ヒシクイ(読み)ひしくい(英語表記)bean goose

改訂新版 世界大百科事典 「ヒシクイ」の意味・わかりやすい解説

ヒシクイ (菱喰)
bean goose
Anser fabalis

カモ目カモ科の鳥。日本ではマガンに次いでふつうに見られるガンである。ユーラシア大陸北部およびグリーンランド繁殖し,冬季はヨーロッパ中・南部やアジア東部に渡る。日本にも冬鳥として飛来し,広い湖沼湿原水田などにすむ。渡りのときには乾燥した畑地にも降りる。沼地に生えているヒシの実を好んで食べるのでこの名がある。イギリスでは豆の収穫期に渡来するところから,bean gooseの名がつけられた。全長約83cm。マガンより少し大きい。全身暗褐色で,腹は多少白っぽい。くちばしは太く,黒色橙黄色の帯がある。脚は橙黄色。かつては日本全国に渡来したが,現在では東北および北陸地方で数千羽が越冬するだけとなった。国の天然記念物となっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒシクイ」の意味・わかりやすい解説

ヒシクイ
ひしくい / 菱喰
bean goose
[学] Anser fabalis

鳥綱カモ目カモ科の鳥。全長75~100センチメートル。ヨーロッパ、シベリア北部のツンドラ地方で繁殖(森林地方では亜種のオオヒシクイが繁殖)、温帯に渡り、越冬する。日本にもマガン同様に多く渡来するが、両種は別群をなし、嘴(くちばし)がマガンより強くハス根、ヒシの実などを好むが草も食べる。以前は千葉県の湖沼を主越冬地とし、埼玉県の耕地、岐阜県下池(しもいけ)などにも渡来したが、開拓のため放棄し、宮城県伊豆沼、秋田県八郎潟干拓地、石川県大聖寺(だいしょうじ)などに渡来地が限定されてきた。中継地として北海道サロベツ原野、石狩平野などにも渡来する。ほかにヒメヒシクイ、コザクラバシガンなどがあり、計6亜種とされる。1971年(昭和46)に国の天然記念物に指定されている。

黒田長久


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒシクイ」の意味・わかりやすい解説

ヒシクイ
Anser fabalis; bean goose

カモ目カモ科。全長 78~100cm。背面は黒褐色で黄白色の淡い横斑がある。下面は胸以下がくすんだ白色,脇が黒褐色である。は黒色で先端近くが橙黄色,脚も橙黄色。ユーラシア大陸の北部で繁殖し,5亜種に分けられているが,日本にはヒシクイ A. f. serrirostris とオオヒシクイ A. f. middendorffii の 2亜種が冬鳥(→渡り鳥)として渡来する。越冬地は農耕地,湖沼,干潟など。渡来数は一時たいへん減少したが,1971年にマガンコクガンとともに国の天然記念物に指定され,その後保護関係者の努力もあり増加した。(→ガンカモ類

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百科事典マイペディア 「ヒシクイ」の意味・わかりやすい解説

ヒシクイ

カモ科の鳥。翼長50cm。全身暗褐色で羽縁は淡色。マガンに似るが,やや大きい。ユーラシア大陸北部で繁殖し,冬は南へ移る。日本には冬鳥として全国の広い湖沼,干潟等に渡来し,夜間農耕地等で水草の茎や葉を食べる。以前は多数渡来したが現在は減った。飛ぶときに直線またはV字形の隊列を作り,グワン,グワンと大声で鳴く。絶滅危惧II類(環境省第4次レッドリスト)。
→関連項目片野鴨池ガン(雁)化女沼

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