ハッカ(読み)はっか(英語表記)Japanese mint

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハッカ」の意味・わかりやすい解説

ハッカ
はっか / 薄荷
Japanese mint
[学] Mentha canadensis L.
Mentha arvensis L. var. piperascens Malinv.

シソ科(APG分類:シソ科)の多年草。ヨウシュハッカともいう。日本全国から東アジアに広く分布し、湿った原野などに生える。全草に芳香があり、はっか脳やはっか油をとるために栽培もされる。茎は高さ30~60センチメートル、断面は四角形。葉は対生し、長楕円(ちょうだえん)形で長さ2~6センチメートル、鋸歯(きょし)がある。夏から秋、茎上部の葉腋(ようえき)に多数の小花が固まってつく。花は淡紫色、花冠は唇形で約5ミリメートル、先は4裂する。雄しべは4本、雌しべ柱頭は2裂する。葉には乾葉重量の1%内外の精油が含まれ、主成分はメントールmentholで、ほかにメントンmenthoneなどを含む。

 増殖は地下茎により、北海道では晩秋、暖地では12月に定植する。収穫は北海道では開花直前の9月上・中旬に刈り取るが、暖地では6月、8月、10月の年3回刈りが普通である。収穫した茎葉は陰干しして乾燥させてから水蒸気蒸留して黄緑色の取卸油(とりおろしゆ)をとる。これを冷却法により精製すると無色針状結晶のはっか脳と、透明なはっか油が得られる。

 ハッカ類にはヨーロッパ種としてペパーミントM. × piperita L.やスペアミントM. spicata L.などがあり、世界の温帯各地、主としてヨーロッパ、アメリカで栽培されている。ペパーミントセイヨウハッカ、コショウハッカともいい、全株無毛で、花は枝の先端に集まり穂状につく。スペアミントはミドリハッカまたはオランダハッカともいい、葉柄が極端に短い。ペパーミントよりも株は小形で花穂は細長い。

 東洋種のハッカはこれらヨーロッパ種と比べると、はっか脳含量が多く、メントール原料用としてはよいが、同時にメントン含量も多いので油の香りが劣り、苦味もあり、香料としての品質は劣る。

[星川清親 2021年9月17日]

食品

ハーブスパイス(香草系香辛料)として用いられるハッカは、ペパーミントとスペアミントの2種がある。さわやかな透き通るような清涼感のある風味が特徴で、これは主成分のメントールに由来する。スペアミントには甘い香りがあり、ペパーミントのほうが香味がやや刺激的である。葉をもんだりすりつぶしたりして、ミントソース、ミントゼリーに用いるが、とくに羊肉料理、ローストラムには欠かせない。ミントキャンディー、ソース、デザートやチョコレートにも加えてさわやかさを楽しむ。とくにペパーミントはリキュール酒によくあい、カクテルに用いられることも多い。アラブ諸国では日常的な飲料としてミントティーが飲用されている。

[齋藤 浩 2021年9月17日]

薬用

漢方では葉を乾燥したものをはっか葉(よう)といい、発汗、解熱、鎮痛、健胃、解毒剤として感冒初期、頭痛、咽喉(いんこう)痛、皮膚病などの治療に用いる。葉には精油1.5%、タンニン約10%のほか、苦味質が含まれる。また、ヨーロッパではペパーミントの葉を利胆、駆風、鎮痛、鎮けい、鎮静剤として胃けいれん、胃酸過多症、鼓腸、消化不良、下痢などの治療に用いる。歯科医が用いる口中水ははっか油を水に混和したもので、その芳香によって悪臭を消す以外に、メントールがもつ局所麻痺(まひ)、殺菌、防腐作用を利用したものである。

[長沢元夫 2021年9月17日]

文化史

ハッカ類は古代ギリシアですでに栽培されており、当時は、戦争中は食べても植えてもいけないといわれていた。その俗信の理由として、アリストテレスは『疑問集』で、ハッカは体を冷やし、軍人の勇気と精神も冷やすからだと述べた。紀元前1世紀のディオスコリデスは『薬物誌』で、5種類のハッカの特徴と薬効を記述した。プリニウスは『博物誌』で、さらに詳しく薬効に触れ、ヘビ毒、気つけ、胃病、腰痛、頭痛をはじめ、112種ものハッカ類の薬効をあげた。ほかに香料として、ハッカ水、クッションの詰め物、食卓の香りづけなどの用途を述べた。日本のハッカは『本草和名(ほんぞうわみょう)』や『和名抄(わみょうしょう)』にも載り、後者では、飲食部でショウガやカラシと同じ扱いを受けている。江戸時代には薬として一般に栽培され、『農業全書』(1697)には、収穫したハッカを陰干しにして、薬屋に売る、と出ている。『広益地錦抄(こうえきちきんしょう)』(1719)にも薬草で扱われ、葉を目に張り、目のかゆみをとる、刻んでたばこに入れて吸う、と用途をあげている。

[湯浅浩史 2021年9月17日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ハッカ」の意味・わかりやすい解説

ハッカ (薄荷)
Japanese mint
Mentha arvensis L.var.piperascens Malinv.

日本,朝鮮半島からシベリア地域の湿地に生えるシソ科の多年草。茎は四角形の断面で,草丈は60cmほどになり,葉をもむと特有の臭気がある。7~8月に葉腋(ようえき)に淡紫色の小さい花が小群になって咲く。日本特産の作物で,ニホンハッカとも呼ばれる。文化年間(1804-18)に岡山で栽培が始まり,その後山形など各地で栽培された。現在の主産地は北海道の北見地方で,同地方で栽培が始まったのは1887年以降である。ニホンハッカはメントール(ハッカ脳)含量が高く,以前から外国へも輸出していたが,最近は合成品ができ,天然ハッカの需要が減り,栽培も衰える傾向にある。

 繁殖はふつう地下茎による。12月に定植して,寒地では開花初期に,暖地では年2回ほど刈り取る。排水のよい土地を好み,収穫期の夏に雨の少ない所が良品を産する。ニホンハッカは苦みが強いことと,ショウノウ臭があることのために,そのまま香料にされることはなく,メントールの原料とする。刈り取った生草をあらかじめ乾かし,水蒸気蒸留すると取卸油(とりおろしゆ)という黄緑色の油がとれる。取卸油を精製して無色針状結晶のメントールと,その残りの透明なハッカ油が得られる。メントールは薬用として多様な用途があり,またセッケン,タバコ,歯磨きの香料などに使う。スパイスとしては,清涼用の口中香料,飲物などに加え,薄荷糖,薄荷ドロップなどの菓子にも使われる。近縁には中央ヨーロッパ原産のスペアミント(ミドリハッカ),ペパーミント(セイヨウハッカ)のほかに,西アジア原産で料理に用いられるペニローヤルミントM.pulegium L.(英名pennyroyal)がある。
執筆者:

ハッカの地上部の全草または葉は精油を含み,主成分はl-メントールで,大部分は遊離,一部は酢酸などのエステル,ほかにモノテルペン類,苦味成分ピペリトンpiperitoneなどを含む。メントール原料のほか,他の生薬と配合して頭痛,筋肉痛,咽喉の腫痛,暑気あたりのめまい,発熱,口渇などに用いられる。外用すると皮膚粘膜の血管収縮をもたらし,消炎,止痛,止痒(ししよう)効果がある。
執筆者:


ハッカ (客家)
Hakkas
Kè jiā

〈ハッカ〉とは客家という漢字の広東系客家語音で,外国人からは普通この音で呼ばれる。もともと客とは他郷から来た移住者の意味で,土着民が区別していった語である。中国南部の広東,湖南,江西,福建諸省の交界地域に居住する漢民族の一種で,とくに広東の梅県,興寧,大埔,恵陽の諸県に集中している。さらに広西・四川にも広がり,海南島,台湾のほか東南アジアの華僑に多く,総数約1500万人に上る。中国南部に移住してきた原因,経路には疑問があるが,彼らの伝承によれば,(1)4世紀初めの永嘉の乱,(2)9世紀末の黄巣の乱,(3)12世紀初めの北宋の崩壊,(4)17世紀の明の滅亡を契機として,黄河流域の漢民族がしだいに南下して以上の地域に定着し,先住の土着民から客家といわれ,やがてみずからもこれを他と区別する呼び名としたという。彼らは独立心に富み団結力が強くて簡単に土着民と融和せず,械闘(かいとう)といい武器をとって激しい争いを繰り返した。清ではこれを解消させるために,客家を海南島などへ強制移住させたほどである。

 客家の生活は農業が主で,大家族を維持するため独特の広大な住宅を構えるものがあり,家譜を重んじ祖先崇拝の中心として必ず家祠を設ける。日常,女子が屋外の重労働に従事するのが特徴で,男子は海外に渡り鉱山で働くものも多いが,どこででも客家としての固い団結を作っている。他の漢民族から差別扱いを受けるので,社会に反感を抱き太平天国の洪秀全のように革命行動をとるものもあった。近代では教育者,学者,政治家として業績を上げたものに,客家出身者が少なくない。しかし,歴史上の有名人物で今日の客家居住地域から出た人々を,すべて客家の祖先とみなすことは危険である。彼らの団結の象徴となっているのは客家語で,それぞれの地域によって幾つかに分けられるが,中国語の一方言とみてよいものである。もっとも代表的な広東省梅県を中心とした客家語は,広東語と古い中原地方の漢語との2要素からなっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

デジタル大辞泉プラス 「ハッカ」の解説

ハッカ

おもにシソ科ハッカ属の総称。地上部は局所刺激、冷感刺激作用があり生薬として使用される。表記は「薄荷」とも。

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栄養・生化学辞典 「ハッカ」の解説

ハッカ

 →ミント

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のハッカの言及

【住居】より

…甘粛省東部の窰洞は,河南西部から山西,陝西北部一帯に分布するものと異なり,尖頭や放物線アーチ型をなし,洞内も高大な空間になる。
[客家の土楼]
 福建省竜岩地区に,客家(ハツカ)人の多数の家族が共同生活を営む巨大な集合住宅がある。環形と方形の2種があり,いずれも窓の少ない土壁の特異な外観を呈する。…

【台湾[省]】より

…本省人とは,第2次大戦終結前までに開拓を主な目的として,対岸の福建・広東両省から入台した漢族とその末裔を指す。本省人はまた使用言(母)語別に福佬(ふくりよう)人と客家(ハツカ)人の2系統に分かれる。前者は閩南(びんなん)(福建省南部の泉州と漳州が中心)と福佬語に近い潮州語をあやつる広東省潮州府出身者を含む。…

【中国料理】より

…例えば広東では結婚式の後,花嫁の初めての里帰りの際に,婚家は烤乳猪を持たせないと離縁を意味するという。〈焼全翅〉(鱶の鰭の姿煮),〈蠔油牛肉〉(牛肉のオイスターソースいため),〈東江塩鶏〉(客家風鳥の塩蒸し),〈客家鑲豆腐〉(客家風肉詰め豆腐のくず煮)も挙げておくべきであろう。客家(ハツカ)とは五胡乱華を契機に南遷し,梅県,東江地方を中心に住みついた中原の漢族の一分支で,華僑として世界各地にも進出している。…

【客家語】より

…使用人口は推定3700万。その顕著な字音特徴は古全濁声母の無条件無声有気化であるが,これは江西の贛(かん)諸方言にも見られ,贛客家を一つに分類する考えもある。客家の華北からの移住は比較的新しく,〈客〉の呼称は土着先住民に対する〈よそ者〉を意味する。…

※「ハッカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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