ナビ派(読み)ナビは(英語表記)Nabis

精選版 日本国語大辞典 「ナビ派」の意味・読み・例文・類語

ナビ‐は【ナビ派】

〘名〙 (ナビは Nabis ヘブライ語預言者の意) 一八八八年にパリセリュジエドニボナールビュイヤールらによって結成された画家グループゴーガン影響のもとに、平面的・装飾的画風の抽象主義絵画に道をひらいた。

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改訂新版 世界大百科事典 「ナビ派」の意味・わかりやすい解説

ナビ派 (ナビは)
Nabis

カトリック精神および象徴主義の色彩が強い,フランス19世紀末の画家グループ。1888年,パリのアカデミー・ジュリアンの画学生であったドニセリュジエを中心に形成された。〈預言者〉を意味するヘブライ語nāḇî’にちなんだグループ名はセリュジエの命名になる。最初のメンバーは上記2人のほか,ボナール,ビュイヤール,イベルHenri-Gabriel Ibels(1867-1936),ピオRené Piot(1869-1934),ランソンPaul Ranson(1864-1909),ルーセルKer Xavier Roussel(1867-1944)。その後,ラコンブGeorges Lacombe(1868-1916),リップル・ローナイJózsef Rippl-Rónai(1861-1927),マイヨール,バロットン,フェルカーデJan Verkade(1868-1946)等が加わった。1888年,ブルターニュポンタベンで,ゴーギャンの指導のもとにセリュジエが描いた新奇な風景画習作--〈護符(タリスマン)〉と呼ばれる--は,印象主義を超える道を模索していたドニたちにとって大きな啓示であり,これがグループ形成の直接のきっかけとなった。以後,ナビ派の画家たちは,ゴーギャンないしポンタベン派の絵画観(総合主義Synthétisme)を都会風に洗練させ,隈取りのある平坦な色面を主にした装飾的画面を生みだすが,そこには本当の意味で独創といえるものはない。ナビ派の意義はむしろ,リュニェ・ポーの〈制作座〉の舞台装飾,《ルビュ・ブランシュ》誌のポスター挿絵等,美術全般にわたる活動の多様さ--ほかにもステンド・グラスモザイク,家具デザインを手がける--に求めるべきである。秘密結社風の集りを定期的にもち,毎年自分たちの展覧会を開いていたが,1900年以降は自然に解散していった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナビ派」の意味・わかりやすい解説

ナビ派
なびは
les Nabis

19世紀末、ゴーギャンの美学に共鳴してパリで結成された、反自然主義の画家グループ。1888年の秋、ポール・セリュジエはブルターニュ地方のポンタバンで、ゴーギャンの革新的な教えに従って、大胆な色彩と平面的な描法による一枚の風景画を制作。その体験をパリに戻ってアカデミー・ジュリアンの若い画家たちに伝えたことに端を発して、新しいグループが形成された。セリュジエのほか、ドニ、ポール・ランソン、アンリ・イベルス、ボナール、ケル・グザビエ・ルーセル、ビュイヤールらがそのメンバーとなり、その後さらに、ヤン・フェルカーデ、彫刻家のジョルジュ・ラコンブ、リップル・ロナイ、当時画家であったマイヨール、バロットンらがそれに加わった。「ナビ」とはヘブライ語で「預言者」を意味するが、こうした一般には理解しがたいことばを名称とすることに、このグループの神秘主義的傾向をうかがうことができよう。事実、熱烈なカトリック信者であり、神智(しんち)学や神秘哲学に通じていたドニ、セリュジエ、ランソンらは、ナビ派の運動にとりわけ神秘的・宗教的趣(おもむき)を与えた。しかし、ボナール、ルーセル、ビュイヤールらはそうした傾向からやや距離を置いていた。ナビ派は1891年から99年にかけてル・バルク・ド・ブットビル画廊などでグループ展を開催。その美学は、ゴーギャンをはじめ、ルドンやピュビス・ド・シャバンヌ、さらには浮世絵版画などの影響を受け、反自然主義的・装飾的・象徴主義的なものであり、造形要素の自律性を強調した平面的で大胆な画面構成によって、近代絵画の基本的方向を示した。また彼らは雑誌『ルビュ・ブランシュ』とも関係をもち、絵画のみならず、ポスター、挿絵、舞台装置や衣装のデザインにも手を染めた。ナビ派の運動は世紀末の10年余り続き、その後、各作家はそれぞれ独自の道を歩んで、運動は自然解消した。

[大森達次]

『レナータ・ネグリ著、若桑みどり訳『現代の絵画8 ボナールとナビ派』(1974・平凡社)』

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百科事典マイペディア 「ナビ派」の意味・わかりやすい解説

ナビ派【ナビは】

1890年―1900年ころに活動したフランスの画派。〈ナビNabis〉は元来ヘブライ語で〈預言者〉の意。セリュジエを中心に,ドニボナールビュイヤールらがゴーギャンの影響を受けて結成した。平面的・装飾的な構成を重視,形や色彩は作家自身の解釈によって決定するものと考えた。機関誌《ルビュ・ブランシュ》を刊行。
→関連項目アンティミスムカリエールクロアゾニスムマイヨール

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナビ派」の意味・わかりやすい解説

ナビ派
ナビは
Les Nabis

1880年代末から 90年代にかけてゴーガンの崇拝者である P.セリュジエ,J.ビュイヤール,P.ボナール,M.ドニ,P.ランソン,K.ルッセルらがパリで結成した芸術家のグループ。この派の前身といえるものにポンタベン派がある。 91年パリで第1回展を開き,絵画のほか版画,彫刻,挿絵,舞台装置,衣装なども制作した。彫刻家では A.マイヨールや G.ラコーンブが参加している。「ナビ」はヘブライ語で「預言者」の意味であり,神秘学や神智学に興味をもつセリュジエ,あるいは仲間の詩人カザリスの命名とされ,このグループの象徴主義的性格を表現している。またその動きは印象主義からフォービスムへの橋渡しとなり,20世紀絵画の動向を方向づけるものであった。 20世紀に入ると成員各自は独自の方向に自己の芸術を発展させ,グループは消滅した。

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世界大百科事典(旧版)内のナビ派の言及

【ポンタベン派】より

…個々の画風の違いはあるものの,浮世絵版画,エピナル版画,ステンド・グラス等から想を得た〈クロアゾニスムcloisonnisme(区分主義)〉――隈取りのある平坦な色面を主体にした画面構成――により,宗教性と装飾性を調和させた内省的かつ音楽的な画面を目ざした点に大きな特徴がある。こうした絵画観はセリュジエを通じてドニをはじめとするパリの画家たちに受けつがれ,ナビ派の結成を促すことになった。【本江 邦夫】。…

※「ナビ派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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