ヒトメタニューモウイルス

内科学 第10版 の解説

ヒトメタニューモウイルス(ー 鎖 RNAウイルスによる感染症)

(5)ヒトメタニューモウイルス(human metapneu­movirus: hMPV)
概念
 ヒトメタニューモウイルスはパラミクソウイルス科メタニューモウイルス属に属するウイルスで,急性呼吸器感染症(ヒトメタニューモウイルス感染症)を起こすウイルスとして2001年に発見された.4つのおもな遺伝子型が認められているが,ヒトにおもに感染するのはA型とB型である.毎年同時に流行している.飛沫感染,接触感染で感染する.
疫学(表4-4-8)
 ヒトは唯一の感染源である.hMPVは少なくとも1958年からは存在したウイルスで,世界に広く分布している.RSウイルス罹患年齢よりも少し遅れて感染する.1~2歳児の抗体保有率は50%である.日本を含めた温帯地方では,5~10歳までにすべての子どもは感染している.流行時期は冬から春にかけてであり,RSウイルス流行時期と重なっている.小児呼吸器感染症の5~10%に関係している.一生を通じて繰り返し感染する.RSウイルスと同様に,乳幼児だけではなく高齢者の呼吸器感染症の原因ウイルスとして重要である.
病態生理
 潜伏期間は4~6日間である.まず上気道粘膜に感染する.乳幼児や高齢者では感染性分泌物を下気道に吸引して気管支炎細気管支炎症状が出現する.ウイルス排泄期間は,基礎疾患のない乳幼児では1~2週間である.重症の免疫抑制者では長期間ウイルスを排泄している.
臨床症状
 上気道粘膜に感染したときの症状は,水様性鼻汁,咳である.細気管支炎を発症すると,発熱,喘鳴,陥没呼吸などの症状が出現する.発熱は数日間持続する.慢性肺疾患児,未熟児,骨髄移植などの免疫不全状態の者,高齢者などでは重症化する.臨床的にRSV感染による下気道炎との鑑別は困難である.hMPVによる細気管支炎とその後の喘息発症との関係は不明である.
検査成績・診断
 一部の研究機関でウイルス分離,PCR法によるウイルスRNA検出,ウイルス抗体検査が行われている.カラムクロマト法を用いた迅速診断試薬が開発されている.乳幼児が冬から春にかけて喘鳴,発熱を呈し,RSウイルス迅速診断検査が陰性のときhMPV感染を疑う.
治療・予防
 特異的な抗ウイルス薬がなく,対症的に治療する.ステロイド全身投与の有効性,気管支拡張剤吸入療法やロイコトリエン拮抗薬の有効性は確立されていない.hMPV感染予防の特異的方法はなく,手指衛生が感染予防の基本である.[庵原俊昭]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

知恵蔵 の解説

ヒトメタニューモウイルス

呼吸器感染症の原因となるウイルスの一種。2001年に発見された。例年、主に冬から春にかけて流行する。1歳〜3歳の幼児を中心に感染が見られるが、大人にも感染し、乳幼児や高齢者では重症化することもある。一度の感染では十分な免疫が得られず、感染を繰り返す傾向にある。飛沫感染と接触感染で広がり、4~6日程度の潜伏期間を経て、咳、鼻水、発熱などの風邪に似た症状が現れる。悪化すると気管支炎や肺炎につながる恐れもあるため、早めの受診が重要とされている。

(2020-2-4)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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