バニラ(読み)ばにら(英語表記)vanilla

翻訳|vanilla

精選版 日本国語大辞典 「バニラ」の意味・読み・例文・類語

バニラ

〘名〙 (vanilla)
ラン科の常緑つる性植物。熱帯アメリカ原産で、現在は熱帯の各地で栽培されている。葉は短柄があり、互生だが、葉に対生して白色の太いひも状の気根が出て樹に着生する。葉身は長さ一五~二〇センチメートルぐらいの長楕円形で、光沢があり肉厚質。花は大きく、直径約五センチメートルで黄緑色、葉腋から出た柄に穂状に集まる。果実は円柱形で三稜があり、長さ二〇~三〇センチメートル、特有の香気を発するので、食品の香料とされる。
バニラエッセンス。また、それで香りをつけたアイスクリーム
※南国記(1910)〈竹越与三郎〉一「其他砂糖、〈略〉乾菓、バニラ、染料、〈略〉乾魚等は必ずしも熱帯地に限られたるものにあらざるも」

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デジタル大辞泉 「バニラ」の意味・読み・例文・類語

バニラ(vanilla)

ラン科の多年生蔓植物つるしょくぶつ。葉の付け根から気根を出して他に絡み、長楕円形の多肉の葉が互生する。花は総状につき、黄緑色。果実は細長く、完熟しないうちに発酵させると特有の甘い香気を発し、食品の香料に利用する。熱帯アメリカの原産。
バニラエッセンス。またそれで香りをつけたアイスクリームのこと。
俗に、ソフトウエアハードウエアに改変が加えられていない状態のこと。特に、コンピューターゲームモッド(改変プログラム)などが組み込まれていないこと。風味トッピングを加えないバニラアイスクリームになぞらえた語。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「バニラ」の意味・わかりやすい解説

バニラ
ばにら
vanilla
[学] Vanilla planifolia Andr.

ラン科(APG分類:ラン科)の多年生常緑藤本(とうほん)(つる植物)。原産地は南東メキシコから中南米の熱帯地方。つる茎の各葉の付け根から気根を出し、他の木などをよじ登り、養水分を吸って十余メートルにも伸びる。葉は肉厚、楕円(だえん)形で互生し、花は茎の先端部近くの葉腋(ようえき)に総状花序をなしてつく。花冠は黄白色、長さ約4センチメートル、ラン特有の形であるが半開きで全開はしない。果実は円柱形で三稜(りょう)があり、長さ20~30センチメートル、径約1センチメートル。花期後4か月で完熟し、黒褐色になる。内部は褐色の粘液に包まれた微小な種子が多く入っている。

 高温・多湿を要する熱帯植物で、世界の熱帯で栽培される。主産地はマダガスカル島コスタリカ、西インド諸島、インドネシア地域、オセアニア島々などであり、19世紀から栽培が始められた。繁殖は、つる茎を短く切って挿苗をつくる。定植後3年ほどから結実を始め、以後1株から毎年数十個の果実が得られる。原産地以外では媒介昆虫がいないので、人工受粉が必要である。果実は完熟しないうちに採取して、やや乾かしてから、過乾を避けてゆっくり発酵させる。果実はしなやかなチョコレート色になり、特有の高貴で強い甘い香り、いわゆるバニラ香を発する。これは、果実に含まれるバニリン配糖体が、細胞中の酵素エムルシンによって分解され、バニラ香をもつバニリンが単離生成されるためである。

[星川清親 2019年5月21日]

食品

果実(バニラビーンズ)を未熟なうちに収穫、発酵させ、甘い芳香を出させて抽出した液をアルコールで薄めたものがバニラエッセンスとして市販されている。アイスクリーム、プディング、クッキー、ケーキ、キャンディ、ババロア、クリーム、菓子類やソフトドリンクの香味づけに、またたばこのフレーバーづけにも用いられる。発酵させたあとのバニラビーンズは、粉末にして洋菓子類の香味づけに用いられ、またこれを砂糖と混ぜたバニラシュガーはスウィートチョコレート作りに欠かせない。コロンブスのアメリカ大陸発見によってヨーロッパにもたらされたが、現在の主産地はインドネシアとマダガスカル島で、世界の生産高の65%以上を占めている。

[齋藤 浩 2019年5月21日]


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改訂新版 世界大百科事典 「バニラ」の意味・わかりやすい解説

バニラ
(common) vanilla
Vanilla mexicana Mill.(=V.planifolia Andr.)

メキシコからブラジルにかけての熱帯林の中に野生し,19世紀中ごろから栽培もされているラン科のつる植物で,香料や薬用にされる。茎は直径約1.5cm,節から太い気根を出して他物にからみつき,10m以上に伸びる。葉は長さ10~20cm,楕円形で先がとがり,花は淡緑色でトランペット状に開き,直径5~8cm,葉腋(ようえき)に20~30花ほどが房状につく。下位の花から次々に咲く,早朝に咲き夜にはしぼむ。蒴果(さくか)は長さ15~30cm,豆のさやのような形なのでバニラ豆vanilla beanと呼ばれる。初め緑色から黄色になり,4~5ヵ月でつやのある紫褐色に変わる。この果実に芳香性をもたすためには,まず加熱してそれを発酵させる。そのプロセスはいろいろであるが,一例を示すと,やや黄ばんだ未熟果をさっと熱湯に浸し,昼間は日に干し,夜間は密閉した箱に入れ,毛布でくるんでおく。こうしてなん日もかけてゆっくり発酵させると,しだいにチョコレート色に変わり,特有の甘い香りをおびてくる。でき上がりの製品はしわの多いしなしなしたひも状で,束ねて輸出する。現在はマダガスカルが主産地で,世界生産の9割を占める。調製された果実には香料成分バニリンvanillinが1~5%含まれ,細切りにしてから粉末にして使う。各種洋菓子の香味づけに用いられる。油を絞って得られるバニラ香油や,アルコールでエッセンスを抽出したバニラチンキも広く使われる。また薬用としても昔から利用され,熱病やヒステリー,月経不順などに効果があるという。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バニラ」の意味・わかりやすい解説

バニラ
Vanilla planifolia; common vanilla

ラン科のつる性草本。茎は径 1cmあまりの緑色円柱形で他の樹木などにからみついてはい上がり,生長後は根を欠いても気根のみで生活をする。葉は互生し,茎を抱くやや短い柄があり,長楕円形で先はとがり,多肉,無毛で鮮緑色を呈する。葉に対生して白色紐状の気根が生じる。上方の葉腋から総状花序を出し,多数の大きな黄緑色の花をつける。果実は円柱形で初めは緑色で,のちに濃褐色となり,多数の黒い種子を生じる。これを成熟前に乾燥したものをバニラ果といい,発酵させたものを香料として用いる。ほかに薬用にも利用されている。メキシコ,中央アメリカ原産であるが,温帯,熱帯に広く栽培され,特に海岸や島など高温多湿のところによくできる。現在は中央アメリカと西インド諸島,ジャワ,モーリシャスなどが主産地となっている。

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百科事典マイペディア 「バニラ」の意味・わかりやすい解説

バニラ

中米原産のラン科のつる性多年草。茎は棒状で白色の気根を生じ,これで他物にからまる。葉は多肉で長楕円形。花は黄緑色で径5〜8cm,総状をなして咲く。果実は円柱状三稜形で長さ15〜30cm,豆の莢のような形なので,バニラビーンズと呼ばれる。発酵熟成させた果実は特有な香気を有し,香料バニラエッセンス(バニリン)を製する。熱帯各地で栽培されている。
→関連項目ラン(蘭)

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デジタル大辞泉プラス 「バニラ」の解説

バニラ

円谷プロダクションによる特撮ドラマシリーズ「ウルトラシリーズ」に登場する怪獣。赤色火焔怪獣。初登場作品は『ウルトラマン』。身長55メートル、体重2万トン。超古代文明人により「赤い悪魔」と怖れられ、液状化されカプセルに閉じ込められていたが復活。口から高熱の火炎を吐く。

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栄養・生化学辞典 「バニラ」の解説

バニラ

 [Vanilla fragrans].ラン目ラン科ツチアケビ属のつる性多年草のバニラマメといわれる種実を発酵させ,乾燥してアルコール抽出し香料として用いる.さやそのものを乾燥したものも使われる.

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世界大百科事典(旧版)内のバニラの言及

【フランス映画】より

…そして仏独英3ヵ国語版が製作されたドライヤーのトーキー第1作《吸血鬼》(1931)は興行的に失敗するものの,〈音の対位法〉を探求したクレールのトーキー第1作《巴里の屋根の下》(1930)はフランスの〈トーキー映画の宣言〉となり,また,クレジットタイトルを画面に文字で出す代わりにすべて音声化,すなわち朗読してしまうというトーキーならではの試みを実現したレルビエ監督《黄色の部屋》(1930)などの成功をへて,フランス映画はトーキー時代に入る。 この時期に注目されるのは,マルセル・パニョルとサッシャ・ギトリー(ギトリー父子)という2人の演劇人の活躍で,とくにパニョルは,自作の戯曲がまずアレクサンダー・コルダ監督によって(《マリウス》1931),次いでルイ・ガスニエ監督によって(《トパーズ》1932),そしてマルク・アレグレ監督によって(《ファニー》1932)映画化されたのに刺激され,33年には映画雑誌《レ・カイエ・デュ・フィルム》を創刊し,サイレント映画がパントマイムの具象化であり完成であったのに対して〈トーキーは演劇の具象化であり再創造である〉という独特のトーキー映画論を展開,自分の映画会社を創立し,マルセイユに撮影所を建設して,みずから製作・監督に乗り出し,《アンジェール》(1934),《セザール》(1936),《二番芽》(1937),《ル・シュプンツ》《パン屋の女房》(ともに1938)等々を映画化,レーミュ,フェルナンデルといった南フランスのマルセイユなまりの名優に成功をもたらした。同じころパリでは〈芝居の神さま〉といわれたブールバール劇の作者であり演出家であり俳優であるサッシャ・ギトリーも自作の戯曲を次々に映画化し,《とらんぷ譚》(1936),《王冠の真珠》(1937)等々で徹底的な話術,〈語り〉の芸で映画に新形式をもちこみ(のちにオーソン・ウェルズに強い影響を与えた),パニョルとともに,フランス映画史に特異な地位を占めるに至った。…

【笑い】より

…S.フロイトは潜在意識にさぐりを入れて,《機知――その無意識との関係》(1905)の中で,〈制約されていた衝動が突然満たされたときに生じる心的状態〉に笑いの発生をみているが,そこにも明らかにホッブズ流の〈笑い=勝利の表現〉という見方がみてとれる。劇作家M.パニョルが《笑いについて》(1947)で語っているところも同様である。笑いという〈この世で最も複雑な人間表現〉を定義してパニョルはこう述べている。…

※「バニラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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