トウキ(読み)とうき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トウキ」の意味・わかりやすい解説

トウキ
とうき / 当帰
[学] Angelica acutiloba Kitag.

セリ科(APG分類:セリ科)の多年草。本州中部地方以北の山地に分布する。全体に芳香をもち、主根は太い。茎は高さ60~90センチメートルで分枝し、中実で紫色を帯びる。根生葉と下葉には長い葉柄がある。葉身は三角形で長さ約25センチメートル、2回3出複葉で、小葉は3深裂し、裂片は披針(ひしん)形(ときにはさらに3浅裂する)で、鋭い鋸歯(きょし)をもつ。葉の上面は深緑色で光沢がある。8~9月、枝の先に複散形花序を出し、白色の小花を密につける。花弁は5個、雄しべ5個、雌しべ1個で子房下位。果実は長楕円(ちょうだえん)形で長さ4~5ミリメートル、分果の縁はわずかに翼状をなす。

[長沢元夫 2021年11月17日]

薬用

根を漢方では当帰(とうき)と称して婦人の要薬とする。補血、強壮鎮痛鎮静排膿(はいのう)剤として月経不順ヒステリー腹痛、腫(は)れ物、打撲症、不妊症、貧血症などの治療に用いる。処方としては当帰芍薬散(しゃくやくさん)が有名。民間では、葉を浴湯に入れると、血の巡りがよくなり、体が温まるほか、肌もきれいになるとされる。中国の当帰は、前述とは別種A. sinensis (Oliv.) Dielsの根であり、中国中西部に分布し、また栽培もされている。これと区別するために、日本産の当帰は、その植物名をニホントウキと称したほうがよい。日本では奈良県北海道で栽培されているが、とくに奈良県五條(ごじょう)市大深(おおぶか)町では品質のよいものが生産されてきたため、それを大深当帰という。

[長沢元夫 2021年11月17日]


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改訂新版 世界大百科事典 「トウキ」の意味・わかりやすい解説

トウキ (当帰)
Angelica acutiloba (Sieb.et Zucc.) Kitagawa

山の岩地に生え,薬用植物として栽培もされるセリ科の多年草。精油を含み,特有の芳香がある。茎は分枝して高さ40~90cm,毛がなく,基部は多くが紫褐色を帯びる。葉は1~3回3出羽状複葉で,終羽片は細長い披針形で先が鋭くとがり,表面は光沢がある。茎や葉を切ると強い香りがする。夏に枝先に複散形花序を作って,小さい5弁の白い花を多数つける。果実は楕円形,広い翼のある2個の分果に分かれる。変異が多く,本州中部以北や北海道の山に自生するものはミヤマトウキ,一名イワテトウキと呼ばれる。根を湯通しして乾かしたものを生薬では当帰と呼ぶ。精油を含み,中性油成分はフタライド類,リグスティライドligustilide,クマリン類,ステロイド,葉酸,ビタミンB12などを含む。強壮,鎮痛,婦人病などの漢方薬として多量に使用される。中国や朝鮮半島の当帰は別の種類のニオイウドA.uchiyama YabeやA.sinensis (Oliv.) Dielsで,これから区別するためにニホントウキと呼ばれることがあるし,中国では日本のトウキを東当帰と呼ぶ。
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百科事典マイペディア 「トウキ」の意味・わかりやすい解説

トウキ

セリ科の多年草。本州中北部の山地に自生し,また各地に栽培される。高さ40〜80cm。葉は2〜3回羽状複葉で表面は光沢がある。茎や葉には特有の芳香がある。8〜9月,複散形花序を出し,多数の白色小花を開く。薬用植物として栽培もされ,根を湯通しして乾燥したものを当帰(とうき)といい,鎮静・通経剤とする。北海道,東北地方には変種のミヤマトウキ(イワテトウキ)が分布する。
→関連項目薬用植物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トウキ」の意味・わかりやすい解説

トウキ
Angelica actiloba

セリ科の多年草。ニホントウキともいわれる。本州中・北部の山地の岩場に生えるが,薬用植物として栽培もされている。全草が芳香を放つ。地下に太い根茎があり,高さ 50~70cmの太い中実の茎を伸ばす。互生する葉は1~2回3出する複葉で,各小葉はさらに3つに裂ける。葉柄の基部は鞘となって茎を抱く。花は大型の散形花序で多数の小白花をつける。近縁種のミヤマトウキ A. iwatensisと比べて,葉がやや深く分裂し,油管の数が少い点で区別される。

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デジタル大辞泉プラス 「トウキ」の解説

トウキ

セリ科の多年草。根は鎮静、強壮などの作用があり生薬として使用される。表記は「当帰」とも。

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