日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
パーセル(Henry Purcell)
ぱーせる
Henry Purcell
(1659―1695)
イギリスの作曲家。ロンドンに生まれたと推定される。10歳ごろ(1669/70)王室礼拝堂の少年聖歌隊の一員となり、ヨーロッパ大陸の音楽になじんだ。変声後、聖歌隊を退き、王室の楽器管理者の助手をつとめ、1674年、ウェストミンスター寺院のオルガン調律を受け持つかたわら通奏低音法について学び、また写譜の仕事を通じて、タリス、バード、ギボンズなどのイギリス・ルネサンス様式の音楽を研究した。77年わずか18歳で王室の管弦合奏隊の常任作曲家となり、79年からはウェストミンスター寺院のオルガン奏者に任命される。翌80年か81年にフランシスと結婚、以後82年からは王室礼拝堂のオルガン奏者も兼任、83年には王室の楽器管理者に任ぜられるなど職歴、作曲活動ともに充実するが、95年にわずか37歳でロンドンに没した。
当時のイギリスは1660年の王政復古を機として、イタリア、フランスの新しいバロック様式の音楽を取り入れるのにきわめて積極的であった。パーセル自身はイギリスの古いポリフォニー様式をも受け継ぎ、この両者の融合は83年出版の『三声のソナタ』などに示される。彼の作品群において重要な地位を占めるバース・アンセム(合唱、独唱、器楽による宗教音楽)の教会カンタータ的形式や晩年の劇作品における華麗なイタリア風の声楽部分が示す大陸的要素と、英語のテキストの抑揚およびその意味する内容に即した音楽書法を生み出すことにより、パーセルは大陸的技法と自国語である英語とを同化させることに成功した。
[南谷美保]
『J・A・ウェストラップ著、松本ミサオ訳『パーセル』(1989・音楽之友社)』