パーライト
ぱーらいと
pearlite
(1)α(アルファ)鉄の結晶(フェライト)と炭化鉄Fe3Cの結晶(セメンタイト)とが交互に重なり合った層状組織をパーライト組織という。この組織の断面を平滑に磨き、硝酸などでエッチングすると、フェライトだけが腐食され、セメンタイトは腐食されないので、顕微鏡で拡大すると、層状の模様が観察される。また肉眼では、真珠(パール)のように輝いて見えるのでパーライトとよばれている。
パーライトはγ(ガンマ)鉄に炭素の溶け込んだ固溶体(オーステナイト)の共析分解によって形成される。すなわち、鉄と炭素との合金を約900℃に加熱すると、鉄は面心立方晶のγ鉄となり、炭素原子は鉄原子の間隙(かんげき)に溶け込む。これを冷却すると、鉄の結晶構造が体心立方晶に変化してα鉄の結晶(フェライト)になる。この結晶には炭素原子はほとんど溶け込めないので、炭化鉄の結晶(セメンタイト)が同時に発生し、その結果、フェライトとセメンタイトが交互に重なり合ったパーライトが形成される。オーステナイト状態からの冷却を速くすると、パーライトの層状組織が細かくなる。とくに細かなパーライトは、トルースタイトとよばれている。
(2)建築材料にパーライトpearliteとよばれるものがある。これは真珠岩(火山岩の一種)を素材とした多孔質の焼成品で、密度が小さくて、断熱性が優れているために、床材や壁材に使用される。パーライト・コンクリートはセメントにパーライトを混合して、軽量化を図ったものである。
[西沢泰二]
(3)真珠岩を粉砕し、高温処理して得られる焼成物としてのパーライトは、多孔質で通気性、保水性がよいことから、土壌改良資材、鉢物用土、挿木用土など園芸用配合土として利用されている。
[堀 保男]
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パーライト
pearlite
炭素を含む鋼のオーステナイトがフェライトとセメンタイトの薄片層状に共析した組織。セメンタイトの層が乱れたものを擬似パーライト,球状になったものを球状パーライトという。普通の標準状態の鋼中には必ず存在する組織で,フェライトの粘靭性とセメンタイトの硬さが相まって鋼によい機械的性質を与える。炭素 0.8%前後の炭素鋼 (共析鋼) では全部がこの組織で,硬さはブリネル硬さ HB 230程度である。パーライトすなわち真珠組織という美しい名は,薄片組織の厚さがμm程度に薄いため,昔の低倍率の顕微鏡では分解能不足で識別できず,薄片層の凹凸で光線が分光されて試料を動かすと色彩が真珠のように変るためにつけられたのである。トルースタイト,ソルバイトはパーライトの一層微細な組織である。
パーライト
pearlite
黒曜石,真珠岩などのガラス質火山岩を 1000℃ぐらいに焼いて膨張させた球形の小さな砂利。目方が普通の砂の 10~20%ぐらいで,セメントと混合してパーライトモルタルをつくる。これは軽量であるうえに断熱性,吸音性にすぐれ,断熱材,軽量骨材,軽量プラスターなど建築用材として用いられる。また保水性があり,養分を含まないので,園芸用の育苗にも使用される。
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パーライト
パーライト
pearlite
オーステナイトがフェライトとセメンタイトとに共析分解するときに形成される層状の共析晶組織.炭素鋼では共析組成C 0.765質量%,共析温度727 ℃ である.オーステナイトの分解は過冷することができるが,共析分解温度が低いほど層間隔は狭くなる.この層間隔はパーライト組織の機械的性質を大きく左右する.層間隔が狭いほど,引張強さは大きく,絞りもやや大きくなる.細かなパーライト組織はソルバイト,トルースタイトとよばれていたが,微細パーライトとよぶのが適切である.
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デジタル大辞泉
「パーライト」の意味・読み・例文・類語
パーライト(pearlite)
1 炭素鋼の組織の一。フェライトとセメンタイトとの共析晶で、交互に重なった層状をなし、真珠のような光沢がある。
2 真珠石。
3 真珠石・黒曜石などを粉砕して焼成したもの。軽量で断熱性・吸音性に富み、建築骨材に使用。
4 真珠石を砕いて高温で焼成したもの。白色、多孔質で、園芸の土壌改良材や栽培用土に使用。保水・通気性がよいが、軽いので流出しやすい。
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パーライト
〘名〙 (perlite)
① 真珠質。
② 炭素鋼の組織の一つ。フェライトとセメンタイトが層状に交互に存在するもの。
③ 防火・耐熱に用いる建材の一つ。黒曜石、真珠石の破砕片で、壁間に入れたり、耐火モルタルの骨材に用いたりする。
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パーライト【perlite】
(1)流紋岩質のガラス質火山岩で,多数の同心球状の割れ目が発達する。真珠岩ともいう。化学成分として,SiO2,Al2O3,K2Oに富む岩石であるが,さらに2~5%のH2Oを含有することも特徴である。色は灰白であり半透明ガラス状光沢を示し,貝殻状の破面を表す。秋田県,福島県,長野県などに産地が知られている。(2)前記(1)の一部の産地のものは,その粉砕物を焼成すると含有されていた水分を放出して軽石状に膨張した焼成物が得られる。
パーライト【pearlite】
炭素鋼や合金鋼をオーステナイト状態からゆっくり冷却するとき,650~600℃で変態を起こして生ずるフェライトとセメンタイトが交互に層をなす組織。この変態をA1変態という。この組織は斜光線を用いて顕微鏡観察すると真珠(パール)のような光沢を示すところからパーライトと呼ばれる。冷却速度が速くなると生成温度が下がり,パーライトの層間隔は狭くなって硬さを増す。炭素量がおよそ0.8重量%の鋼(共析鋼と呼ばれる)はオーステナイトから直接パーライトが生じるが,炭素量がそれより少ない鋼(亜共析鋼)ではまずフェライト(初析フェライト)が生じ,その後オーステナイトからパーライトが生じる。
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世界大百科事典内のパーライトの言及
【園芸】より
…大量の切花,鉢物を合理的に生産するために優良種苗を入手し,ビニルハウスや温室をもち越冬期間を短縮する手段がとられている。新技術もとり入れられて栽培用土は赤玉土を基本とはするが,パーライト,バーミキュライト,ピートモスの利用が大きい。素焼鉢に代わってビニル鉢,木箱は発泡スチロール箱に代わり,ときには土なしの水耕栽培による切花も生産されている。…
【配合土】より
…配合土に利用する資材は理化学性がすぐれているだけでなく,病虫害のおそれがなく,軽くて,しかも安価で大量に入手できるものでなければならない。そこで,砂,腐葉土,ピートモス(湿地にミズゴケが堆積してできた泥炭),バーミキュライト(ある種のケイ酸塩鉱物をごく短時間,1000℃で加熱したもの),パーライト(火山岩の一種を1000℃前後の温度で焼いたもの),おがくずなどを用いることが多い。これらの資材の配合割合は栽培者の経験によって決めていたが,近年では,多くの種類の植物に共通して利用できる配合土の調製法が考案されている。…
※「パーライト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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