ハイラックス(英語表記)hyrax

翻訳|hyrax

精選版 日本国語大辞典 「ハイラックス」の意味・読み・例文・類語

ハイラックス

〘名〙 (hyrax) ハイラックス目(イワダヌキ目)ハイラックス科の哺乳類総称体形齧歯類に似るが、原始的な有蹄類。アフリカのサハラ砂漠以南と、シリアアラビアの岩場や森林にすむ。体長四〇~五〇センチメートルで、尾はない。耳は丸くて小さく、口の形状はウサギに似る。体色は灰白色から褐色まで変化に富み、ウサギのような毛が密生する。キノボリハイラックス属イワハイラックス属ハイラックス属の三属あり、八種に分類される。性質は穏和で、ペットとして飼われることもある。

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デジタル大辞泉 「ハイラックス」の意味・読み・例文・類語

ハイラックス(hyrax)

ハイラックス目ハイラックス科の哺乳類の総称。体長30~60センチ、尾はないか非常に短い。前肢に4指、後肢に3指あり、ひづめをもつ。岩地を好み、草食性。体形・体色などがタヌキに似るのでイワダヌキの名もあるが、分類上はゾウに近い。アフリカに分布し、キノボリハイラックス・イワハイラックスなどがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「ハイラックス」の意味・わかりやすい解説

ハイラックス
hyrax

イワダヌキ目(ハイラックス目)ハイラックス科Procaviidaeの哺乳類の総称。体型がややタヌキに似るところからイワダヌキ(岩狸)とも呼ばれる,原始的な有蹄類。アフリカから中近東アラビア半島に分布。体はウサギ大で,ずんぐりしており,耳は短く,尾はないか,あってもきわめて小さい。前足に4指,後足に3指があり,扁爪(ひらづめ)をもつが後足の第2指のみ鋭いかぎづめがある。足裏にはゴム状の掌球に凹凸があるので吸引力をもち,岩や木の上で巧みに行動できる。肢軸(しじく)は第3指を通り,手根骨(しゆこんこつ)は長鼻類と同様に縦に並び,また中心骨があり,かすかな第3転子(てんし)があるところなどから長鼻類(ゾウ)に近縁とされる。上あごに1対ある門歯は無根で終生のび続けるが,下あごの2対は有根である点も特徴的である。体色は褐色が基調で,背の中央には他の部分と色の異なる毛で囲まれた背腺がある。イワダヌキ目Hyracoideaは1科3属8種に分けられる。

 ハイラックス属ProcaviaケープハイラックスP.capensisなど4種からなる。これは体長30~55cm,尾はなく,肩高20~31cm,体重は雄で約4kg,雌で約3.6kg。アフリカから中近東,アラビア半島南部に分布。森林,草原,砂漠などの岩場に大きな集団で生活する。集団は1頭の雄と数頭の雌と子からなる家族群の集合体で,わずか4頭ほどの集団から60頭に達する集団まである。日中よく活動し,木の葉や草などの植物質を食べたり,岩の上での日光浴を好む。妊娠期間205~245日で,1産1~6子を生む。寿命は飼育下で11年の記録がある。

 イワハイラックス属Heterohyraxは北アフリカから南アフリカにキボシイワハイラックスH.brucei1種が分布。体長30~38cm,尾はなく,肩高約30cm,体重0.5~4.5kg。ケープハイラックスと似たような環境にすみ同じような習性をもつが,朝夕によく食べ,木の葉を好む傾向がある。集団は大きく,ときに数百頭にもなる。妊娠期間約225日,1産2子がふつうで,寿命は7年くらい。

 キノボリハイラックス属Dendrohyraxはサハラ以南のアフリカに3種が分布。体長40~60cm,尾長1~3cm,体重1.5~4.5kg。ふつう森林の樹上にすみ,集団で生活することは少ない。日中も活動するが,おもに夕刻より出歩き,木を降りることもあり,木の葉を主食とする。妊娠期間約240日,1産1子,ときに2子を生む。寿命は飼育下で5年半の記録がある。

 なお,ハイラックスは地中海地方で古くから知られ,旧約聖書詩篇》第104篇18節に〈高き山はやぎのすまい,岩は岩だぬきの隠れるところである〉とある。また古代フェニキア,ヘブライではshaphan,Šāān(〈隠れたるもの〉の意)という名で知られ,スペインの地をはじめてみたフェニキア人がこの地にハイラックス(実はアナウサギであった)が多いところからこれをIshaphan(ハイラックスの島)と呼び,ローマ時代にHispaniaに転訛(てんか)したと伝えられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハイラックス」の意味・わかりやすい解説

ハイラックス
はいらっくす
hyrax

哺乳(ほにゅう)綱ハイラックス目ハイラックス科に属する動物の総称。イワダヌキ(岩狸)ともいう。また、1科で目を構成し、ハイラックス類ともよばれる。この科Procaviidaeの仲間は、草食性の原始的な有蹄(ゆうてい)獣で、前肢に4指、後肢に3指があり、平づめをもつ。橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃくこつ)、脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)がそれぞれ分離しており、ゾウの足に似ている。歯式は

の合計34本で、上顎(じょうがく)の門歯は無根で伸び続け、分類学的にはゾウに近いものと考えられている。体は全体に毛で覆われ、背には背腺(はいせん)を有し、この周囲の被毛は興奮すると起立する。胃は単一で小腸は長く、盲腸と結腸の一部に1対の盲嚢(もうのう)膨大部を有する。体長30~60センチメートル、体重2~6キログラム。中近東とアフリカに分布し、岩地、森林に、小さな群れや、種類によっては150頭にも上る群れで生活している。多くは日中活動するが、キノボリハイラックス属に含まれる種は夜行性である。妊娠期間は225~250日で、1回3頭ほどの出産がみられ、生まれた子は数時間でほかの動物から逃げることができる。

 ハイラックスは分類的には不確定なところが多く、2属あるいは3属3~11種に分類される。ハイラックス属Procaviaにシリアハイラックス、ケープハイラックスなど5種、イワハイラックス属Heterohyraxにキボシイワハイラックスなど3種、キノボリハイラックス属Dendrohyraxに3種があるとする、などがその一例である。

[齋藤 勝]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハイラックス」の意味・わかりやすい解説

ハイラックス
Procaviidae; hyrax

岩狸目ハイラックス科の動物の総称。イワダヌキともいう。ウサギ大で,一見齧歯類に似るが,系統的にはゾウに近縁である。上顎に1対の門歯があり,これは齧歯類のものと同様に一生伸び続ける。下顎にある2対の門歯は歯根をもつ。前肢に4指,後肢に3指あり,それぞれ平たい爪をもつ。腕骨が掌骨上に規則正しく並ぶ点がゾウと同じで,本科を特徴づけている。ケープハイラックス Procavia capensisがよく知られているが,この種は草食性で,南アフリカ,西アジアに分布し,多くは群れをつくって生活している。ほかにキノボリハイラックス,ロックハイラックス Heterohyrax bruceiなどがいるが,いずれもアフリカに分布する。

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百科事典マイペディア 「ハイラックス」の意味・わかりやすい解説

ハイラックス

イワダヌキとも。ハイラックス(イワダヌキ)目ハイラックス(イワダヌキ)科の哺乳(ほにゅう)類8種の総称。体長30〜60cm,体重1.3〜5.4kgほど。一見,齧歯(げっし)類に似るが,系統的にはゾウに近い。シナイ半島〜アラビア半島,アフリカに分布。種によって樹上性または地上性。ケープハイラックスは最も有名で岩地に群生。朝夕活動し,果実,葉を食べる。1腹2〜4子。

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デジタル大辞泉プラス 「ハイラックス」の解説

ハイラックス

トヨタ自動車が1968年から製造、販売している乗用車。2、4ドアのピックアップトラック。SUV型の派生車種、ハイラックスサーフがある。

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