ハエトリグモ(読み)はえとりぐも(英語表記)jumping spider

改訂新版 世界大百科事典 「ハエトリグモ」の意味・わかりやすい解説

ハエトリグモ (蠅虎)
jumping spider

クモハエトリグモ科Salticidaeの蛛形(ちゆけい)類の総称。ハエトリグモの名は巧みにハエをとらえる行動に,また英名や中国名の跳蛛はその敏しょうな跳躍動作に由来する。世界中で約5000種ほどが知られており,熱帯・亜熱帯地域に多いが全世界に広く分布しているグループで,大型種は20mm余り,小型種は2mm弱。歩脚末端には毛が密に生え徘徊はいかい)・跳躍行動によく適応している。クモの中では高度に視覚に依存した行動をとるグループで,8個の単眼は3列に並び前方を向いた最前列の4眼と斜上方を向いた第3列の2眼は大きく,とくに最前列中央の2眼は8眼中最大となる。

 網を張らずに昼間樹枝葉あるいは地上を徘徊し獲物をとらえる。葉裏,樹皮下などに糸で脱皮産卵越冬などのための住居をつくる。家屋内外をその生息場所とする種もいる(アダンソンハエトリ,チャスジハエトリなど)。繁殖期には雄は雌の前で求愛ダンスを踊り,また雄どうしが出合うと威嚇・誇示行動をとり優劣を競う種類が多い。日本各地にはこの習性を利用した遊び,すなわちネコハエトリCarrhotus xanthogrammaの雄を闘わせる遊びがある。このためネコハエトリには多く方言がある。体の大きさによる雌雄差は小さいが,歩脚の長さや太さなどの形態色彩が雌雄で異なり,性的2型を示す種もいる。アリグモをはじめアメイロハエトリなどアリへの擬態を示す種のほか,奇異な形態をもつ種もおり,クモ類の中でも独自の方向へ進化したグループといえる。日本では約100種が知られている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハエトリグモ」の意味・わかりやすい解説

ハエトリグモ
はえとりぐも / 蠅取蜘蛛
蠅虎
jumping spider

節足動物門クモ形綱真正クモ目ハエトリグモ科のクモの総称。種類がきわめて多く、日本だけでも80種余り知られている。体は扁平(へんぺい)で、体のわりに短い脚(あし)は太く、8眼のうち前列の中央の2個は大きくヘッドライト状なので、ほかのクモとは容易に区別がつく。ジャンプ力が強く、ハエなどを巧みにとらえる。網を張らず、家屋の内外、草上、樹上などを徘徊(はいかい)する。産卵期には一時的に住居をつくってその中に潜む。歩脚末端には2本のつめのほか粘着性の毛の束があるので、天井裏でも垂直のガラス面でも歩くことができる。成熟期には雄が雌の前で身ぶりおかしくダンスをするので有名。これを求婚ダンスという。

 屋内に多いのは関東地方ではミスジハエトリやチャスジハエトリ、関西地方ではアダンソンハエトリが多い。家屋の内外にはシラヒゲハエトリ、野外にはネコハエトリやマミジロハエトリが多い。アリグモもこのクモの仲間である。なお、ハエトリグモの種類をいうときは、最後の「グモ」を省く。

[八木沼健夫]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハエトリグモ」の意味・わかりやすい解説

ハエトリグモ
Salticidae; jumping spider

クモ綱クモ目ハエトリグモ科に属する種類の総称。一般に体長 0.2~2cm,体は太くて扁平。眼は3列に並び,前列4眼のうち中央2個が巨大で前方に突出する。歩脚の末端には粘着性の毛の束が生えており,垂直面や天井などの歩行も可能である。樹上,草上,地面,壁,塀などを自由に徘徊し,巧みにジャンプして昆虫などを捕える。属種の分化が著しく,日本産だけでも 100種以上が知られている。人家にはアダンソンハエトリ Hasarius adansoni,シラヒゲハエトリ Menemerus confusus,チャスジハエトリ Plexippus paykulliなどがごく普通で,世界的に広く分布している。 (→クモ類 )

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百科事典マイペディア 「ハエトリグモ」の意味・わかりやすい解説

ハエトリグモ

蛛形(ちゅけい)綱ハエトリグモ科の総称。普通,6〜8mm。草の葉の上や木の幹の表面にすみ,家屋の内外にも多い。単眼がよく発達し,敏捷(びんしょう)でハエ,アブなどを捕食。網は張らない。ガラスの表面などを歩けるのは,前脚の先端に毛の束があって吸盤のようなはたらきをするからだといわれる。シラヒゲハエトリ(単にハエトリグモとも),アダンソンハエトリなど,多くの種類がある。

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世界大百科事典(旧版)内のハエトリグモの言及

【クモ(蜘蛛)】より

…網を張らずに,クモ自身で餌をとらえて生活する。日本にはカニグモ科,ハエトリグモ科,フクログモ科,イヅツグモ科,アシダカグモ科,アワセグモ科,シボグモ科,イヨグモ科,ヒトエグモ科,ワシグモ科など14科のクモがいる。
【形態と機能】
 クモの体は頭胸部と腹部の二つの部分から成り立つ。…

※「ハエトリグモ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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