ヒルシュスプルング病
ヒルシュスプルングびょう
Hirschsprung's disease
(子どもの病気)
慢性の便秘によって大腸が拡張する病気です。
大腸や小腸など消化管の壁のなかには神経節細胞があります。その細胞の刺激により、蠕動運動と呼ばれる腸管の伸び縮みが起こり、口から摂取した食物は腸管を経由して消化され、便となって肛門から排泄されます。
ヒルシュスプルング病は、この神経節細胞が先天的に欠如しているため、蠕動運動が起こらず慢性の便秘になり、大腸が拡張します。
生まれてすぐの赤ちゃんでは、胎便の排泄が遅れることが最初の症状です。排便、排ガスができず、腹部は風船のように膨満してきます。哺乳力が低下し、濃緑色の胆汁の色に染まったものを嘔吐したり、症状が進むと体重増加不良や栄養不良が現れてくることもあります。
胎便が排出された時期はいつか、乳児ではおなら(ガス)が出ているか、何をどのくらい食べているか、便の性状と排便の頻度などを確認します。その後、腹部膨満の有無や、肛門から指を入れてガスの噴出や便の有無を確認します(直腸指診)。
腹部X線検査を行い、拡張した腸管ガス像が腹部全体に認められ、小骨盤内の腸管ガス像が欠如していればヒルシュスプルング病を疑い、さらに注腸造影検査を行います。この病気では造影剤を注入した際、大腸の肛門側が狭くなっていることと口側の拡張および口径差を確認します。
さらに直腸肛門内圧検査を行い、直腸肛門反射(直腸が拡張した際に認められる肛門管圧の下降)の欠如を確認します。また、直腸粘膜の生検を行い、腸管壁内の神経節細胞の欠如に伴う外来神経の増加を組織学的に確認します。
腸管壁の神経節細胞が欠如した領域が非常に狭い場合は、浣腸などでコントロールできることもありますが、ほとんどは腸管の無神経節領域を切除し端々をつなぎ合わせる手術が必要です。無神経節領域の広さにより、根治手術を行う場合や、人工肛門や腸瘻を造設する場合もあります。近年は、腹腔鏡補助下手術や経肛門手術が導入されています。
がんこな便秘が続く場合は小児科医に相談してください。
大塚 宜一
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
ヒルシュスプルング病
ひるしゅすぷるんぐびょう
新生児にみられる代表的な小児外科疾患で、生後早期から始まる便秘、腹部膨満、胆汁性嘔吐(おうと)など腸閉塞(へいそく)症状を主訴とする。デンマークの小児科医ヒルシュスプルングHarald Hirschsprung(1830―1916)により記載されたので、この名でよばれる。原因は、腸の蠕動(ぜんどう)運動をつかさどる腸管壁内の神経節細胞が、部分的に欠如していることによる。腸蠕動がないため腸内容を肛門(こうもん)側に輸送することができず、腸閉塞症状をきたす。この無神経節腸管はかならず肛門を含み、口側への長さは症例によって異なり、なかには回腸末端まで無神経節部の及ぶこともある。古くは本症を巨大結腸症とよんでいた。しかし、それが下方にある無神経節腸管にうちかつべく、上方の正常腸管が異常に蠕動を高めたための二次的巨大結腸であることがわかり、現在ではこの病名は使われない。治療は、病気の本態である一見正常な肛門側の無神経節腸管を切除し、正常神経節腸管を肛門と吻合(ふんごう)する手術を必要とする。しかし新生児期は、安全のため、まず人工肛門を正常神経節結腸に置くことが多い。
[戸谷拓二]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
デジタル大辞泉
「ヒルシュスプルング病」の意味・読み・例文・類語
ヒルシュスプルング‐びょう〔‐ビヤウ〕【ヒルシュスプルング病】
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
世界大百科事典 第2版
「ヒルシュスプルング病」の意味・わかりやすい解説
ヒルシュスプルングびょう【ヒルシュスプルング病 Hirschsprung’s disease】
先天性巨大結腸症congenital megacolonともいう。便秘を主症状とする先天性の腸閉塞症で,1886年ヒルシュスプルングHarald Hirschsprung(1830‐1916)により初めて報告されたので,この名がある。原因は大腸下部の神経節細胞が先天的に欠如しているためで,病変部の腸管が持続的に収縮して狭くなり,腸内容の通過が妨げられることによる。出生数5000に1例の割合でみられ,男女比は5対1である。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報