日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヌーベル・バーグ」の意味・わかりやすい解説
ヌーベル・バーグ
ぬーべるばーぐ
nouvelle vague フランス語
1958年ごろから輩出した新しいフランス映画をさす総称で、フランス語で「新しい波」を意味する。初め週刊誌『レクスプレス』が一般的に使ったが、クロード・シャブロルの『いとこ同志』(1958)、フランソワ・トリュフォーの『大人は判(わか)ってくれない』(1959)、ジャン・リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』(1959)などが登場すると、映画製作の経験がほとんどない20代の青年たちがつくる斬新(ざんしん)な映画とそのグループをさす呼称になった。中心になったのは映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』で批評の筆をとっていた人々(前記3人を含む)であるが、とくにゴダールの『勝手にしやがれ』はアメリカのギャング映画を下敷きにしながら、映画文法の無視、演劇的演技や心理描写の拒否、といった一見アマチュアリズムの居直りとも思える映画スタイルによって観客を驚かせた。ヌーベル・バーグ誕生に大きな影響を与えた先達としては、映画監督のアレクサンドル・アストリュックAlexandre Astruc(1923―2016)、『カイエ・デュ・シネマ』の理論家アンドレ・バザンがいる。トリュフォーらはバザンの批評をさらに進め、ハリウッド映画を高く評価して批評軸の転換をもたらした。『カイエ・デュ・シネマ』派にはほかにジャック・ドニオル・バルクローズJacques Doniol-Valcroze(1920―1989)、エリック・ロメール、ジャック・リベットJacques Rivette(1928―2016)らがおり、同派以外にはルイ・マル、アラン・レネ、ロジェ・バディム、アニエス・バルダらがいて、文学的・演劇的フランス映画の伝統に新風を吹き込んだ。
[岩本憲児]
『佐藤忠男著『ヌーベルバーグ以後――自由をめざす映画』(1971・中央公論社)』▽『飯島正著『ヌーヴェル・ヴァーグの映画体系』全3巻(1980~1984・冬樹社)』▽『遠山純生編『ヌーヴェル・ヴァーグの時代』(2010・紀伊國屋書店)』