トリプシン(読み)とりぷしん(英語表記)trypsin

翻訳|trypsin

精選版 日本国語大辞典 「トリプシン」の意味・読み・例文・類語

トリプシン

〘名〙 (trypsin Trypsin) 膵臓(すいぞう)から分泌される蛋白質分解酵素の一つ。黄色から灰黄色の粉末あるいは結晶。水によく溶ける。
紋章(1934)〈横光利一〉六「ペプシンやトリプシンは豚の腹綿からとるさうぢゃありませんか」

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デジタル大辞泉 「トリプシン」の意味・読み・例文・類語

トリプシン(trypsin)

消化酵素の一。膵臓すいぞうから分泌され、腸内で活性化され、たんぱく質加水分解してペプトンポリペプチドにする。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリプシン」の意味・わかりやすい解説

トリプシン
とりぷしん
trypsin

プロテアーゼ(タンパク分解酵素)の一つ。消化酵素の一つで高等動物の膵液(すいえき)中に存在する。1874年ドイツの生理学者キューネWilhelm Kühne(1837―1900)が命名した。膵臓で不活性の前駆体トリプシノゲンがつくられ、膵液中に分泌されて十二指腸に達し、ここでエンテロペプチダーゼあるいはトリプシン自身によって活性化され、トリプシンとなる。このとき、トリプシノゲンのN末端の6個のアミノ酸からなるペプチド(H2N-Val・Asp・Asp・Asp・Asp・Lys)が遊離される。トリプシンは小腸でタンパク質の消化に重要な役割を担っている。すなわち、ペプシンにより胃内で加水分解を受けてできたペプチドは、小腸において、さらにキモトリプシンとトリプシンによって加水分解され、小さなペプチドになる。このペプチドは、さらにカルボキシペプチダーゼアミノペプチダーゼジペプチダーゼなどの作用で、最終的にはアミノ酸の混合物となって吸収される。

 トリプシンは、ペプチド鎖の途中を加水分解するエンドペプチダーゼの一つで、基質特異性が高く、L‐アルギニンまたはL‐リジンのペプチド、エステルカルボキシ基カルボキシル基)側を加水分解する。最適pHは8付近である。pH2~3で安定で、そのまま冷所で数週間の保存が可能である。pH5以上では自己消化で失活し、カルシウムイオンで安定化される。重金属、ジイソプロピルフルオルリン酸(DFP)、トリプシン阻害剤によって阻害される。単純タンパク質からなり、ウシのトリプシンは分子量2万4000の1本鎖ポリペプチドで、等電点pH10.5のアルカリタンパク質である。223個のアミノ酸からなり、その配列順序はカナダの生化学者ウォルシュKenneth Andrew Walsh(1931― )らによって1964年に決められた。

 反応機構に関してはもっともよく研究されている酵素の一つで、活性中心にセリン残基を含むセリンプロテアーゼの一つである。ヒスチジン残基も活性中心に存在する。精製は、トリプシノゲンとしてウシの膵臓から酸抽出し、硫酸アンモニウムで分別してpH8で結晶化し、再結晶を繰り返して精製される。

 なお、膵臓にはトリプシン阻害物質(インヒビター)も存在し、ウシでは56のアミノ酸からなる分子量6155のポリペプチドで、トリプシンを阻害するが、キモトリプシン、カリクレイン、ウロキナーゼは阻害しない。これは大麦などの穀類、大豆などの豆類、そのほかにも存在する。

[降旗千恵]

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改訂新版 世界大百科事典 「トリプシン」の意味・わかりやすい解説

トリプシン
trypsin

消化酵素の一つで,タンパク質分解酵素。膵臓から不活性のトリプシノーゲンtrypsinogenとして十二指腸内に分泌され,エンテロキナーゼにより分子の端が切断されてトリプシンとなり,pH8.0付近で活性をもつ。トリプシン自身もトリプシノーゲンを活性化するほか,他の不活性の酵素前駆物質を活性化する。腸内で食物中のタンパク質を分解する。トリプシンはタンパク質分子の端から分解していくのではなく,分子の内部,すなわちポリペプチドの中のアルギニン,リジンのカルボキシル基のところを分解するエンドペプチダーゼである。
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化学辞典 第2版 「トリプシン」の解説

トリプシン
トリプシン
trypsin

EC 3.4.21.4.タンパク質分解酵素の一種.タンパク質のペプチド結合を加水分解する反応を触媒するが,その基質特異性は非常に高く,ポリペプチド鎖中に存在する塩基性アミノ酸のカルボキシル基側のペプチド結合を特異的に加水分解する.膵臓より不活性なトリプシノーゲンとして分泌され,6個のアミノ酸よりなるペプチドを遊離して活性化されトリプシンとなる.ウシの膵臓から得られるものは分子量2.3×104 で,223個のアミノ酸の縮合物である.アミノ基(N)末端より46,90,183番目のヒスチジン,アスパラギン酸,セリン残基が活性発現に重要である.[CAS 9002-07-7]

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百科事典マイペディア 「トリプシン」の意味・わかりやすい解説

トリプシン

タンパク質分解酵素の一種。膵臓(すいぞう)から不活性のトリプシノーゲンとして分泌され,小腸でエンテロキナーゼによって分子端が切断されて活性化される。タンパク質を末端から分解するのではなく,ポリペプチド中のアルギニンやリジンのカルボキシル基を選択的に切断。分子量約2万4000。
→関連項目遺伝子導入動物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トリプシン」の意味・わかりやすい解説

トリプシン
trypsin

膵臓より分泌される強力な蛋白分解酵素。摂取した蛋白が胃液ペプシンの作用を受けると,次いでこのトリプシンの作用を強く受ける。膵臓でつくられる酵素は,活性のないトリプシノーゲンという,トリプシンの酵素前駆体で,このトリプシノーゲンが膵液に含まれて十二指腸に分泌され,腸液中のエンテロキナーゼという酵素によって活性化されて,トリプシンとなる。また,このトリプシン自体がトリプシノーゲンを活性化する働きをする。

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栄養・生化学辞典 「トリプシン」の解説

トリプシン

 [EC3.4.21.4].膵液に含まれるプロテアーゼの一つ.トリプシノーゲンはその前駆体.ペプチド結合の中の塩基性アミノ酸のカルボキシル側のペプチド結合を加水分解する.エステラーゼ作用ももつ.

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世界大百科事典(旧版)内のトリプシンの言及

【加水分解酵素】より

…生体内では種々の化学結合が,それぞれ特異的な加水分解酵素の作用によって切断される。アミラーゼ,ペプシン,トリプシン,リパーゼなどの消化酵素は消化管内に分泌され,食餌中の高分子物質等を単糖,アミノ酸,脂肪酸など吸収可能な低分子量の構成単位に加水分解し,異化的代謝の第一段階を担う。細胞内にも高分子物質をその構成単位に分解する酵素が種々存在し,外来性の異物の分解や,細胞内で不要になったタンパク質や,核酸などからのアミノ酸やヌクレオチドの回収を行っている。…

【酵素剤】より

…また,乳糖不耐性の乳児(小腸に固有の消化酵素であるラクターゼの遺伝的欠損によってミルク中の乳糖が消化されず,下痢を起こしやすい)に対する補充療法剤としてのβ‐ガラクトシダーゼ(ラクターゼと同様に乳糖を消化しうる酵素)もこのカテゴリーに入る酵素剤である。
[いわゆる消炎酵素剤]
 キモトリプシン,ブロメラインその他の動植物,微生物起源のタンパク質加水分解酵素類や細菌細胞壁のムコペプチドの分解酵素であるリゾチームなどは,これらを内服した場合に種々の炎症症状を改善する作用,副鼻腔や気管支における分泌物,膿汁などの粘度を下げ排出を容易にする作用などが認められるとして,これらの目的で歯科領域,耳鼻咽喉科領域などで使用されているが,理論的裏づけは不明確のまま残されている。
[その他の酵素剤]
 ヒト尿から抽出されるウロキナーゼ(血液凝固機構によって析出凝固したフィブリンすなわち繊維素を溶解する作用をもつ繊溶系の活性化酵素)は,血栓性の疾患に対して血栓の溶解を期待する治療剤として静脈内に注射される。…

【消化酵素】より

… 唾液の中にはデンプン分解酵素である唾液アミラーゼ,胃液中にはタンパク質分解酵素であるペプシンがあり,酸性の環境ではたらく。膵液中にはデンプン分解酵素として膵アミラーゼ,タンパク質分解酵素としてトリプシン,キモトリプシン,カルボキシペプチダーゼ,エラスターゼなど,脂肪分解酵素としてリパーゼ,ホスホリパーゼなどがある。これらは中性ないし弱アルカリ領域ではたらく。…

※「トリプシン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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