ハタ(読み)はた(英語表記)grouper

翻訳|grouper

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハタ」の意味・わかりやすい解説

ハタ
はた / 羽太
grouper

硬骨魚綱スズキ目ハタ科Serranidaeのハタ亜科Epinephelinaeに属する海水魚の総称。世界の温帯から熱帯に広く分布し、とくに熱帯の沿岸に多く、岩礁やサンゴ礁にすむ根魚(ねうお)である。本亜科は仔魚(しぎょ)の前の1本以上の背びれ棘(きょく)(普通は第2棘)が伸長することなどで特徴づけられ、ハタ族Epinepheliniのほか、キハッソク族Diploprionini、ハナスズキ族Liopropomini、ヌノサラシ族Grammistiniおよびアラ族Niphoniniを含む5群に大別される。

 さらに、ハタ族は背びれの棘の数により分類される。日本近海には以下の10属がおり、マハタ属とユカタハタ属は多くの種が知られているが、その他の属は少ない。

(1)背びれ棘が8本 ヤマブキハタ属(1種)、スジアラ属(3種)
(2)背びれ棘が9本 バラハタ属(2種)、クロハタ属(1種)、タテスジハタ属(1種)、ユカタハタ属(12種)
(3)背びれ棘が10本 サラサハタ属(1種)
(4)背びれ棘が11本 トビハタ属(1種)、アズキハタ属(1種)、マハタ属(42種)。

 ハタ族は一般にハタ類(英名groupers)とよばれている。体は普通は長楕円(ちょうだえん)形で、側扁(そくへん)する。頭部はやや大きい。口は大きくて前端に開く。主上顎骨(しゅじょうがくこつ)は口を閉じたときに露出する。下顎前端は上顎より突出する。上下両顎の内側に倒すことができるか、あるいは可動する歯があり、両顎の前端に犬歯がある。主鰓蓋骨(しゅさいがいこつ)は普通は3本の平たい棘をもつ。鰓蓋の上縁の半分以下が皮膚で体側と接合する。前鰓蓋骨の縁辺に鋸歯(きょし)がある。体は小さい鱗(うろこ)で覆われている。背びれは1基で欠刻(切れ込み)がなく、背びれ棘は7~11本。仔魚は腹びれ棘が伸長する。脊椎骨(せきついこつ)数は24本。

 ハタ類は、普通は岩礁域の海底の岩穴やサンゴ礁のすきまに単独で生活し、長い間、しばしば何年もの間、そこにすみつく。夜行性で、おもに嗅覚(きゅうかく)によって餌(えさ)を探す。肉食性で、大形の種はエビ・カニ類、魚類、頭足類などを貪食(どんしょく)するが、多くの小形種や稚魚は動物プランクトンを食べる。

 日本沿岸で普通にみられる種類は、アカハタ、マハタ、ノミノクチキジハタアオハタなどである。琉球(りゅうきゅう)諸島などの南方海域にはスジアラ、バラハタ、マダラハタ、シロブチハタ、ナミハタEpinephelus ongusなどが多い。ハタ類のうちカンモンハタは全長32センチメートル、ニジハタは全長28センチメートル、ヤミハタは全長26センチメートルなどのように全長20~30センチメートルくらいの小形種もいる。しかし大部分のハタ類は全長40~60センチメートルのものが多い。全長1メートルを超える大形種はマハタでは全長1メートル、ツチホゼリでは全長1.2メートル、クエでは全長1.4メートル、オオスジハタでは体長1.5メートル、カスリハタでは全長2メートルなどがいる。なかでもタマカイは全長3.6メートルほどになる超大形種である。

 ハタ類は雌雄同体の魚で、成長の途中で性転換をする。初め卵巣が発達し、雌としての役割を果たすが、ついで卵巣内に精細管が形成されて精巣に変化し、雄としての役割をつとめる。春から夏にかけてが産卵期で、浮性卵を産む。稚魚は浮遊生活に適応した形をしており、第2背びれ棘や腹びれ棘が長く伸び、のこぎり状である。また、前鰓蓋骨の隅に1本の長い棘がある。

 ハタ類はおもに釣り、延縄(はえなわ)、定置網、刺網(さしあみ)、突きなどで漁獲されるが、オオスジハタやコモンハタなどは底引網でやや多量に漁獲される。また、スポーツとしてのハタ釣りの愛好家が多い。ハタ類には高級魚が多く、キジハタ、クエ、マハタなどは養殖されている。これらの肉は白く光って脂肪があって美味であり、洗いや刺身として高級品である。ユカタハタ、ニジハタ、アカハタなどの色彩豊かな種、大形になる種は水族館で観賞魚として展示される。産卵期に雌雄が1か所に集まることが知られているので、漁獲に対して特別な規制が必要である。亜熱帯から熱帯産のスジアラ、バラハタ、アオノメハタなどには、まれに有毒なものがある。これらの魚を食べるとシガテラとよばれる中毒をおこすが、これはシガトキシンciguatoxinという毒素によるもので、神経障害や胃腸障害をおこし、ときには死に至ることがある。餌の藻類や藻食魚からこの毒素が体内に蓄積されると考えられている。

[片山正夫・尼岡邦夫 2020年12月11日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ハタ」の意味・わかりやすい解説

ハタ (羽太)

スズキ目ハタ科ハタ亜科Serraninae魚類の総称。世界中の温帯から熱帯にかけて多くの種がいる。日本近海からは60種以上が知られていて,このうち典型的なハタ類であるマハタ属は40種近くにのぼる。ハタ類の一般的名称として,関西を中心に西日本でマスまたはアラと呼ぶ地方が多い。また,英名としてsea bassまたはgrouperが一般的である。

 ハタ類は成長すると30cm程度のものから4m近くに達するものまであるが,中・大型のものが多い。肉は白身で美味である。そのため水産上重要な種が少なくない。代表的なものにマハタ,クエ,ホウキハタ,アカハタ,ユカタハタ,キジハタ,ツチホゼリ,ノミノクチ,マダラハタ,ナミハタ,ヤイトハタ,スジハタ,ハラハタなどがある。これらは,ひれの棘条(きよくじよう)がよく発達し,主鰓蓋骨棘(しゆさいがいこつきよく)が3本で,口は大きく,うろこはおもに櫛鱗(しつりん)であるなどの共通した特徴をもつ。また,形態がきわめて類似しているため,色彩や斑紋が種を判別するうえでたいへん重要である。

 ふつう,沿岸の浅い岩礁域やサンゴ礁域にすんでいるが,沖合の水深300mを超える海山にすむ種もいる。単独で定着生活をする種が多く,一般に群れをつくらない。すべて肉食性で,大きな口で,魚類,甲殻類,イカなどをのみ込むように食べる。卵は球形の浮性卵と考えられている。稚仔魚(ちしぎよ)についてはほとんどわかっていないが,マハタ属の稚仔魚は背びれ前方の棘が糸状に長く延長すること,腹びれの棘がきわめて長いこと,前鰓蓋骨棘が強大であるなどの共通した特徴をもつ。これらの特徴は体長10~20mmの段階で消失し,親とよく似た形態になる。近縁種を含め,性転換をする種が多いとの報告もあるが,日本産についてはほとんど調べられていない。釣り,はえなわ,籠網,刺網,底引網などにより漁獲される。美味な種が多く,刺身,洗い,煮つけ,塩焼き,空揚げ,なべ料理などにする。しかし,サンゴ礁域にすむバラハタValiora louti,マダラハタEpinephelus microdon,オオアオノメハタPlectropomus truncatusなどは,シガテラ毒による中毒が発生したという記録がある。この場合の毒は餌となる生物に由来すると考えられており,これは同一種でも有毒なものと無毒なものとがあること,若魚より老成魚において毒性が強いなどの特徴があり,注意が必要である。

 マハタEpinephelus septemfasciatusは日本近海でもっともなじみ深いハタ類の一種で,本州中部以南,東シナ海,オーストラリアなどに分布している。体側に7本の黒褐色横帯があり,尾柄部の1本がとくに色が濃いことが重要な特徴である。地方名が多く,長崎でシマアラ,大阪でハタジロ,富山県新湊でナメラ,松山でシマダイなどがある。和歌山県の湯浅でイトガモドリと呼ぶが,これは湯浅の近くの糸我までもっていき,またもち帰っても生きているというもので,死ににくい魚であることを意味している。岩礁域にすむが,他のハタ類と異なり,しばしば海底から離れ,中層を泳ぐ習性がある。産卵期は5月ころ。全長1mに達するといわれるが,60cmまでのものが多い。
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ハタ

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百科事典マイペディア 「ハタ」の意味・わかりやすい解説

ハタ

ハタ科ハタ亜科の魚の総称。日本ではマハタ(90cm),キジハタ(40cm),クエ(80cm)などが知られる。主として本州中部以南に分布し,磯釣の対象魚。貪食(どんしょく)で貝や甲殻類,イカなどをのみ込むようにして食べる。南方には有毒な種類もいるが,高級魚として賞味されるものもかなり多い。

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