トロブリアンド諸島(読み)トロブリアンドショトウ(英語表記)Trobriand Islands

デジタル大辞泉 「トロブリアンド諸島」の意味・読み・例文・類語

トロブリアンド‐しょとう〔‐シヨタウ〕【トロブリアンド諸島】

Trobriand Islandsパプアニューギニアソロモン海南部の諸島。正式名称キリウィナ諸島。主島キリウィナ島、カイレウナ島、バクタ島など、環礁島々で構成される。クラとよばれる儀礼交換が行われ、文化人類学者マリノフスキー著作で有名になった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トロブリアンド諸島」の意味・わかりやすい解説

トロブリアンド諸島
とろぶりあんどしょとう
Trobriand Islands

パプア・ニューギニア南東部、ソロモン海のサンゴ島群。旧名キリウィナKiriwina諸島。面積440平方キロメートル、人口1万7425(1980)。主島キリウィナ島をはじめ、22の島からなる。中心地はロスイアLosuia(人口575)。主要作物はヤムイモ。島名は、1793年に来航したダントルカストー一行の一員の名に由来する。

[谷内 達]

住民

人種的にはいちおうメラネシア人に分類されているが、皮膚の色や体躯(たいく)など変異が大きい。言語はオーストロネシア語系キリウィナ語。おもにヤムイモ、ほかにタロイモキャッサバなどの焼畑耕作が行われる。日常のタンパク源としては魚貝類を用い、儀礼用にブタを飼う。土地が肥えているために農作物のできはよく、余剰産物はかつて腐るにまかせたものだという。人々は四つの外婚単位としてのトーテム氏族のいずれかに属し、さらに氏族は1人の女性を共通の祖先と仰ぐいくつもの亜氏族に分かれる。亜氏族間には身分の上下があると同時に、それぞれの成員は特定の地域に集中している。この亜氏族システムと関連して、人々の間には身分の上下があり首長システムが存在する。これは、平等思想の強いメラネシアにおいては異色の社会システムであるといえよう。出自母系であるが、夫方居住で、地位や富は母方伯(叔)父から甥(おい)に継承・相続される。トロブリアンド島民Trobriandersの名は、部族間の交換制度であるクラについて詳細に記述した人類学の古典的名著『西太平洋の遠洋航海者』Argonaut of the Western Pacific(マリノフスキー著・1922)によって一躍有名になった。最近では旅行土産(みやげ)用の木彫によっても名を知られ、現地の人々はこれから現金収入を得ている。

[山本真鳥]

『マリノフスキー著、寺田和夫・増田義郎訳『西太平洋の遠洋航海者』(『世界の名著59 マリノフスキー、レヴィ=ストロース』所収・1967・中央公論社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「トロブリアンド諸島」の意味・わかりやすい解説

トロブリアンド[諸島]
Trobriand Islands

南西太平洋,ニューギニア島南東端の北沖合に位置し,パプア・ニューギニア国のミルン・ベイ州に属する島群。四つの平たんなサンゴ島と周辺の環礁からなる。面積約440km2,人口約1万。島名は18世紀末にダントルカストーの率いた探検隊の一士官の名前に由来する。主島はキリウィナ島。地勢は最も高い所が標高30mのサンゴ崖で,ほかは海面と大差のない低い島々である。土壌が肥えているためヤムイモ,タロイモなど根茎類の栽培に適し,菜園農業で国内におけるモデルになっている。島嶼(とうしよ)群であるため人口の移動が激しく,1975年の独立後は1万人を前後している。この地が有名になったのは,1915-18年に調査を行った人類学者マリノフスキーの業績による。住民は容貌,気質ともにメラネシア人よりもむしろポリネシア人に似ているとされてきた。自給農業のかたわら漁業も盛んで,魚の取引は経済,儀礼の両面で古くから重要である。住民は木彫,籠編みにすぐれた技能をもち,副業として成功している。

 村の建物は二重の同心円を描いて配置され,内円に属する建物はヤムイモの貯蔵庫で,外円に住居群が並ぶ。中央の広場はシングシング(踊り)と饗宴の場である。村は100人以下で,いずれかの氏族(クラン)または分氏族(サブクラン)に属する。出自は母系である。島嶼群を中心に広い海域を圏内とする儀礼的交換の風習クラがある。クラは威信の象徴のみならず,散在して住む人々に地域社会を意識させるため続いてきた。学校,病院,地方評議会があり,近代化の進むなかでも固有の文化が根強い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トロブリアンド諸島」の意味・わかりやすい解説

トロブリアンド諸島
トロブリアンドしょとう
Trobriand Islands

別称キリウィナ Kiriwina諸島。パプアニューギニア,ニューギニア島の東端から北へ約 160kmのソロモン海にある島群。すべてサンゴ島。最大の島はトロブリアンド (キリウィナ) 島で,諸島の中心地。産物はヤムイモ。住民はメラネシア人であるがポリネシアの影響が強い。住民の社会生活に関する人類学者 B.K.マリノフスキーの研究で知られる。面積 440km2。人口1万 7425 (1980推計) 。

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世界大百科事典(旧版)内のトロブリアンド諸島の言及

【一夫多妻婚】より

…このように一夫多妻婚は,政治的・経済的要因と結びつき,上層でとくに顕著に行われる傾向がある。一夫多妻が夫の地位をさらに高める手段となっている例は,トロブリアンド島にも見られる。ここでは,その主要作物であるヤムイモを大量に姉妹の夫に贈る慣習と結びついて,時には数十人の妻をもつ首長のもとにヤムイモが集積し,彼の権力の重要な経済的基盤となっている。…

【クラ】より

…人類学者マリノフスキーが最初に記述し,本来文字を持たない社会の交換や交易の例として知られる。クラはトロブリアンド,アムフレット各諸島,ダントルカストー諸島のドブ語使用地域,トゥベトゥベやミシマ島,ウッドラーク諸島などの,広範囲にわたる慣習や言語の異なる部族社会を閉じた環とし,その圏内を時計回りに赤色の貝の首飾(ソウラバ),逆方向に白い貝の腕輪(ムワリ)の,2種類の装身具が贈物として,リレーのバトン,あるいは優勝旗のように回り続けることを特徴とする。これらは財物であるが1~2年以上は保有せず,より早く次の相手に贈らねばならない。…

【パプア・ニューギニア】より

… ニューギニア島北東岸沖のマヌス州にあるマヌス島では,女が外で農耕を行い,男が育児と炊事を行っており,人形に興味をもつのは女児ではなく男児である。ニューギニア島東端のミルン湾州のトロブリアンド諸島では,あらゆる男女の禁忌のなかで兄弟と姉妹のそれが最も強く,年ごろになると兄弟と姉妹は互いに顔も見ないようにしなければならない。この社会は母系制であり,子どもは母と同じ集団に属する。…

【マリノフスキー】より

…そしてロンドン・スクール・オブ・エコノミックスに入学,ウェスターマークやC.G.セリグマンの指導のもとですでに着手していたアボリジニーに関する研究を行った。しかし研究者としての真価が発揮されたのは,14年から18年にかけて行ったニューギニア東部のトロブリアンド諸島における調査によってである。彼がこのときに行った,一人の調査者が長期にわたって,現地語を用い,当該社会の生活に加わりながら観察を行う(参与観察participant observation),という調査法は,現在に至るまで人類学の野外調査の範型となっている。…

※「トロブリアンド諸島」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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