トンキン(英語表記)Tonkin
Tongking

改訂新版 世界大百科事典 「トンキン」の意味・わかりやすい解説

トンキン (東京
)
Tonkin
Tongking

ベトナム北部の古名で,フランス領インドシナの保護領名。トンキン(ベトナム語でドンキン)の名は,15世紀初頭,ホー・クイ・リ胡季犛)がハノイを東都とし,レ・タイト黎太祖)が東京としたことに始まる。17世紀以降,ハノイに拠ったチン(鄭)氏政権をヨーロッパ人がトンキン王国としたことから,北部をトンキンと呼ぶことが一般化した。特に1873年,ソンコイ川(紅河)ルートをねらってデュピュイ,ガルニエらが北部デルタを占拠し,黒旗軍に敗れた事件はトンキン事件としてヨーロッパに喧伝された。84年のフエ条約と,87年のインドシナ連邦の成立によって,北部は正式にトンキンとしてベトナム人の経略(皇帝の代理職)の支配するフランスの保護領となり,さらにドゥメール総督の時代に経略制が廃されてフランス人理事長官に統治されるようになった。植民地下のトンキンは,伝統的な村落構造がそのまま植民地制度の中に組み込まれ,北部の鉱業,南部のプランテーション低廉な労働力を供給する温床と位置づけられた。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トンキン」の意味・わかりやすい解説

トンキン
Tonkin

ベトナム北部,紅河 (ホンハ。ソンコイ川) デルタを中心とする地域の歴史的呼称。ほぼマー川以北をさす。前漢の武帝時代から中国に服属し,交趾郡あるいは交州などと呼ばれていたが,10世紀に独立。ベトナム人の諸王朝が北方の中国,南方チャンパ王国と争いつつ盛衰した。 1430年大越 (後黎朝) の首都がトンキン (現ハノイ) に定められ,18世紀初頭から,ここに拠る鄭氏の支配地域が,ヨーロッパ人によってトンキンと呼ばれるようになった。 1872年のトンキン事件などを経て,83年にフランスの保護領となり,87~1945年にはアンナン,コーチシナカンボジアラオスとともにフランス領インドシナ連邦を構成。第2次世界大戦後は,ベトナム独立運動の中心となった。紅河デルタは肥沃で,米を中心に,ココヤシサトウキビなどが栽培される。ハノイ,ハイフォンナムディンなどの大都市があり,近代工業も発達。ホンガイの無煙炭をはじめ,地下資源にも恵まれる。北部,西部の山地にはタイ族,ミヤオ (苗) 族などの少数民族が住む。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「トンキン」の意味・わかりやすい解説

トンキン

ベトナム北部をさした歴史的地域名で,フランス領インドシナ時代の呼称。Tongkinとも。漢字では東京。ベトナムではバックボ(北部)と呼ばれる。北は中国,西はラオスに接する。ソンコイ川流域平野を中心に西部の山地を含む。世界的な米作地帯で,石炭,スズ,タングステンなどの鉱産資源も豊富。秦・漢時代以来中国の支配が及び,10世紀以降ベトナム人による独立王朝が興亡した。17世紀以降西欧人の進出に伴い,中心地ハノイの別名トンキンが全域の呼称となった。
→関連項目アンナン交州コーチシナ

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トンキン」の意味・わかりやすい解説

トンキン
とんきん
Tonkin

ベトナム北部に対するヨーロッパ人の呼称。ベトナムではバクボ(北部)またはバクキ(北圻)とよぶのが普通である。東京(トンキン)の名は1430年、黎(れい)朝(レ朝)の太祖が前朝胡(こ)(ホ)氏の東都(ドンド。現ハノイ)を改めて東京としたのに始まる。16世紀末以来、黎朝の権臣鄭(チン)氏の支配する北部地域は、陶器、絹の産地としてヨーロッパ人の注目するところとなり、フエ(ユエ)を中心とする阮(げん)(グエン)氏の広南国(コーチシナ)と区別されて、トンキン王国とよばれた。19世紀後半、フランスはベトナムから北部を切り離すために、この名を積極的に用いるようになり、1887年のフランス領インドシナの成立とともに、北部はトンキン保護領として法定された。現在この名はまったく用いられない。

[桜井由躬雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

山川 世界史小辞典 改訂新版 「トンキン」の解説

トンキン
Tongking/Tonkin

北部ベトナムの旧称。黎(レー)朝ハノイ(東京(ドンキン))の中国式発音に由来する。大航海時代には南方の阮(グエン)氏(コーチシナ)に対して,黎朝=鄭(チン)氏政権がトンキン王国と呼ばれ,フランス領期にも北部はトンキンと呼ばれた。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android