デュアメル(読み)でゅあめる(英語表記)Georges Duhamel

精選版 日本国語大辞典 「デュアメル」の意味・読み・例文・類語

デュアメル

(Georges Duhamel ジョルジュ━) フランス小説家批評家人道主義立場から、近代文明への批判近代人の不安を描いた。代表作「パスキエ家の記録」。(一八八四‐一九六六

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デジタル大辞泉 「デュアメル」の意味・読み・例文・類語

デュアメル(Georges Duhamel)

[1884~1966]フランスの小説家。外科医として第一次大戦従軍。近代文明を批判し、人道主義的作品を書いた。作「文明」「サラバンの生涯と冒険」「パスキエ家の記録」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「デュアメル」の意味・わかりやすい解説

デュアメル
でゅあめる
Georges Duhamel
(1884―1966)

フランスの小説家。パリ生まれ。初め医学を志し、医科大学を卒業、医学博士称号を得た。以前から文学にも興味を抱き、1906年にビルドラック、ジュール・ロマンなどとともにクレテイユの僧院に立てこもって、アベイ派と称する印刷所をもった文学運動をおこし、最初の詩集を出版したが、08年に解散した。14年第一次世界大戦勃発(ぼっぱつ)で軍医として従軍、戦争の悲惨と機械文明に対する痛烈な批判に満ちた『殉難者の生涯』(1917)と『文明』(1918。ゴンクール賞)とを生んだ。

 1920年から32年にかけては、『サラバンの生涯と冒険』5巻(1920~32)を完結、平凡な一市民の物語を展開した。また旧ソ連とアメリカに旅行し、『モスクワ紀行』(1927)および『未来生活風景』(1930)を書き、二大国の文明を批判している。30年代に入ってからは、ファシズム台頭に抵抗し、国際知的協力委員会の会合に出席し、活動を行った。35年にはアカデミーの会員に選ばれた。33年から45年にかけて彼は『パスキエ家の記録』10巻を発表したが、これはパリのある小市民の家庭の歴史的な変遷を描きながら、その家庭に生まれたローラン・パスキエが生物学者として活躍する物語であり、デュアメルのあくまで楽天的・肯定的なヒューマニズムを小説のなかに具象化したものといえよう。

 第二次大戦、ドイツ軍のパリ占領中はパリにとどまり、祖国の喪に服して沈黙を守った。同時にアラゴンなどの急進思想家と対決しての苦悶(くもん)を表明した小説『パトリス・ペリヨの遍歴』(1950)を書いた。明晰(めいせき)な観察者、中庸を外れないヒューマニストとして高く評価されている。

[土居寛之]

『木村太郎訳『殉職者』(1950・創元社)』『松尾邦之助訳『文明について』(1953・読売新聞社)』『長谷川四郎訳『パスキエ家の記録』20冊(1950~52・みすず書房)』『渡辺一夫訳『パトリス・ペリヨの遍歴』(1952・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「デュアメル」の意味・わかりやすい解説

デュアメル
Duhamel, Georges

[生]1884.6.30. パリ
[没]1966.4.13. パリ近郊バルモンドア
フランスの小説家,評論家,詩人。医者になる一方,文学にひかれ,ビルドラック,アルコスらと印刷業を営みながら共同生活をし,人間的価値の尊重を掲げるアベイ派の運動を興した。第1次世界大戦に軍医として従軍,その体験をもとにした短編集『殉難者列伝』 Vie des martyrs (1917) ,『文明』 Civilisation 1914-17 (18,ゴンクール賞) を発表,個人を圧殺し,物質の人間に対する優位を暗黙のうちに承認している近代文明を批判し,人道主義的社会主義の傾向を示した。代表作は,二つの大河小説『サラバンの生涯と冒険』 Vie et les aventures de Salavin (5巻,20~32) ,『パスキエ家の記録』 Chronique des Pasquier (10巻,33~45) 。ほかに,評論『世界の所有』 La Possession du monde (19) ,当時のソ連とアメリカの両大国の文明を批判した『モスクワ紀行』 Le Voyage de Moscou (27) および『未来生活の情景』 Scènes de la vie future (30) ,自伝『わが生涯に光をあてて』 Lumières sur ma vie (5巻,44~53) など。 1953年に日本を訪れ,『伝統と未来の間の日本』 Le Japon entre la tradition et l'avenir (35) を書いた。アカデミー・フランセーズ会員 (35) 。

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改訂新版 世界大百科事典 「デュアメル」の意味・わかりやすい解説

デュアメル
Georges Duhamel
生没年:1884-1966

フランスの小説家,詩人,評論家。医学の修業のかたわら(後に医学博士),文学にも深い関心をもちはじめ,1906年にはビルドラック,アルコスらとクレテイユのアベイ(修道院)に隠棲して,反機械文明的な〈アベイ派〉の文学運動を起こそうとしたが,短時日にして挫折した。軍医としての第1次大戦従軍の結果生まれたのが,《殉難者の生涯》(1917),《文明》(1918。ゴンクール賞受賞)であり,そこには近代の機械文明,物質万能主義への激しい呪詛が綴られている。反画一主義と穏健なヒューマニズムを基調とする彼の反時代的な人間観と世界観は,連作長編小説《サラバンの生涯と冒険》5巻(1920-32)では個人の生き方をめぐって,《パスキエ家年代記Chronique des Pasquier》10巻(1933-45)では一家の転変をめぐって,静かに述べられている。アラゴンらの急進思想になじめぬ苦悩を描いた《パトリス・ペリヨの遍歴》(1950)などにも,温和なヒューマニストとしての彼の面目がうかがわれる。
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百科事典マイペディア 「デュアメル」の意味・わかりやすい解説

デュアメル

フランスの作家,批評家。医師の子で自らも医学博士となった。ビルドラック,J.ロマンらと同人を結成,ユナニミスム(一体主義)に立つ文学的活動を進め,〈アベイ派〉と呼ばれる。第1次大戦に外科軍医として従軍した体験から《殉難者の生涯》《文明》で文明批判を行い,以後も人道主義を貫く。代表作は二つの大河小説《サラバンの生涯と冒険》5巻(1920年―1932年)と《パスキエ家年代記》10巻(1933年―1945年)。ほかに紀行,戯曲,回顧録など。
→関連項目長谷川四郎

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