ドイツ神秘主義
どいつしんぴしゅぎ
Deutsche Mystik
絶対者たる神と個の魂との合一を求める神秘主義は、12、13世紀、ヨーロッパの修道院の女流神秘家たちに初めて現れたが、愛による神との合一が、神と魂との結婚という雅歌的イメージ(「キリストの花嫁」など)を中心に幻視(ビジョン)的に描かれ、この感情的神秘主義はゾイゼHeinrich Seuse(1300―1366)やバロックの神秘主義詩人らに引き継がれた。しかし、ドイツ神秘主義の特色は、M・エックハルトからニコラウス・クザーヌスに至る理知的神秘主義で、それは他国のように傍系思想ではなく、「ドイツ哲学の父」である。神学的な三位(さんみ)一体の神の背後に絶対的神性を思索的に追求しつつ、自己の魂の根底を究めて両者の一致を図る神秘主義は、ドイツの哲学的思索の源泉となり、それに深い内面性を与えた。またパラケルスス、ヤコブ・ベーメらの自然神秘主義は宇宙と人間を大世界(マクロコスモス)、小世界(ミクロコスモス)としてとらえ、絶対者と世界の照応一致の法則を求めた。
近代以後も神秘主義は敬虔(けいけん)派やロマン派、F・W・フレーベル、C・G・ユング、L・ウィットゲンシュタインなど、ドイツ思想界全般に影響を与えている。
[横山 滋]
『ヴェンツラッフ・エッゲベルト著、横山滋訳『ドイツ神秘主義』(1981・国文社)』
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ドイツ神秘主義
ドイツしんぴしゅぎ
German mysticism
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「ドイツ神秘主義」の意味・わかりやすい解説
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ドイツしんぴしゅぎ【ドイツ神秘主義 deutsche Mystik】
中世後期から近世にかけて,一連の系譜をなすドイツ人神秘家たちによって担われたキリスト教神秘主義の歴史的形態。狭義には,14世紀前半のエックハルト,ゾイゼ,タウラーを中心にした活動とその思想をさし,広義には,その3者以前のビンゲンのヒルデガルトやマクデブルクのメヒティルトMechthild von Magdeburg(1210ころ‐82か94)などの女性神秘家たち,および3者以後その精神をさまざまな変容において継承・展開したニコラウス・クサヌス,ベーメ,さらにはドイツ・ロマン主義のノバーリス,ドイツ観念論のフィヒテ,シェリングなどに及ぶ精神的系譜を総称する。
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世界大百科事典内のドイツ神秘主義の言及
【敬虔主義】より
…敬虔主義は既存の教派,制度的教会を否定せず,再生した信徒による自主的集会〈コレギア・ピエタティスcollegia pietatis(敬虔の集い)〉,教会内の小教会を作ったが,これは現代の教派を超えたエキュメニズム運動の先駆となり,政教分離を促す一因ともなった。 敬虔主義の成立に機縁を与えたものは,まずルターであるが,ドイツ特有の神秘主義的スピリチュアリズム(ドイツ神秘主義)も無視できない。しかし倫理化が強くなされ,近代の倫理主義的キリスト教へと続いていく。…
【神秘主義】より
…愛の合一は,魂と言(神の子)との霊的婚姻と考えられ,この考えは以後とくにビンゲンのヒルデガルトなどの中世女流神秘家によって体験的に深められていった。 13世紀末,14世紀初めになるとエックハルトを中心とするドイツ神秘主義の運動が起こり,近世初頭にいたるまで大きな直接的影響を与えた。エックハルトは神秘的合一のうちでさらに神の本質にまで透入し,純なる〈一〉との一,〈一の一なる一ein einic ein〉に徹しようとする。…
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