエロとしてパリの舞台に登場して以来,ピエロは圧倒的人気を博し,定期市の娯楽の主役となった。

 同じイタリア喜劇に起源をもつ白塗り,白装束の召使にジリオがあるが,ジリオがフランス語化してジルgilleとなり,17世紀に〈間抜けのジル〉役としてフランスで人気者となった。18世紀に入るとピエロとジルは混同されて,有名なワトーの絵《ジル》に見るように,青白い犠牲者風の一つの悲劇的ピエロ像に変わってゆく。

 定期市の出し物を通じて民衆のもっとも代表的な喜劇的人物となったピエロは,19世紀に入って,パリの通称〈犯罪大通り〉と呼ばれたブールバール・デュ・タンプルの一角に1816年に開場したフュナンビュール座において,J.G.ドビュローの演じるパントマイムの主役として新しく生まれ変わる。ドビュローのパントマイムも,初期は他愛ないドタバタであったが,28年,C.ノディエが彼のために書いた《黄金の夢Le songe d'or》の成功によって,一躍T.ゴーティエ,J.G.ジャナンなど,知識人たちの注目を集めるようになり,ピエロは文学者など知識人の愛好の対象となった。映画《天井桟敷の人々》の中ではJ.L.バローが演じたドビュローの代表作《古着屋》(1842)は,舞台で涙を流す新しいピエロ像を生み,〈悲しきピエロ〉のイメージを定着させた。そしてこのイメージはT.deバンビルやJ.ラフォルグなどの詩《月光のピエロ》を通じて,〈涙を流すピエロ〉という新しい神話を生み出していった。これが今日のピエロ像の直接的な原型ということができよう。

 また,《古着屋》の主役ピエロの持つもう一つの側面,すなわち〈犯罪者のピエロ〉は,不安な潜在意識につき動かされる近代人のグロテスクさを持ち,そこにはドイツの劇作家G.ビュヒナーの《ボイツェック》などとの共通点が見いだせる。作曲家A.シェーンベルクの《ピエロ・リュネール(月に憑かれたピエロ)(1912)は,こうした世紀末の時代における病的な死の想念にとりつかれたピエロ像を描いて,ドビュローの〈白いピエロ〉に対して,〈黒いピエロ〉ともいうべき病める精神の道化を創造している。

 T.ゴーティエも,みずからピエロを主人公とした劇作《死後のピエロ》を書き,当時(19世紀中葉)の演劇の主流だったメロドラマやF.ポンサール風の悲劇よりも,バレエやパントマイムを評価した。言語を不可欠の表現手段とはしないこうした芸術への再評価は,のちJ.コポーからエティエンヌ・ドクルーを経て,M.マルソーにいたるパントマイム再評価の運動につながるとともに,バローなどを通じて,身体的表現を知的対象の主流におくA.アルトーの理論ともつながりを持つということもできよう。
道化
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピエロ」の意味・わかりやすい解説

ピエロ
ぴえろ
pierrot フランス語

西洋の道化役の一種。原型はルネサンス期のイタリアの即興喜劇コメディア・デラルテの、のろまでずうずうしい居候の道化役ペドロリーノ。17世紀後半にパリのイタリア人劇団によってフランス化され、白いだぶだぶの衣装を着て顔を白塗りにし、男子名ピエールの愛称を名のってボードビルやバレエで活躍した。19世紀にはパントマイムの名優ドビュローがこの役柄をさらに洗練して、まぬけだが繊細なロマンチストで恋に悩み哀愁に満ちたピエロ像を完成する。またサーカスでは、より活動的な役柄であるプルチネッラやアルレッキーノの要素が加えられ、イギリスのクラウンとも混ざり合って、ひだ付きの襟飾りと目や口の周りの赤い化粧が強調された道化となる。そのいずれもが多くの作家や画家の題材にもなり、典型として定着し、その伝統はジャン・ルイ・バローやマルセル・マルソーによって現代に伝えられている。

[安堂信也]

『田之倉稔著『ピエロの誕生』(1986・朝日新聞社)』

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百科事典マイペディア 「ピエロ」の意味・わかりやすい解説

ピエロ

道化役の一つ。コメディア・デラルテの召使役でまぬけなPedrolinoを起源とし,フランスのパントマイムでは,白塗りの顔,円錐形の帽子,だぶだぶの白服が特徴となる。日本ではサーカスに登場するクラウンと混同されることがある。→道化

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ピエロ」の意味・わかりやすい解説

ピエロ
pierrot

パントマイム,サーカス,喜歌劇などの登場人物。イタリアの 15世紀の即興劇における道化役ペドロリーノが 17世紀にフランス化されたもので,18世紀以来,軽業芸と結びついたパントマイムの重要な役となった。 19世紀前半パリの「綱渡り座」を中心に,J.ドビュローらが純白の衣装をまとい哀愁をこめた繊細な役として完成,その後サーカスに移って今日のクラウン (→道化 ) を生み出した。その後,無声映画のチャップリンや現代のパントマイム,バレエに受継がれ,また,しばしば絵画や音楽の題材となっている。

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デジタル大辞泉プラス 「ピエロ」の解説

ピエロ〔曲名〕

日本のポピュラー音楽。歌は歌手で俳優の田原俊彦。1983年発売。作詞:来生えつこ、作曲:網倉一也。

ピエロ〔キャラクター〕

サンリオのキャラクターシリーズのひとつ。ピンクの服を着たピエロがモチーフ。1984年登場。

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世界大百科事典(旧版)内のピエロの言及

【サーカス】より

…20世紀の道化では,3人のかけあいによるフランスのフラッテリーニ兄弟,スイス人でヨーロッパで活躍したグロック,伝統的な衣装や化粧をせずに演じたロシアのO.K.ポポフなどが有名。ピエロとは,15,16世紀にイタリアで盛んだったコメディア・デラルテという即興喜劇のなかのふられ役,失敗ばかりする役に起源を発している。17世紀後半にまっ白に塗った顔,丸ひざのついただぶだぶの白い上着というピエロ特有の姿が考案され,以後,道化役としてなくてはならない存在となった。…

【ドビュロー】より

…ボヘミアでアクロバットの芸人の息子として生まれ,一家と共にヨーロッパ中を巡業,1811年パリの定期市の舞台で初めて軽業の芸を見せる。16年パリのタンプル大通りに建てられたフュナンビュール座の出し物に加わり,白塗りの顔に白い衣装をつけたメランコリックなピエロの役柄を再創造して,パリ中の人気者になった。彼の芸は,後に彼の伝記を書いた文芸評論家・小説家のジャナンJules‐Gabriel Janin(1804‐74)の熱狂的支持の影響もあって,当時の多くの文学者をフュナンビュール座の後援者とさせ,C.ノディエやシャンフルーリなどが台本を提供するほどになった。…

【パントマイム】より

…【川添 裕】
[近代的パントマイムの誕生]
 19世紀に入ると,パントマイムは演劇史の表面に現れ,その全盛期を迎えるにいたった。近代的なパントマイムは,フランスにおいてピエロに扮した芸人の芸として発達した。当時の代表的演者はJ.G.ドビュローであり,彼はパリ・タンプル大通りのフュナンビュール座に出演して,巧みな動きで複雑な感情を描き出し,パリ中の人気者となった。…

※「ピエロ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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