日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドニエプル川」の意味・わかりやすい解説
ドニエプル川
どにえぷるがわ
Днепр/Dnepr
ロシア、ベラルーシ、ウクライナを流れ黒海に注ぐ大河。ウクライナ語でドニプロДнiпро/Dnipro、また古代ギリシア語でボリステネスBorysthénēsとよばれた。
[金窪敏知・須長博明]
自然
ロシア連邦の首都モスクワ西方のバルダイ丘陵(標高250メートル)に発し、ロシア、ベラルーシ、ウクライナを南流して、黒海のドニプロ湾に注ぐ。流長2200キロメートル、流域面積50万4000平方キロメートル。ヨーロッパ・ロシアではボルガ川に次ぐ大河。上流部は氷期のモレーン(氷堆石(ひょうたいせき))からなるスモレンスク丘陵で、混交林地帯をなすが、モギリョフからキーウまでは、ベレジナ、ソジ、プリピャチ、デスナなど多数の支流が合流して広大な氾濫(はんらん)平野を形成し、沼沢地と広葉樹林が占める。中流部はキーウからザポリージャまでで、黄土からなるステップ地帯を通過し、下流部にはデルタを形成する。川の涵養(かんよう)源は、主として雪で、上流部では50%を占め、残りが地下水と雨で、雨の役割が小さい。キーウでの流量は年平均毎秒7000トン、最大2万5000トン、最小200トンで、春の洪水時に年間流量の60~70%、ときには80%が流れる。上流部では12月~4月初旬、下流部で12月~3月初旬に結氷する。
[金窪敏知・須長博明]
産業・水運
沿岸には、スモレンスク、モギリョフ、キーウ、クレメンチュク、ドニプロ、ザポリージャ、ニコポリ、ヘルソンなどの大都市が連なり、キーウ(55.1万キロワット)、クレメンチュク(62.5万キロワット)、カーミヤンシケ(25万キロワット)、カホウカ(31.2万キロワット)にはダムと発電所が建設され、ドニプロ重工業地帯の中核となっている(括弧(かっこ)内発電能力)。このうちザポリージャに建設されたドニプロ発電所は、旧ソ連が第一次五か年計画によって1932年自力で完成したもので、発電能力は当初40万キロワット、現在65.3万キロワット。誕生した人造湖はレーニン湖とよばれる。ドニエプル川は水上交通路としても重要で、河口から1990キロメートル上流のドロゴブジまで汽船が航行し、また支流プリピャチ川からドニエプロ‐ブク運河によって、ポーランドのビスワ川に通じる内陸水路も開けている。おもな輸送貨物は、木材、紙、パルプ、小麦、石炭・石油製品などである。下流部のカホウカからクリミア半島までクラスノズナミヤ運河が建設され、灌漑(かんがい)用水として利用されている。ドニエプル川の中・下流域はウクライナ穀倉地帯であり、また第二次世界大戦中の激戦地となった。
[金窪敏知・須長博明]