改訂新版 世界大百科事典 「トレチヤコフ美術館」の意味・わかりやすい解説
トレチヤコフ美術館 (トレチヤコフびじゅつかん)
Tret'yakovskaya galereya
モスクワにある美術館。ロシアおよびソビエトの美術作品(絵画,彫刻)を収蔵し,サンクト・ペテルブルグのロシア美術館と並び称される。モスクワの亜麻布商人トレチヤコフ兄弟の個人収集に発する。若き日に兄パーベルPavel Mikhailovich Tret'yakov(1832-98)はペテルブルグでエルミタージュ美術館をはじめとするコレクションに接し,公共的な美術館建設を説くチェルヌイシェフスキーの社会主義思想と軌を一にする啓蒙的目的をもって,ロシア絵画のみの収集を始めた。1870年代ペテルブルグの移動展派を援助し,多数の作品を購入しモスクワに持ち帰り,批評家スターソフに〈ペテルブルグの敵〉との好意ある皮肉を言われる。80年代には歴史画の盛行に従って,アブラムツェボ派の作品を,90年からはイコンを加えるなど,一貫性がないとの非難も当時あったが,時代の流れに応じた収集を行った。しかし世紀末のブルーベリを好むには至らなかった。革命時約4000点を所蔵していたが,弟セルゲイSergei Mikhailovich T.(1834-92)の収集から外国の作品がのちのプーシキン美術館に移管され,また他の個人収集を吸収し,ソ連邦時代の作品を加え,現在は4万点を所蔵している。
執筆者:鐸木 道剛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報