バードウォッチング(英語表記)birdwatching

精選版 日本国語大辞典 「バードウォッチング」の意味・読み・例文・類語

バード‐ウォッチング

〘名〙 (bird watching) 山野や森林などの野外へ出かけて、自然の中の野鳥を、双眼鏡などで観察し、楽しむこと。野鳥の観察。探鳥。〔暮しの思想(1971)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「バードウォッチング」の意味・わかりやすい解説

バードウォッチング
birdwatching

自然の中であるがままの野鳥の姿や声を,鳥を傷つけたり驚かしたりすることなく観察し,観賞して楽しむ行為をいう。日本語では〈探鳥〉ないし〈探鳥会〉なる訳語があてられるが,このことばは,1934年中西悟堂が〈日本野鳥の会〉を創立したとき,〈野鳥〉とともに初めて用いたものである。〈日本野鳥の会〉の探鳥会が初めて行われたのは同年6月3~4日で,富士山麓の須走(すばしり)に,当時の文壇,画壇,歌壇の重鎮,著名な民俗学者,言語学者,動物学者,会社経営者,貴族およびその家族などが参加して行われた。

 中西が探鳥会を始めた動機は,当時全国的に流行していた飼鳥ブームに対する批判であった。天台の僧籍にあった中西は,自由な天地に生活する野鳥を籠に閉じこめて飼う陰湿な享楽を腹に据えかねて〈野の鳥は野に……,鳥を楽しみたいなら自然の中で……〉と叫んで,野鳥の会を起こし,探鳥会を実践した。これは東洋風の自然観や仏教的な生命観に基づく異色な運動であって,日本の自然保護思潮の中に一つのエポックを画するものと考えることができる。こうした形での探鳥会の性格が,その後の〈日本野鳥の会〉活動の文化性を高く位置づけはしたが,その高踏的な雰囲気は庶民性に欠けるきらいがあって,本当に鳥の好きなごく一部の人の間に限られ,長い間,探鳥の普及はあまり振るわなかった。

 70年代から,経済成長によって生じたゆとりから余暇をどう過ごすかへの関心が高まったが,そのころ,欧米から帰国したエリートの間から,かの地でバードウォッチングなる野外趣味に招かれて,当惑もし,新鮮な印象を受けたという一種のカルチャー・ショックが話題となった。それがきっかけとなって,従来の〈探鳥〉が,かたかなでバードウォッチングと書かれるようになるとともに,急激にバードウォッチャー(探鳥を楽しむ人)の数が増加した。例えば〈日本野鳥の会〉が財団法人となった70年ころの会員は2500人前後であったが,機関誌の《野鳥》にもしばしばバードウォッチングの語が登場するようになった2006年現在では,会員は5万人を超えている。さらに野鳥の会に所属しないバードウォッチャーは優に10万人をこえるといわれ,潜在人口は100万人に及ぶともいわれる。これらのバードウォッチャーのほとんどは,都市在住の,自然疎外の著しい環境に住む人々で,その指向も〈健康のため〉など,単に〈鳥が好き〉だけでない多面性をおびている。

 バードウォッチングの元祖はヨーロッパで,渡り鳥の渡来を見張って(watching),これを狩猟することに端を発しているらしい。しかし,バードウォッチングの語が一般に流布するのは20世紀になってからである。それ以前には,バーディングbirdingの語が使われていたようである。ただし,シェークスピアの《ウィンザーの陽気な女房たち》の中にある〈夫は今朝バーディングに行った〉と妻が嘆くくだりのバーディングは,今日のバードウォッチングなのか,鳥の狩猟なのかはよくわからない。鳥の野外観察は18世紀末あたりから本格化し,ギルバート・ホワイトやR.M.ソローの博物誌からその一端をうかがうことができる。現在,欧米ではバードウォッチングは,ゴルフやテニスに匹敵する高級な野外趣味として,多くの人々に親しまれている。一方で,鳥の行動や生態研究の基礎データの提供という面でも大きな役割を果たしている。しかし,アメリカでバーディングというと,どちらかといえば,珍鳥希種の記録マニア的あり方をいうことが多く,陰語でガールハントの意味にも使われる。

バードウォッチングは,制服もルールも高価な用具も不要である。極端にいえば,手帳と筆記用具,7~9倍くらいの双眼鏡と鳥類識別用の図鑑があればよい。20~40倍の望遠鏡(三脚とも)があればなおよい。〈日本野鳥の会〉は全国でも89の支部をもち(2006年現在),それ以外にも各地域に探鳥会を行う組織があるので,そういうグループに所属して,よい指導者について,数しげく野鳥に接し,自分のホームグラウンドをもって,きちんと記録を積み上げるのが上達のこつである。

 鳥は色彩感覚が発達しているので,赤や黄色のはでな目だちやすい服装は厳禁である。大きな物音,大声,大きな動作もいけない。足ごしらえは,水陸両用,晴雨兼用靴を厚手の靴下とともに用いるのがよい。まず身近なスズメムクドリカラスなどを確実に覚えて,これを比較の基準とすればよい。一般に1日のうちでは早朝,日の出前後2時間くらいが,鳥を見るのによく,山野の鳥ならば繁殖期の初夏がさえずりを聞く好期である。しかし,水鳥は冬季のほうが視界がきき,数も多い。シギ・チドリ類は,渡りの最盛期の春と秋,河口や内湾の干潟でみるのがよい。

 バードウォッチングには野鳥や自然を損ねない,驚かさないというモラルが何よりたいせつで,絶えず,鳥を通して自然全体に目を向け,その保護を考える姿勢が必要である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「バードウォッチング」の意味・わかりやすい解説

バードウォッチング
ばーどうぉっちんぐ
bird watching

野外で、野生の状態で生活している鳥を見ることをいう。日本では野鳥観察、探鳥などの語でよばれることが多い。また、イギリスでbird watchingというのに対し、アメリカ合衆国ではbirdingが用いられている。しかし、鳥学者や鳥の研究者が野外で鳥を調べる行為はこのようにはよばず、鳥を見て楽しむ趣味的な行為だけをよぶ。

 1889年イギリスで、鳥を捕殺すること、飼育すること、卵や雛(ひな)を捕殺することなどに反対して、英国王立鳥類保護協会The Royal Society for Protection of Birdsが設立され、鳥を見て楽しむことが普及することとなった。この考え方は、G・ホワイト、W・H・ハドソンなどの作品によく示されている。バードウォッチングはこうしてイギリスで始められた趣味であるが、20世紀に入って広く世界に知られるようになった。日本では1935年(昭和10)前後に、京都の川村多実二(たみじ)、東京の中西悟堂(ごどう)らによって行われるようになり、現在に至っている。日本野鳥の会は、バードウォッチングが好きな人たちが集まって1934年につくった会である。

[柳澤紀夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バードウォッチング」の意味・わかりやすい解説

バードウォッチング
bird-watching

野外で鳥を観察すること。研究の目的で観察することもあるが,一般には個人的な趣味あるいはレクリエーションとして行われる野鳥の観察をいう。用具としては双眼鏡,ノートブック,鉛筆,図鑑などがあれば十分で,だれでも容易にできる。欧米諸国では個人あるいはグループで盛んに行われ,日本でも第2次世界大戦前から一部の人々の間では行われていた (探鳥会といわれた) 。最近多くの人が参加するようになり,その規模も郊外での日帰り程度のものから海外に出かけるものまである。

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