ヒーニー(英語表記)Heaney, Seamus

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒーニー」の意味・わかりやすい解説

ヒーニー
Heaney, Seamus

[生]1939.4.13. 北アイルランド,キャッスルドーソン近郊
[没]2013.8.30. アイルランドダブリン
アイルランドの詩人。フルネーム Seamus Justin Heaney。カトリック教徒の農家の子として生まれ,1961年ベルファストのクイーンズ大学を卒業。中等学校の教壇に立ちつつ,母校のほかベルファストおよびダブリンの大学で講師を務めた。1979年ハーバード大学客員教授,1985年正教授。1989~94年オックスフォード大学教授を兼任。1966年の第一詩集ナチュラリストの死』Death of a Naturalistと『闇黒に通じるドア』Door into the Dark(1969)では,伝統的なスタイルをかりて北アイルランド地方の暮らしや生物の生態を生き生きと描き,土地への愛着ことばへの信頼をうたった。『冬を切りぬける』Wintering Out(1972),『北』 North(1975)の頃から,神話や伝説に仮託しながら,北アイルランドにおける宗教対立や流血事件といった過酷な現実と,そこに生きる人間の苦悩を描き出している(→北アイルランド紛争)。その後の『野外調査』 Field Work(1979),『ステーション・アイランド』Station Island(1984),"The Haw Lantern"(1987),"Seeing Things"(1991)といった作品も,過去の幻想的な説話を通して,漂泊せざるをえない現代人の不安な運命を繊細でシンプルな語り口で語っている。ほかに,『水準器』The Spirit Level (1996,ウィットブレッド文学賞),『郊外線と環状線』District and Circle(2006,T.S.エリオット賞),『人間の鎖』Human Chain(2010),古英語で書かれた叙事詩を翻訳した『ベーオウルフ』Beowulf(1999,ウィットブレッド文学賞)などがある。詩や詩人に関する評論のほかエッセーも数多く著している。アイルランドの現在に生きる過去や神話を文学の位置に高めたことに対し,1995年ノーベル文学賞を授与された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒーニー」の意味・わかりやすい解説

ヒーニー
ひーにー
Seamus Heaney
(1939―2013)

アイルランドの詩人。北アイルランドのカトリック教徒の農家に生まれる。ベルファストのクイーンズ大学を卒業後、同大学で講師を務めていたが、1972年1月の「血の日曜日事件」に衝撃を受け、アイルランド共和国に移住。ハーバード大学上級客員講師、オックスフォード大学詩学教授などを歴任した。1966年に発表した第一詩集『ナチュラリストの死』は、少年時代の思い出やアイルランド農民の風俗など土への愛着を歌いあげた。1975年の『北』は、古代社会の犠牲祭と現代の北アイルランド紛争を重ね合わせ、民族悲劇を象徴的に表現した。ほかに『闇(やみ)に通じるドア』『ステイション・アイランド』『さんざしのランタン』『水準器』『郊外線と環状線』などの詩集がある。アイルランドの国民的詩人である。1987年と1990年に来日。1995年ノーベル文学賞を受賞。

[編集部]

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百科事典マイペディア 「ヒーニー」の意味・わかりやすい解説

ヒーニー

アイルランドの詩人。1995年,ノーベル文学賞受賞。処女作《あるナチュラリストの詩》(1966年)などでは,少年時代の記憶をもとに,田園の生活習俗,土への愛着を歌っていたが,《北》(1975年)では,古代遺跡の発掘現場を舞台に,現代北アイルランドの政情を考察する。《サンザシ提灯》(1987年)の頃より,風景描写は,寓話的,神話的,幻想的になっていく。他に,中世ゲール語物語を現代英語訳した,《放浪するスウィーニー》(1983年)などがある。

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