ビオラ・ダ・ガンバ(読み)びおらだがんば(英語表記)viola da gamba イタリア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビオラ・ダ・ガンバ」の意味・わかりやすい解説

ビオラ・ダ・ガンバ
びおらだがんば
viola da gamba イタリア語
Gambe ドイツ語

ヨーロッパ16、17世紀に愛好されたリュート擦弦楽器トレブルテナー、バスからなる狭義のビオール族と同義であるが、バスだけをさす場合もある。「脚(あし)のビオラ」の意味で、単にガンバともよばれる。

 その形成発展については種々の説があるが、15世紀ころレベック(擦弦楽器)、ビウエラ(撥弦(はつげん)楽器)から発達して現れ、16世紀中ごろビオラ・ダ・ブラッチョとビオラ・ダ・ガンバに分かれたとされる。ビオール族の中心である後者は、バイオリン族となる前者とは構造上いくつかの相違点をもつ。すなわち、ビオラ・ダ・ガンバは胴がなで肩で厚く、裏板は平らで上端が棹(さお)に向かって傾斜している。響孔はC字型や火炎型が多く、棹は幅広く七つのフレットをもち、弦は6、7本で細い。大きさは歴史的にさまざまであるが、コンソート合奏)にはトレブル(弦長約36センチメートル、D3―G3―C4―F4―A5―D5に調弦)、テナー(弦長約47センチメートル、G2―C3―F3―A3―D4―G4に調弦)、バス(弦長約71センチメートル、(A1)―D2―G2―C3―E3―A3―D2に調弦)が多用される。

 構え方は、バスはふくらはぎで、テナーはももで挟み、トレブルは膝(ひざ)の上にのせて、いずれも左手で垂直に支える。弓はバイオリンなどと異なり、下から手のひらを上にペンを持つように構え、中指で毛を手前に押して張力を変えながら水平に運ぶが、弓を押し出す上げ弓でアクセントがつけられる。こうした持ち方と運弓法のため、弓に腕の重みがかからず、大きな音や強いアクセントを出すことはできない。しかし、弦の張力が弱くフレットがあるため、左手は指の形を気にせずに、速い楽句も容易である。また、長3度を挟んだ4度の調弦法はリュートと同じであり、同じ指づかいで奏することも可能である。

 この楽器は15世紀から合奏に用いられていた記録があるが、最初の合奏曲と独奏曲はドイツのゲルレの曲集(1532)とイタリアのガナッシの教則本(2巻。1542、1543)にみられる。16世紀にイタリアの音楽家が伝えたガンバ音楽はイギリスで黄金時代を迎え、シンプソンらの優れた教則本をはじめ、タリスバードギボンズファンタジアや、ジェンキンズパバーヌからパーセルに至る多くの名曲がつくられた。17世紀にはフランスで人気を獲得し、J・J・ルソーの論文クープラン、ラモーの組曲や室内楽がつくられ、マレー、フォルクレーらの名手も生まれた。このほか、宗教曲に用いたドイツをはじめ全ヨーロッパに広まるが、しだいにバイオリン族の楽器が多用されるようになり、18世紀後半のアーベルが最後の名手となった。20世紀初めからドルメッチとその弟子たちによって正確な復原が企図され、グリュンマーらの名手も輩出、近年では欧米各国や日本にもガンバ協会が設立され、演奏活動も盛んに行われている。

[横原千史]

『Nathalie DolmestonThe Viola da Gamba(1962, New York)』


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百科事典マイペディア 「ビオラ・ダ・ガンバ」の意味・わかりやすい解説

ビオラ・ダ・ガンバ

15世紀末に誕生した弦楽器の一族の総称。フランス語でビオル,英語でバイオルとも呼ばれる。今日では俗に,その中のバス音域のもの(バス・ガンバ)をいう場合も多い。指板にギターのようなフレットの付いた弓奏弦楽器で,弦は通常6本。語義は〈脚のビオラ〉で,チェロのような床に突き立てるエンド・ピンはなく,大小の楽器いずれも立てて両膝(ひざ)の間に保持しながら演奏する。弓の持ち方もバイオリンやチェロとは異なり,東洋の胡弓(こきゅう)などと同様,掌(てのひら)を上にして毛の張られた側から握られる。18世紀後半にすたれて以来忘れられていた楽器だが,他の古楽器(オリジナル楽器)とともに20世紀になってよみがえった。→古楽ビオラ・ダモーレ
→関連項目アルノンクールビルスマ

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