ニシキゴイ(読み)にしきごい(英語表記)fancy carp

改訂新版 世界大百科事典 「ニシキゴイ」の意味・わかりやすい解説

ニシキゴイ (錦鯉)
fancy carp

観賞を目的として野生のコイCyprinus carpioから色彩斑紋光沢などの優れた形質を選抜,育成したコイの品種の総称。かつてイロゴイ(色鯉),カワリゴイ(変り鯉),ハナゴイ(花鯉)などと呼ばれていたが,最近ではほぼニシキゴイ(錦鯉)に統一されている。新潟県小千谷市を中心とした旧20村郷付近の山地に散在する溜池を利用して江戸時代から飼育,改良されたものがその主流をなしている。ニシキゴイが一般に知れわたったのは,1914年,上野公園で開催された東京大正博覧会に新潟県東村から紅白(コウハク)が出品されて好評を博して以来といわれている。現在では新潟県以外でも福島,埼玉,広島など多くの県で生産が行われている。一方,その美を競う品評会も毎年各地で開かれ,全国的な組織も結成されている。優良なコイの評価は高度の技術的な審査によって決められるが,庭園の池へ放養して観賞することを主目的とするため,魚を背面から見たときの色彩,斑紋などが要点とされているようである。

 ニシキゴイの養殖は本質的には食用ゴイと変わらないが,食用ゴイが成長が速く美味で多収穫を望むのに対して,ニシキゴイでは容姿,色彩,斑紋などの優れたものを得るのが目的となる。しかし,ニシキゴイでは優良な親魚どうしの交配においてすら良質の稚魚を得る比率はきわめて小さい。ニシキゴイは色彩,斑紋などにより多くの品種がつくられ命名されているが,ここではその代表的なものについて略記する。

(1)紅白(コウハク。更紗(さらさ)) 白地赤色の斑紋のあるもの。ニシキゴイの品種中でももっとも有名なものの一つ。赤色斑が濃く鮮やかで,その配置が左右にバランスよく散在することが望ましい。赤色斑が頭頂部のみに円形になって存在するものをとくに丹頂タンチョウ)と呼ぶ。(2)別光(ベッコウ。鼈甲とも書く) 淡色地に黒色斑のあるもので,白色地を白別光(シロベッコウ),黄色地を黄別光(キベッコウ),赤色地を緋別光(ヒベッコウ)という。(3)大正三色(タイショウサンショク。大正三毛(タイショウサンケ)ともいう) 白色地に赤色斑と黒色斑とがほどよく分散配置されているもので,紅白とともに代表的な品種の一つに数えられる。従来からあった赤・黒色斑のコイ(三色(サンショク))を,1917年(大正6)に新潟県竹沢村の星野栄三郎が赤色斑を鮮紅色斑に,黒色を漆黒色に改良して固定に成功したもの。(4)白写(移),黄写(移),緋写(移)(シロウツリ,キウツリ,ヒウツリ) これらの3者はそれぞれ地色が黒色で,白色斑が白写,黄色斑が黄写,赤色斑が緋写である。(5)昭和三色(ショウワサンショク。昭和三毛(ショウワサンケ)) 黒色の地色に赤と白の斑紋のあるもの。これも竹沢村の星野重作が1927年(昭和2)に,黄写に紅白を配してつくり出したもので,昭和年代の三色という意味でこのように命名された。(6)浅黄(アサギ) 頭部の背面から体の背面一帯に青色でうろこが網目状に見えるもの。青色がやや淡いものを鳴美浅黄(ナルミアサギ),濃い紺青色のものを紺青浅黄(コンジョウアサギ)という。腹面と各ひれが赤色のものを尊重する習わしがある。(7)黄金(オウゴン) 全身が金色に輝くもの。ふつうの黄金のほかに黄色の濃淡などにより数種に細分されている。黄色が少なくいぶし銀のような色彩のものを鼠黄金(ネズオウゴン),黄色の濃いものを山吹黄金(ヤマブキオウゴン),橙黄色のものをオレンジ黄金(オレンジオウゴン)という。さらにまったく黄色を欠き純白色で白金色に輝くものをプラチナと呼んでいる。以上のほかうろこの大きさや配列がドイツゴイの形式をしたものも多く,このようなものをドイツ何々と呼んでいる。ドイツ紅白,ドイツ黄金などである。ドイツゴイ型のうろこをもった浅黄の場合は秋水(シュウスイ)という。

 なお,斑紋がなく単色のものをそれぞれ赤無地(アカムジ,赤),白無地(シロムジ,白),黄鯉(キゴイ,黄),茶鯉(チャゴイ,褐色)などという。白無地と黄鯉には瞳孔が赤色の白化型albinoも存在する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニシキゴイ」の意味・わかりやすい解説

ニシキゴイ
にしきごい / 錦鯉
fancy carp

淡水魚のコイのなかで、色彩や斑紋(はんもん)が美しく、観賞用にされるものの総称。かつては、イロゴイ(色鯉)、ハナゴイ(花鯉)、カワリゴイ(変わり鯉)、モヨウゴイ(模様鯉)などともよばれてきた日本特産のコイで、1958年(昭和33)ごろからニシキゴイとよばれるようになった。ニシキゴイは、マゴイ(真鯉)の突然変異で生じたシロゴイ(白鯉)、ヒゴイ(緋鯉)、キゴイ(黄鯉)などや、マゴイを相互に交雑させ、改良を重ねて作出された。原産地は新潟県小千谷(おぢや)市の東方の山村地帯で、現在では日本各地で育成されている。日本産種の間で作出されたニシキゴイは、色彩以外の形態や生態はマゴイとほとんど違わなかったが、ドイツゴイが移入された1904年(明治37)以降は、それらとの交雑によって変異の幅が拡大しており、それぞれの特徴に応じた呼び名が100近くもある。

[鈴木 亮]

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百科事典マイペディア 「ニシキゴイ」の意味・わかりやすい解説

ニシキゴイ

コイ

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世界大百科事典(旧版)内のニシキゴイの言及

【小千谷[市]】より

…北部の旧片貝町は伝統産業に札紙,桐下駄,醸造がある。特産は近世に起源をもつニシキゴイで,生きた宝石としてブームを呼び,3競売所がある。山本山(336m)は信濃川の河岸段丘で,山頂を谷地山台と呼び乳牛の放牧場で,中腹はスキー場,北麓に最大出力12.3万kWの小千谷発電所があり,さらに90年同出力20.6万kwの小千谷第2発電所が運転を開始した。…

【コイ(鯉)】より

…なお,〈コイの滝登り〉といわれるが,実際にはそのようなことは行わない。
[品種]
 黒色以外の色彩のコイをイロゴイ(色鯉),赤色のものをヒゴイ(緋鯉)などと呼び,これらを観賞用に選抜育種したものをとくにニシキゴイ(錦鯉)と称している。ニシキゴイの養殖は新潟県の小千谷,長岡などの山間で発達したもので,現在でもこの地方ではとくに盛んに行われ色彩の鮮やかな美しいものが生産されている。…

※「ニシキゴイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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