ハクビシン(読み)はくびしん(英語表記)masked palm civet

改訂新版 世界大百科事典 「ハクビシン」の意味・わかりやすい解説

ハクビシン (白鼻心)
masked palm civet
Paguma larvata

体がネコ大で,額から鼻筋が白いため白鼻心と呼ばれる食肉目ジャコウネコ科の哺乳類。カシミールチベットヒマラヤからマレー半島,スマトラ,ボルネオ,中国南部,海南島,台湾,日本などに分布。体長51~76cm,尾長50~64cm,体重3.6~5kg。体つきはネコとイタチの中間で,頭部は比較的小さく丸く,胴が長く四肢が短い。前後の足には多少引っ込めることのできるかぎづめを備えた5指があり,足裏を半分つけて歩く半蹠行(しよこう)性で,足の裏はかかと付近まで毛がなく,木登りに適する。雌雄とも肛門の前方に大きな会陰囊をもち,麝香(じやこう)臭を発する。体の大部分は暗い灰褐色で,斑紋はなく,頭,足,尾の先のほうは黒いが尾端は白い。腹面は淡い色をしている。

 山地の森林に単独ですみ,完全な夜行性で,日中は樹洞や岩穴に潜む。おもに樹上生で,小鳥やネズミ類などを捕食するが,果実を好み,ミカン,ビワ,カキなどをよく食べ,ミカン畑を食害することもある。妊娠期間は51~59日といわれ,春と秋の年2回繁殖するらしく,1産1~4子を生む。寿命は飼育下で15年5ヵ月の記録がある。

 本種の生息が日本で確認されたのは1950年ころのことで,以来,台湾あるいは中国南部から移入されたものが野生化したとする〈帰化動物説〉と,古来より野生していたとする〈在来種説〉が生まれた。しかし,本種には13亜種が知られるが日本産のものと同一の形態をもつ亜種は認められず,また1900年前後にも本種とおぼしき捕獲記録が山梨・愛媛・徳島県などにあること,さらに古文書の〈雷獣〉の図の中に本種としか思われないものが数点あることから,本種は在来のものであり,日本に固有の亜種であると考えられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハクビシン」の意味・わかりやすい解説

ハクビシン
はくびしん / 白鼻心
masked palm civet
[学] Paguma larvata

哺乳(ほにゅう)綱食肉目ジャコウネコ科の動物。中国南部、チベット、インド、マレー半島、ボルネオ島スマトラ島、海南島、台湾などに生息する。日本では、四国四県、静岡、山梨、長野、愛知、神奈川、東京、茨城、福島、山形、宮城などの各都県に生息し、とくに静岡県や四国では、果樹農作物を食害することがある。頭胴長は50~70センチメートル、尾は細長く30~50センチメートル、体重は3~5キログラム。体色は一般に灰茶色であるが、頭部、四肢の先、尾は黒い。額から鼻すじにかけて白帯があるほか、両目の下、耳の根元などにも白斑(はくはん)がある。

 日本では、平地や山地の林、果樹園や畑地の周辺などに、単独か数頭の小集団をつくってすむ。冬期には、一つの穴に十数頭が集まって越冬することもあるらしい。日中は岩穴や樹洞などで過ごし、夜間活動する。雑食性で、ネズミ、昆虫、カニなどから果実、木の葉や茎などを食べる。繁殖は、春秋の年2回、1産3、4子と思われる。また本種は、日本に昔からいたものか、人が持ち込み飼育していたものが逃走し野生化したものか、議論の分かれている動物である。

[古屋義男]

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知恵蔵mini 「ハクビシン」の解説

ハクビシン

東南アジアからアフリカまで広く分布する食肉目ジャコウネコ科の生物。体長50〜60センチメートル、尾長約40センチメートル前後。鼻すじに白いスジがあるのが名前の由来で、体は灰褐色、尾は黒く長い。果実や昆虫、爬虫類などを食べる雑食性で特に果実を好む。夜行性で木や外壁を登ることができる。繁殖力が高く年に一度、子どもを2~3頭産む。日本にも生息している帰化生物で日本全国で生息が確認されている。近年、都市部でのハクビシンによる被害が急増している。市街地の住宅に入り込んだり、屋根裏に住み着き、騒音やフンの悪臭などの問題を起こしたり、果樹などの庭木を荒らしたりする被害が相次いでいる。自治体の中にはハクビシンについてのトラブル回避のためのガイドラインを発表しているところも多い。

(2015-4-17)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

百科事典マイペディア 「ハクビシン」の意味・わかりやすい解説

ハクビシン

食肉目ジャコウネコ科の哺乳(ほにゅう)類。体長51〜76cm,尾50〜64cmほど。体は灰褐色,顔は黒く,鼻すじや眼の上下は白い。アジア東・南部に分布。おもに森林に単独ですみ,木登りがうまい。夜出て小鳥やネズミなどの小動物やミカン,ビワ,カキなどの果実を食べ,ときにニワトリを襲う。第2次大戦後日本の諸県でも捕獲され,次第に増加しつつある。昔からいたものか,飼育したものが野生化したのか明らかでない。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハクビシン」の意味・わかりやすい解説

ハクビシン
Paguma larvata; masked palm-civet

食肉目ジャコウネコ科。体長 60cm,尾長 50cm内外。足が短く,やや胴長の感じがする。体は灰褐色ないし黒褐色で,背面が濃く,腹面は淡色。鼻筋に白線があり,頬,眼の下なども白い。おもに樹上にすみ,小動物,果実などを食べる。中国,台湾,マレー半島,スマトラ島,ボルネオ島などに分布し,日本では福島,宮城,長野,山梨,静岡,愛媛の各県などで記録がある。

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世界大百科事典(旧版)内のハクビシンの言及

【帰化生物】より

… 日本のドブネズミ,クマネズミなどのイエネズミ(家鼠)は古い時代に大陸から渡来して野生化したものと思われるが,これらは帰化動物とは呼ばない。また戦後,東北地方などから毛皮が取れ始めて,初めて存在が知られたハクビシンは,確実な原産地が不明なため,はたして帰化動物なのかどうか一部で疑われている。 帰化動物は,天敵や抗争種がいない場合,爆発的に増えて,農作物などにひどい害を与えることがある。…

【パームシベット】より

…体型はイタチ類に似るが,吻(ふん)がとがり,尾が長い食肉目ジャコウネコ科パームシベット亜科Paradoxurinaeの哺乳類の総称。アジア南部に5属6種,アフリカにナンジニア(キノボリジャコウネコ)1属1種があり,日本で知られるハクビシンもパームシベットに含まれる。また,ビンツロングも分類学的には含まれるが,通常パームシベットとは呼ばない。…

※「ハクビシン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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