ハチ(英語表記)bee; wasp

デジタル大辞泉 「ハチ」の意味・読み・例文・類語

ハチ(Hati)

土星の第43衛星。2004年に発見。名の由来は北欧神話に登場する狼フェンリルの子狼。非球形で平均直径は約6キロ。ハティ

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改訂新版 世界大百科事典 「ハチ」の意味・わかりやすい解説

ハチ (蜂)

膜翅目の昆虫の中で,アリ上科を除くすべてのものの総称。大別して三つのグループにわけることができる。まず第1のグループは広腰(こうよう)類(英名saw fly)と呼ばれ,キバチクキバチハバチなどの種類を含んでいる。そのほとんどは食植性で,草木の葉,茎,材などを摂食して成長する。そのために,害虫として扱われるものが多い。成虫は胸部から腹部にかけて連続していて,その間にくびれがないのが特色である。幼虫は明りょうな胸脚を3対もっていて,ほとんどは“青虫”状である。産卵管は鋸状,または錐状で,産卵のためにのみ使用され,人間に危害を加えることはない。

 第2のグループ有錐(ゆうすい)類(英名fly)は,腹部の第1と第2の環節の間にくびれがある。第1の環節は胸部と結合して一体となり,一見して,第2の環節以後が腹部に見える。幼虫はうじ状で,胸脚を欠く。このグループは,そのほとんどが他の昆虫やクモなどの卵,幼虫,さなぎ,ときには成虫に寄生して生活を営む。害虫に寄生するものも多いので,天敵として,害虫の密度の調節に大きな働きをしていると考えられている。産卵管は卵を産むために使用されるが,また,産卵に先だって,寄主を麻酔させるときの道具としての役割も果たしている。

 第3のグループ有剣類(英名,ハナバチ上科はbee,他はwasp)は,上に述べた有錐類と同じように,腹部の第1と第2の環節の間にくびれをもっている。また,幼虫はうじ状で,胸脚を欠く。一部の寄生生活を営む種類を除いて,その多くはカリウドバチやハナバチなどとも呼ばれ,営巣性の生活をしている。ありあわせの隙間や小さな空間を利用したり,みずから土中や材中に掘坑したり,あるいは泥やパルプを使って育仔(いくし)のための巣房をつくり,それぞれに幼虫のための食物を貯え,産卵する。食物としては他の昆虫,クモ,花粉と花みつなどが利用されている。さらに進化した種類では,1回ごとに幼虫に給食するものもみられ,ミツバチスズメバチアシナガバチなどにみられる集団生活は,このような習性の極度に発達した型式だと考えられている。この第3のグループでは,産卵管はもっぱら餌動物を攻撃したり,巣や自身の身を守る防御用の武器として使用され,卵は別の排出口から産下される。一般に,ハチは刺すものだと考えられているが,この有剣類を除いて,他のグループのハチは刺すことはほとんどないし,たとえ刺されても被害はまずない。

ハチの毒物質は成分が複雑なため,今なお不明の点が多い。ヒスタミン,ヒスチジン,レシチン,アセチルコリン,その他いくつかの成分が知られている。集団生活をしているハチの場合,少数個体の興奮が全巣に及ぶ場合もあるので,巣を刺激することは避けたほうがよい。万が一,刺された折は,まず被害部位を冷湿布する。セイヨウミツバチは毒針を残すので,抜きとって,抗ヒスタミンの軟膏を塗るとよい。多数のハチに刺された際は,抗ヒスタミン剤やコーチゾン系統の注射が効果がある。

ハチと人間はいろいろな面で密接な関係をもっている。ハナバチは花粉やみつを集めるために花を訪れるので,植物の受粉には欠かせない存在である。果樹園やハウス栽培の果菜などでは,しばしば人工的に養殖されたハナバチの巣を受粉に利用して,着果歩合を高める試みもなされている。また,ミツバチは有史以前から花みつの採取に利用されていた。ヤドリバチの類は害虫防除に利用するため,しばしば人工的に増殖され,放飼されている。
執筆者:

ハチには多くの種があるが,腰部が細いのが特色とされ,古くはスガルと呼んで腰の細い容姿のよい女性を形容することばでもあった。現代でも東北地方各地の方言に残っている。ハチのうちでもみつを貯蔵するミツバチはとくに注目され,古くから養蜂が知られていたらしい。おそらくこの技術はアジア大陸から伝えられたもので,《日本書紀》皇極天皇2年条に百済の太子余豊(よほう)が三輪山でミツバチを飼ったことが記されるのはその一証である。近世には熊野がその主産地で,おもに薬品として使用された。石蜜(せきみつ),はちみつの名で結合剤や甘味料となる。はちみつを収納している房も蜜蠟(みつろう)として薬であった。ミツバチのほかジバチの幼虫やさなぎは〈ハチの子〉として長野県や岐阜県の山間では食用とした。その巣は民間薬として各種の出血や痛みを止めるのに用いられた。ハチの飛ぶあとをつけてこれらを求める方法には種々の工夫があり,昔話の〈夢買長者〉にはそれによって宝物を発見したり幸運を得るという語り方もあった。
執筆者:

《古事記》には須佐之男(すさのお)命が娘の須勢理毘売(すせりびめ)命の夫,大国主命をヘビ,ムカデ,ハチの室に寝かせる。そのたびにスセリビメがその害を避ける呪力をもつ布を授けたので,大国主命は事なきを得た話がある。《今昔物語集》には,ハチの群れをあやつる術を心得た商人が,わざと無防備な姿で旅をし,賊をこらしめる話がある。さて古代中国の《録験方》という医書には,兵刃の難を避ける方法として〈入軍丸〉という丸薬深紅の絹の袋に入れて身につけ,万一,毒蛇やハチに傷つけられた場合には患部に塗るよう指示している。そのほか,ハチ毒の治療薬としてハチの巣やタデ科のアイ(藍)の青汁が使われていたが,現代中国でも大黄蜂(キボシアシナガバチ)の巣が蜂螫腫疼薬とされ,アイには解毒薬効があげられている。また,漢方にはアシナガバチに身体を刺させ,ハチ毒によって治療する〈以毒攻毒〉という療法もある。
執筆者:

英語では,ミツバチをbeeまたはhoneybee,マルハナバチをbumblebee,スズメバチをhornetと呼び,それ以外のハチをすべてwaspと総称する。日本ではワスプを〈スズメバチ〉と訳しているが,実際には漠然と〈ハチ〉くらいに訳しておくのが正しいであろう。ビートルが甲虫をさし,〈カブトムシ〉と訳すのが適切でないのと同じである。このうちミツバチは〈善いハチ〉であり,マルハナバチは〈愛すべきハチ〉であり,スズメバチ(ヨーロッパに産する普通種はモンスズメバチVespa crabroで,比較的小型である)は〈恐るべきハチ〉である。

 ミツバチが〈善いハチ〉であるのはそのみつのせいであるが,マルハナバチが童話,童謡に登場し,現代の作品でも,たとえばB.ポッターの《ピーター・ラビットの冒険》の中のバビティ・バンブルや,N.A.リムスキー・コルサコフの曲(邦題は《クマバチの飛行》もしくは《クマンバチは飛ぶ》だが原題は〈マルハナバチの飛行〉の意)のような形で親しまれているのは,このハチが丸い身体をして毛深く,寒冷地に適応しているからである。イギリスの公園などで,天気の悪い肌寒い日に元気に活動している昆虫はこのハチだけということがある。またこれは牧草,ことにアカクローバーの受粉には欠かせないハチである。かつてニュージーランドに羊を導入したイギリス人は,その食物としてアカクローバーをまいたが,ニュージーランドでは種子ができず,毎年イギリスから種子を輸入していた。のちにその原因が判明し,イギリスからマルハナバチを移入して解決したという。一方,スズメバチはもっとも攻撃的で恐ろしいハチということになっているために,ミサイルや戦闘機にホーネットという名がつけられることがある。

 上記のもの以外のハチが,前述したとおりワスプなのであって,つまりワスプはとくに善くもかわいくもなく,極度に攻撃的でもない,〈ただのハチ〉なのである。アメリカの支配階級を代表するアングロサクソン系白人プロテスタントWhite Anglo-Saxon ProtestantをワスプWASPと呼ぶが,この場合も恐ろしいスズメバチではなく,単に〈ハチ〉という語感なのであって,もしこれがミサイルの名に用いられるホーネットのようなイメージであるならば,この語が使われる文脈が今とは異なっているはずである。なお,フランス語においてもハチの区分は英語の場合と同じであって,それぞれミツバチabeille,マルハナバチbourdon,スズメバチfrelonとそれ以外のハチguêpeとなる。ただしフランスでは,マルハナバチはイギリスなどにおけるほど愛されてはいないようである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハチ」の意味・わかりやすい解説

ハチ
bee; wasp

膜翅類に属する昆虫のうちアリを除いたものの総称。このうちミツバチ上科 Apoideaに属する種,すなわちミツバチ類 (またはハナバチ類) を英名で beeとし,その他のハチ類を waspとして厳密に区別している。高等なものは腹部の基部が細くくびれ,雌の産卵管は毒腺の発達を伴い毒液を注射することができる。このグループには寄生蜂狩人蜂など大多数のハチが含まれ,成虫は他の昆虫類やクモ,それらの卵などに産卵し,幼虫はそれを食べて育つものが多い。一方,幼虫が植物の葉を食べるハバチや材中に穿孔して食害するキバチの類などは,腹部基部にくびれがなく,下等なハチと考えられ,毒腺が発達することもない。社会生活をするものはごく一部で,スズメバチ上科,ミツバチ上科にみられる。

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デジタル大辞泉プラス 「ハチ」の解説

ハチ

「忠犬ハチ公」で知られる秋田犬のオス。1923年生まれ。1925年に死亡した飼い主の帰りを待つため渋谷駅に日参し、その姿が1932年に新聞に取り上げられ話題となる。その後尋常小学修身書に掲載。1934年には全国から募金が集まり、同駅に銅像が建立された(1944年、戦争時の金属回収運動で溶解され、1948年に再建)。1935年死亡。銅像が設置された駅の北側は改札名が「ハチ公口」となるなど同駅のシンボルとなっている。ハチをモデルにした映画作品もある。

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世界大百科事典(旧版)内のハチの言及

【社会性昆虫】より

…語感から一般に〈集団生活をしている昆虫〉ととられがちだが,実際はおもにアリ,シロアリおよび一部の集団性ハチ類(カリバチ類waspsのアシナガバチ,スズメバチやハナバチ類beesのミツバチ,ハリナシバチ,マルハナバチ,一部のコハナバチなど)に対して用いられるもので,以下この意味で解説する。これらの昆虫の特性は,集団(コロニー)がカースト制によって維持されている点にある(ヒトにおけるカースト制とは,表面的類似はあっても無関係)。…

【毒腺】より

…オニダルマオコゼ類やゴンズイでは背鰭棘(はいききよく)の基部の皮膚中にあり,棘を通じて毒が出される。ハチなど膜翅(まくし)目昆虫では腹部に毒腺があり,産卵管の変形した毒針stingに開口している。ハチ毒としては,神経毒のアパミンや溶血性ポリペプチドのメリチンのほか,ヒスタミン,ホスホリパーゼA2などがある。…

※「ハチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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