トン(侗)族(読み)トンぞく(英語表記)Dong

改訂新版 世界大百科事典 「トン(侗)族」の意味・わかりやすい解説

トン(侗)族 (トンぞく)
Dòng zú

中国,貴州省南東部,湖南省,広西トン族自治区に分布する少数民族。自称カム。漢族は洞人,洞家と呼称。人口296万余(2000)。最多集居地区は貴州省黔(けん)東南ミヤオ(苗)族トン族自治州。そのほか湖南省の通道,新晃,広西の三江,竜勝など各自治県に分布。言語系統は,タイ諸語のうちカム語群の系統に属す。方言により,貴州省錦屛県啓蒙を境にして南北の方言区に大別する。元来無文字であるが,1958年トン文字が制定された。

 山間の小河川・渓谷沿いに高床家屋を営む。耕地はおもに梯田で,水稲,小麦,綿花などを栽培するほか,杉の植林をよくし錦屛杉の名で知られる。元来は古代百越の支族で,両粤(りようえつ)(広東,広西)沿岸地帯より現在の貴州,湖南,広西の交界地帯に定着したといわれる。明・清時代は,土司制度下に置かれ,ミヤオ族などとしばしば反乱を起こした。風俗,習慣などは中国文化の影響が強い。父系出自に基づく家父長的家族制を有する。一村一姓の例が多い。村寨の中心部には木造の数層より成る鼓楼があり,村政集会・娯楽の場となっているほか,休憩所として涼亭がある。各村寨は寨老(郷老)により統率されるが,同時に軍事同盟,治安維持のための慣習法〈款約〉を通じて公選した款首のもとで相互に紐帯を維持した。

 信仰は基本的にはアニミズム信仰である。生死疾病などの際,巫師が悪鬼祓いをする。薩丙(達魔娘娘)と称する聖母(先祖母)を至高神とし,各村寨に聖母祀,社壇をまつる。廟にはその他,各村寨でまつる郎家廟(男家)と数ヵ村に1ヵ所まつる外家廟(外婆家)とがある。兄妹婚姻譚による洪水説話創世神話を有する。農暦11月14日をトン暦新年とし,正月行事のほか宗族単位の祝日ともなっている。3月初3日は花炮節(広西三江地区),4月初8日,6月初6日は祭牛神をまつり,7月の喫新節は予祝行事として新米飯で祝う。また,2月あるいは8月の亥日は闘牛節。死者は木棺土葬で,口中に砕銀または〈おこわ〉を入れる。凶死した場合,3年後に改葬する葬俗をもつ。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トン(侗)族」の意味・わかりやすい解説

トン(侗)族
トンぞく
Dong

中国南西部の貴州省東部から湖南省,コワンシーチワン(広西壮)族自治区にかけて分布するタイ系の少数民族。人口約 250万(1990)で,貴州省にチエントンナンミヤオ(黔東南苗)族トン(侗)族自治州,コワンシーチワン族自治区にサンチヤントン(三江 侗)族自治県,湖南省にトンタオトン(通道 侗)族自治県などが設立されている。奥深い山間の河谷に居住して水稲耕作を営む。林業も盛んで,スギの植林を行なう。建築技術にすぐれ,村には鼓楼(ころう)と呼ばれる木造の塔があり,橋の上には美しい瓦屋根のある木造建造物がつくられている。若い男女の間では歌垣がしばしば開かれ,歌の上手な者が多い。また独特の歌劇もある。

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