デューゼンベリー(読み)でゅーぜんべりー(英語表記)James Stemble Duesenberry

日本大百科全書(ニッポニカ) 「デューゼンベリー」の意味・わかりやすい解説

デューゼンベリー
でゅーぜんべりー
James Stemble Duesenberry
(1918―2009)

アメリカの経済学者。ウェスト・バージニア州プリンストンに生まれる。学部大学院はともにミシガン大学で学び、1948年経済学博士。1946年からハーバード大学(1948~1953年助教授、1953年から準教授)で教え、1955~1989年経済学部教授(この間、1972~1977年経済学部長、1984年神戸大学客員教授)を務め、貨幣および銀行論を担当。1989年から同大学の名誉教授になると同時にハーバード大学国際開発研究所(HIID)のコンサルタントに就任し、教育・研究活動を続けた。消費理論においては、歯止めラチェット)効果とデモンストレーション効果を基本とする相対所得仮説提唱景気循環理論においては、金融的要因をも重視する一般化された乗数・加速度モデルを展開し、それぞれの理論の発展に大きな貢献をした。実証分析では、アメリカ経済の計量経済モデルの作成・開発に尽力した。また、現実の政策面では、「ニュー・エコノミックス」の提唱者の一人として、1966~1968年にはジョンソン政権の大統領経済諮問委員会メンバーを、さらに1969~1974年にはボストン連邦準備銀行理事会議長を務めた。

 「ニュー・エコノミックス」は、マクロ経済学体系を初めて確立したケインズの「経済を安定化させるためには政府の財政・金融政策が重要である」という考えを、初めてアメリカの経済政策で実践したスクール(グループ)のこと。1960年代初め、ケネディ政権の大統領経済諮問委員会のメンバーであるアロートービンソローのほか、メンバーではないがサミュエルソン(この4人はのちにノーベル経済学賞を受賞)、オーカンArthur Melville Okun(1928―1980)らは、アメリカ経済の景気を回復させ失業を減らすためには金融政策ではなく拡張的財政政策(とくに1964年の減税が有名)を積極的に推進すべきと主張、これは大成功を収めた。このニュー・エコノミックスは、次のジョンソン政権にも継承された。HIIDのコンサルタントとしては、開発途上国・地域にマクロ経済、金融、財政の改善につきアドバイスしていた。主著には『所得・貯蓄・消費者行為の理論』Income, Saving, and the Theory of Consumer Behavior(1949)、『景気循環と経済成長』Business Cycles and Economic Growth(1958)、『経済学における事例と課題』Cases and Problems in Economics(リー・プレストンLee E. Preston(1930―2011)との共著・1960)、『貨幣と信用』Money and Credit(1964)、『ブルックキングス研究所のアメリカ経済四半期計量経済モデル』The Brookings Quarterly Econometric Model of the United States(共編・1965)、『ブルックキングス・モデル 増補版』The Brookings Model : Some Further Results(共編・1969)、『貨幣、銀行と経済』Money, Banking, and the Economy(トーマス・メイヤーThomas Mayer(1927―2015)、ロバート・ツェルウィン・アリバーRobert Zelwin Aliber(1930― )との共著・1981。第6版は1996)などがある。

[内島敏之 2018年9月19日]

『大熊一郎訳『所得・貯蓄・消費者行為の理論』(1955/改訳版・1969・巌松堂出版)』『馬場正雄訳『景気循環と経済成長』(1965・好学社)』『J・S・デューゼンベリー著、水野正一・山下邦男監訳「貨幣およびその他資産需要に対するポートフォリオ・アプローチ」(『現代の金融理論1』所収・1965・勁草書房)』『貝塚啓明訳『貨幣と信用』(1966・東洋経済新報社)』

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