日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
バトラー(Samuel Butler、小説家、思想家)
ばとらー
Samuel Butler
(1835―1902)
イギリスの小説家、思想家。牧師の子として生まれ、ケンブリッジ大学卒業。ニュージーランドに移住し、牧羊で産をなして帰国し、以後、多才な文筆活動に入る。ダーウィンの進化論を批判し、また『オデュッセイア』の作者は女性と断じたりした。小説家としては、透徹した知性をもつ風刺家で、“Nowhere”ということばの逆つづりから「エレホン」という一種のユートピアをつくりあげ、その国の制度や風俗を描いて、イギリス社会を風刺した小説『エレホン』(1872)を書いた。代表作『万人の道』(1903)は没後出版の自伝的小説で、主人公アーネスト青年の曽祖父(そうそふ)の代から書き起こして、社会の因襲、家庭の偽善、両親の圧迫に反逆し、自由な自己を発見するまでの過程を語っている。ビクトリア朝の因襲と偽善を徹底的に批判するこの小説は、当時の若い世代に大きい影響を与えた。
[小松原茂雄 2015年7月21日]
『山本政喜訳『エレホン――山脈を越えて』(岩波文庫)』▽『今西基茂訳『万人の道』全2冊(岩波文庫)』