ハモグリバエ(読み)はもぐりばえ(英語表記)leaf miner flies

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハモグリバエ」の意味・わかりやすい解説

ハモグリバエ
はもぐりばえ / 葉潜蠅
leaf miner flies

昆虫双翅(そうし)目短角亜目ハエ群の1科Agromyzidaeの総称。この科はハムグリバエまたは単にモグリバエとよばれ、小形で帯黄色または帯黒色。頭部前額は幅広く、雌雄とも離眼的。眼縁剛毛は3対またはそれ以上存在する。後頭頂剛毛は互いに交差しない。顔面は多少くぼみ、口縁剛毛は顕著である。触角は短く、第3節は楕円(だえん)形で、触角刺毛は微毛を有するものが多い。胸部の剛毛は発達する。はねは透明で光沢が強く、前縁脈は亜前縁脈との接点切れ目がある。径中横脈はつねに、はねの中央よりも内方にあり、種によっては著しく内方に存在するが、中肘(ちゅうちゅう)横脈は属によっては欠いている。臀室(でんしつ)は甚だ短小。幼虫は無頭のウジで、葉の組織を食害しながら線状の孔道を描き、または数頭のウジが口部を並べて共通の孔道を掘る。寄生する植物の種類と、孔道の形状とはハモグリバエの種類に固有であるため、分類学上の特徴として役立つ。蛹化(ようか)は孔道内でするもののほか、土中でするものがある。

 この科の幼虫は作物の葉に潜るものが多く、農業上の害虫が多く含まれる。代表種はイネを加害するイネハモグリバエで、ほかに次にあげる種がある。

 ヤノハモグリバエbarley leaf miner/Agromyza yanonisは、ムギを加害する黒色の種類。ナモグリバエgarden pea leaf miner/Phytomyza horticolaは、エンドウ、十字花野菜などを広く加害する灰色の種類。キツネノボタンハモグリバエPhytomyza ranunculiは、キツネノボタン、ウマノアシガタタガラシなどの葉に潜り、1年に数世代を繰り返し、現れる季節によって成虫の色彩が異なる。ネギハモグリバエstone leek leaf miner/Liriomyza chinensisは、ネギを加害する。ダイズハモグリバエsoybean dipterous leaf miner/Japanagromyza tristellaは、ダイズの葉に袋状の潜孔をつくる。シュンランクキモグリバエorchid stem miner/Melanagromyza tokunagaiは、シュンラン、エビネなどのランの若い茎を加害する黒色の種類である。

[伊藤修四郎]


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改訂新版 世界大百科事典 「ハモグリバエ」の意味・わかりやすい解説

ハモグリバエ (葉潜蠅)
leaf miner fly

双翅目ハモグリバエ科Agromyzidaeに属する昆虫の総称。幼虫が植物の葉,茎,根などに潜入して生活するのでこのように呼ばれる。成虫は,体長2~5mm,一般に黒色または黒褐色の小型のハエで,雌の産卵管は円錐状に突出し,それを植物の組織に穿入して産卵する。孵化(ふか)した幼虫は,種ごとに独特の潜孔方法で植物を食害する。葉に潜入した場合,食痕は線状のもの,形の不定なもの,最初線状であったものが袋状になるものなど葉の表面に独特の食痕の形が見られ,この形でも種の同定ができる場合が多い。潜入場所にも種の固有性があり,最初葉の先のほうに潜入して基部に向かう種や,葉の中央よりも基部に潜入して葉鞘(ようしよう)に入る種などがある。蛹化(ようか)は,葉の内部,葉の表面,葉から脱出して土中に入るなど種により異なる。日本からは約200種が知られている。幼虫が葉に潜るのでイネハモグリバエムギハモグリバエなど農業害虫として問題になるものが多い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハモグリバエ」の意味・わかりやすい解説

ハモグリバエ
Agromyzidae

双翅目ハモグリバエ科に属する昆虫の総称。体長 1.5~4mm。体は光沢ある黒,灰黒ないし灰黄色で,翅は透明または斑紋がある。雌雄とも複眼は離眼的で,額眼縁剛毛は3対またはそれ以上ある。触角は短い。翅の基部の胸弁は小さくて不明瞭。肢の腿節には剛毛がある。雌は腹端の産卵管で葉に穿孔し,産卵する。幼虫は無頭の蛆 (うじ) で,葉の組織を食べるが,宿主植物の種類と幼虫がつくる孔道の形状は種によって一定なので,これらが分類上の特徴となる。農業害虫として重要なものが多い。なお,幼虫が潜葉性のハエは本科以外のいくつかの科にもあるので注意を要する。 (→ハエ , モグリバエ , ハモグリムシ )

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百科事典マイペディア 「ハモグリバエ」の意味・わかりやすい解説

ハモグリバエ

ハムグリバエとも。双翅(そうし)目ハモグリバエ科に属する昆虫の総称。種類が多い。一般に小型で,体色は黒か茶色。幼虫は草や広葉樹の葉にもぐって葉肉を食べ,その食痕(しょくこん)は種類によって一定している。イネ,ムギをはじめ野菜類,果樹類などの害虫が多い。イネハモグリバエ,エンドウハモグリバエなど。
→関連項目ハエ(蠅)

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世界大百科事典(旧版)内のハモグリバエの言及

【モグリガ(潜蛾)】より

…ガの幼虫のなかには,植物の葉,果実,茎,枝,幹あるいは根に潜るものがあって,これらを総称してモグリガと呼ぶ。 潜葉性のガ(英名leaf mining moth)はすべて微小な種類で,幼虫は1枚の葉の内部にすんでその組織の一部を食べてさなぎにまで成長する。種ごとに食痕は異なり,蛇行状,コイル状あるいは斑状となる。…

※「ハモグリバエ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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