デレメタリカ(英語表記)De re metallica

改訂新版 世界大百科事典 「デレメタリカ」の意味・わかりやすい解説

デ・レ・メタリカ
De re metallica

ドイツの鉱山技術者・医者で,〈鉱山学の父〉とも呼ばれるG.アグリコラが著した採鉱・冶金技術書。デ・レ・メタリカとは〈金属について〉という意味で,原書はラテン語で書かれ,全12巻から成る。彼がヨアヒムスタールという鉱山町で医者をするかたわら鉱山学,岩石学冶金学を研究して書き著したもの。圧巻は画家ウェフリングB.Wefringが協力して添えた292枚にわたる木版画で,当時の鉱山技術の作業状況を克明に描き出している。鉱山全体を観察して労働者のようす,大型木製水車の機能,冶金炉等の装置,すべてを一つの機能として眺めているのも注目すべき点である。世界で最初の体系的な技術書として,18世紀半ばまでヨーロッパの鉱山関係者にとってのバイブルとされた。1912年アメリカの大統領であったH.C.フーバー夫妻が英語版に翻訳してから世界的に知られるようになり,日本でも68年に全訳とその研究に関する本が刊行されている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のデレメタリカの言及

【アグリコラ】より

…ドイツ,ザクセン生れの鉱山学者,医者。《デ・レ・メタリカ》を著し,〈鉱山学の父〉とも呼ばれている。本名はバウアーGeorg Bauerで,アグリコラはラテン名。…

【鉱山】より

…15~16世紀のこの繁栄は銀と銅に対する需要の増大,豊かな鉱脈の発見のほか,立坑の深化(60~100フィート),排水法の改良(横坑掘削や革袋の巻上げ),大規模な鉱石搬出装置(水力,馬力使用)などの技術改良によっていた。アグリコラの《デ・レ・メタリカ》には当時の採鉱・製錬技術がくわしく記されているが,これはドイツ人鉱夫によって北欧,東欧,イギリスなどへ伝えられ,ドイツ産の銀と銅はベネチアから東方の産品の対価として輸出されていた。 中世鉱山の法慣習や鉱夫の労働組織は鉱業法や鉱山条例から知られる。…

【鉱山病】より

…ヨーロッパで初めて鉱山病について医学的な記録を残したのは,ルネサンス時代のG.アグリコラとパラケルススである。アグリコラは大著《デ・レ・メタリカ》(1556)で,鉱夫の肺の異常にふれ,このために死んだ夫を7人ももった婦人の話を伝えているが,それは塵肺の一種であり,また有毒物による腫瘍が骨髄まで冒す病気は,砒素による肺癌(がん)であったと推定される。パラケルススは《鉱夫病》(1567)という専門書を著し,塵肺や金属中毒の因果関係を初めて見抜いた。…

【産業衛生】より

…産業がしだいに大規模になるにつれて,産業労働に伴う危険も大きくなり,この危険を回避するための方策が工夫されるようになる。16世紀のG.アグリコラの著書《デ・レ・メタリカ》には,すでに鉱山における科学的な研究の体系が記されているが,そのなかには坑内の排水,換気などの環境整備のための衛生工学の実際,坑内の環境や労働の非衛生的な状態による災害や病気の生々しい記録が詳細に記され,鉱山を維持するための工学,衛生学,社会経済学の総合の必要性が述べられており,産業衛生の基本的認識がすでにできあがっていることがうかがえる。同じころパラケルススの《鉱夫病とその他の鉱山病》(1533‐34),ついでシュトックハウゼンの《一酸化鉛の有害煙気による病気と鉱夫肺労》(1656)が著され,やがてイタリアのラマッツィーニBernardino Ramazzini(1633‐1714)の《働く人々の病気De morbis artificum diatriba》(1700)が現れ,ヒッポクラテス以来の職業と健康に関する知識が集大成された。…

【職業病】より

…古代ギリシア人はすでに銀山で鉱毒や水銀中毒があることを観察していた。近代文明の夜明けを告げる鉱山業がヨーロッパに勃興したときG.アグリコラは鉱山学の書物《デ・レ・メタリカ》(1556)第6巻で,鉱夫特有の疾病について記述している。〈空中に飛散する塵がおこす肺の病気〉とは,おそらく喘息をともなう塵肺の一種であり,また〈黒い有毒物によって腫瘍となり骨の髄まで冒す病気〉とは,19世紀になって肺癌であることが明らかにされた。…

【製図】より

…例えば彼が用いたねじの略図のごときは,ほぼ現代の初頭のそれに匹敵する。その後,印刷術の発明により,機械を写した図,書物は多数を数えることになるが,その中でG.アグリコラによる《デ・レ・メタリカ》はとくに著名である。 近世に入って,G.モンジュによって創始された画法幾何学は,築城の技術に一大躍進をもたらした。…

※「デレメタリカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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