ネオ・ジオ(読み)ねおじお(英語表記)neo geo

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネオ・ジオ」の意味・わかりやすい解説

ネオ・ジオ
ねおじお
neo geo

新しい幾何学表現によるコンセプチュアルアート。1980年代なかばのニューヨークで、アシュレイ・ビッカートンAshley Bickerton(1959― )、ピーター・ハリーPeter Halley(1953― )、ジェフ・クーンズJeff Koons(1955― )、メイヤー・バイスマンMeyer Vaisman(1960― )という、イースト・ビレッジ出身の4人の作家を総称した表現で、正式にはネオ・ジオメトリック・コンセプチュアリズムという。ハイム・スタインバックHaim Steinbeck(1944― )、ジョン・アームレーダーJohn Armlader(1948― )の彫刻も含まれる。

 ネオ・ジオの作家たちは、日常生活から借用したイメージの幾何学的形態を誇張することでミニマリズムとのつながりを強調し、そのイメージの文化的、社会的な文脈の喚起力(アレゴリー性)を利用して、消費社会や疎外的な都市環境や人種差別への批判を示した。2個のバスケットボールをガラスケースに浮かべたクーンズの『ツー・ボール 50/50タンク』(1985)に代表されるように、作品はミニマリズムとポップ・アートの形態により、現代資本主義や工業生産における機械性を反映し、同時にアプロプリエーションの批判性も組みこんでいる。

 ハリーは1981年ころから、現代の都市やオフィスの幾何学性を反映した四角い「セル」を、デイグロー絵の具(蛍光インク)で描く絵画を制作する。ハリーは80年代、『アーツ・マガジン』Arts Magazine、『フラッシュ・アート』Flash Artといった批評性の強い雑誌に論文を発表していたが、84年の論文「幾何学の危機」Crisis in Geometryは、70年代のミニマリズムの影響を受けた幾何学的彫刻をフランスの哲学者ミシェル・フーコーの『監獄の誕生』Surveiller et Punir; Naissance de la Prison(1975)と重ね、自身の作品を含めた80年代の新しい幾何学表現を、ジャン・ボードリヤールの『シミュレーションズ』Simulations(1983)との関係のうちに読み解く試みであった。86年の論文「フランク・ステラとシミュラクラム」Frank Stella and the Simulacrumは、ステラの作品における、物の本質がそのコピーにとって代わられるポスト・モダン的状況を分析し、「シミュレーショニズム」という表現の流行のきっかけをつくった。

 バイスマンとビッカートンは、厚塗りのキャンバスに、拡大された写真のイメージや、日用品を暗示する抽象的模様を組み込んだ「壁かけ彫刻」を制作した。

 86年のニューヨーク、ソナベンド・ギャラリーでの4人展は成功するが、87年ロンドンのサーチ・コレクションによる「ニューヨーク・アートの現在」展で不評をかい、89年ころには急速に衰退した。しかし、そのミニマリズムとポップ・アートの形態的融合に現代社会への皮肉なまなざしをにじませたスタイルは、デミアン・ハースト、村上隆など、アメリカ以外の国の若い作家たちに引き継がれ、90年代前半の新しいポスト・モダン芸術に貢献した。

[松井みどり]

『Peter HalleyCollected Essays 1981-87 (1988, Bruno Bischofberger Gallery, Zürich)』『Robert AtkinsArtspeak; A Guide to Contemporary Ideas, Movements and Buzzwords (1990, Abbeville Press, New York)』『「ピーター・ハリー――社会を解読する絵画1981―1997」(カタログ。1998・北九州市立美術館)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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