ネルンスト(読み)ねるんすと(英語表記)Walther Hermann Nernst

デジタル大辞泉 「ネルンスト」の意味・読み・例文・類語

ネルンスト(Walther Hermann Nernst)

[1864~1941]ドイツ物理化学者。化学熱力学を研究。可逆電池の考察から、温度が絶対零度に近づくとエントロピーが有限値になることを発見し、ネルンストの熱定理(熱力学の第三法則)として発表。1920年ノーベル化学賞受賞。

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精選版 日本国語大辞典 「ネルンスト」の意味・読み・例文・類語

ネルンスト

(Walther Hermann Nernst ワルター=ヘルマン━) ドイツの物理化学者。一九〇五年、絶対零度のエントロピーに関する「ネルンストの熱定理」(=熱力学第三法則)を発見した。また、電溶圧・溶解度積などの研究およびネルンスト電灯発明などで知られる。熱化学における業績により一九二〇年ノーベル化学賞受賞。主著「新熱理論による物理化学の理論と実験」。(一八六四‐一九四一

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネルンスト」の意味・わかりやすい解説

ネルンスト
ねるんすと
Walther Hermann Nernst
(1864―1941)

ドイツの物理化学者。熱力学第三法則の発見者。6月25日西プロイセンの小村ブリーゼン(現、ポーランドのボンブジェズノ)に生まれる。父はこの地方の判事であった。チューリヒベルリンの大学で学んだのち、グラーツ大学でボルツマンの指導を受け、金属中の電流に及ぼす熱流と磁場の合成効果(ネルンスト効果)を研究した。1888年ライプツィヒ大学のオストワルトの助手となり、1889年電極物質の電離溶圧の概念を導入して電極電位に関する「ネルンストの式」を導出、物理化学者として認められる。当時ドイツは、1871年のドイツ帝国の統一、1890年ビスマルク退陣後、軍備拡張が急速に進められるなかで、ドイツ合成化学工業が成立、発展を遂げる時期にあり、また第一次世界大戦を挟んで、ドイツ科学がプランクアインシュタインをはじめ十指に余るノーベル賞学者を擁してその頂点を極めた時代(それはナチスの台頭とともに衰退する)であった。そのなかにあって物理化学もまた急速な発展を遂げるが、その指導者の一人がネルンストであった。1891年ゲッティンゲン大学に転任、1894年同教授となる。

 1905年ベルリン大学教授となり、翌1906年、彼の最大の業績である絶対零度のエントロピーに関する「ネルンストの熱定理」=熱力学第三法則を発見した。ネルンストの研究所ではこの定理を熱力学の一般法則として確立するための実験的研究が続けられ、それは低温における熱測定という新しい分野を開き、量子論の形成に実験の面から重要な寄与をすることになる。またネルンストは気体に対しても彼の定理が成立すると考え「気体の縮退」を予言、その解決はのちに量子統計力学によって与えられた。1918年には水素‐塩素の光化学反応に初めて連鎖反応の考えを導入しその機構を明らかにした。「ネルンスト電球」の発明(1897)もある。熱化学の研究により1920年ノーベル化学賞受賞。1941年11月18日ベルリン近郊でその生涯を閉じた。

[常盤野和男]

『K・メンデルスゾーン著、藤井かよ・藤井昭彦訳『ネルンストの世界――ドイツ科学の興亡』(1976・岩波書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ネルンスト」の意味・わかりやすい解説

ネルンスト
Walther Hermann Nernst
生没年:1864-1941

ドイツの物理学者,化学者。西プロイセンのブリーセン(現,ボンブジェズノ)の生れ。チューリヒ,ベルリン,グラーツ,ビュルツブルクの諸大学に学んだ。1887年,ビュルツブルクにおいて,熱流の流れている金属板が磁場中にあるとき,この金属板に起電力が生じるというネルンスト=エッティングハウゼン効果に関する論文で学位を得,ライプチヒのF.W.オストワルトの助手となった。1891-1905年ゲッティンゲン大学教授,1905-22年および1925-33年ベルリン大学教授を歴任。この間,1922-24年ベルリンのドイツ国立物理工学研究所の所長を務めた。ネルンストの初期の研究は電気化学を中心とした研究で,オストワルトのもとで,水銀の塩を用いた電池の起電力が,古い測定による反応熱に基づいて熱力学的に計算された値と一致しないことから,水銀化合物の生成熱についての研究を行ったのが,最初のしごとである。電気化学分野の研究としては,ほかに,分解電圧に関する研究,残余電流の発見,水素の析出に際しての過電圧の研究,水の溶媒としての能力と誘電率との関連の考察,誘電率測定のための装置の開発などがある。また,電気化学と関連した生物学の問題にも取り組み,神経の興奮機構に関して,細胞内の塩の濃度が,静止時に比べて一定の大きさだけ変化したときに興奮が起こるという説を提出した。

 これらの研究と並行して溶解度積の概念,また分配の法則を提唱し,さらに光化学,反応速度,化学平衡についても研究したが,ゲッティンゲン時代の終りころから,とくに化学平衡についての研究を深めてゆき,1906年,ネルンストの熱定理すなわち熱力学第3法則を樹立した。以上のほかにも,低温での固体の比熱測定など,物理化学上多くの重要な研究がある。応用研究にも関心が深く,ネルンストランプを発明したほか,アンモニア合成を高圧下で行う着想を,ハーバー = ボッシュ法よりもずっと先んじて得ている。またソルベー会議の創案者としても名高い。《理論化学》(1893)ならびに《新しい熱定理の理論的実験的基礎》(1918)は重要な著作である。1920年,ノーベル化学賞を受けた。
執筆者:

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化学辞典 第2版 「ネルンスト」の解説

ネルンスト
ネルンスト
Nernst, Hermann Walther

ドイツの物理化学者.1883年から各地の大学で物理学を学ぶ.H.L.F.von Helmholtz(ヘルムホルツ)の熱力学を聴講し,L. Boltzmannのもとで熱電気効果の実験を行う.この実験をもとに,1887年ビュルツブルク大学のF.W.G. Kohlrauschのもとで学位を取得.そこでの状況が,かれの関心を物理学の化学的問題への適用に向けさせた.同僚S.A. Arrhenius(アレニウス)の紹介で,1888年ライプチヒ大学C.W.W. Ostwald(オストワルト)の助手となる.その後,かれはOstwald,J.H.van't Hoff(ファントホッフ),Arrheniusとともに物理化学の創始者となった.濃淡電池の起電力を表す“ネルンストの式”の導出などの業績により,1891年ゲッチンゲン大学物理化学教授,1905年ベルリン大学物理化学教授となる.当時,化学平衡成立条件の決定が課題であったが,それに必要なギブズ-ヘルムホルツの式の積分中の積分定数が未定であった.かれは,絶対零度付近での比熱のふるまいやその相加性などを根拠に,この積分定数は0になると論じ,その発展がかれの熱定理となった(ネルンストの熱定理,1906年).熱力学第三法則の基礎を築いたこの業績は,量子論に基礎づけを与え,低温物理学の発達を促した.熱化学への貢献で1920年ノーベル化学賞を受賞した.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ネルンスト」の意味・わかりやすい解説

ネルンスト
Nernst, Walther Hermann

[生]1864.6.25. ブリーゼン
[没]1941.11.18. ムスカウ
ドイツの物理化学者。チューリヒ,グラーツ,ウュルツブルク各大学に学び,ライプチヒ大学で F.W.オストワルトの助手をつとめたのち,ゲッティンゲン大学教授 (1895) を経てベルリン大学教授 (1905) ,同大学実験物理学研究所所長 (24) 。 1893年の電極電位差を熱力学的に求めるネルンストの式の導出,1906年の熱力学第三法則の定式化 (ネルンストの熱定理) などのほか,化学平衡の熱力学理論,高温気体低温固体の研究,光化学に関する研究が知られており,物理化学理論の発展に大きく貢献。ネルンスト・ランプの発明者としても知られる。晩年は天体物理学にも関心をもった。熱化学の業績によって,20年ノーベル化学賞受賞。

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百科事典マイペディア 「ネルンスト」の意味・わかりやすい解説

ネルンスト

ドイツの物理化学者。チューリヒ,ベルリン,グラーツ,ビュルツブルクなどの各大学で学び,1887年ライプチヒ大学でオストワルトの助手,のちゲッティンゲン大学教授を経て,1905年ベルリン大学教授。1889年電離溶圧の概念で電池の起電力を説明。また反応速度,化学平衡,液晶などの研究,誘電率の測定,低温における比熱の測定などを行い,1906年熱力学の第三法則(ネルンストの熱定理)を提出。オストワルト,ファント・ホフに続き物理化学の発展に寄与。1920年ノーベル化学賞。
→関連項目酸化還元電位

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世界大百科事典(旧版)内のネルンストの言及

【熱力学】より

…熱力学の第3法則は,絶対0度には到達不可能であり,エントロピーなどの温度変化が絶対0度では0になることを主張している。1906年にドイツのW.H.ネルンストによって導入され,のちにM.プランクによって一般化されたものである。 歴史的には,外部から仕事を与えずに,永久に動き続ける第1種の永久機関を探し求めて,ついにその実現は不可能であることを経験的に知り,熱力学第1法則の形に集約されたのであり,また,一つの熱源から熱をとり,それを全部仕事に変える第2種永久機関の夢も破れ,ケルビンの原理として樹立された。…

※「ネルンスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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