ディック(読み)でぃっく(英語表記)Philip K. Dick

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディック」の意味・わかりやすい解説

ディック
でぃっく
Philip K. Dick
(1928―1982)

アメリカのSF作家。1952年からSFを書き始め、57年『宇宙の目』で作家としての地位を確立した。SFの定石的テーマを扱いながら、それを個人の意識の内宇宙的ファンタジーへと転化させて、一種独特の幻想世界を創造する作家。好んで教祖的人物を登場させて、寓意(ぐうい)性を強調するところに特色がある。ヒューゴー賞受賞の『高い城の男』(1962)は、第二次世界大戦にアメリカが負けて太平洋岸諸州が日本に占領されるという設定のストーリーで、東洋哲学易経が絡み、客観的現実と並置されるもう一つの現実が生まれてくる。ほかに『火星のタイム・スリップ』(1964)、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1968)、『バリス』(1981)など。

厚木 淳]

『小尾芙佐訳『火星のタイム・スリップ』(ハヤカワ文庫)』『浅倉久志訳『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(ハヤカワ文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ディック」の意味・わかりやすい解説

ディック
Philip Kendred Dick
生没年:1928-82

アメリカのSF作家。1960年代には短編の名手として知られたが,やがてユング思想等に共鳴して,原因と結果の緊密な関係(因果律)を原理とする現実世界の虚妄性に関心を向け,SFの枠を超える問題作を書きだした。枢軸側が第2次大戦に勝利した〈もう一つの歴史〉を易学応用によって描いた《高い城の男》(1962)でヒューゴー賞を受賞。以後は人間の意識と現実との複雑な関係を独創的な視点から解明しつづけ,注目を集めた。《火星のタイム・スリップ》(1964),《アンドロイドは電気羊の夢を見るか》(1968)等の長編小説がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ディック」の意味・わかりやすい解説

ディック
Dick, George Frederick

[生]1881.7.21. インディアナ,フォートウェーン
[没]1967.10.10. カリフォルニア,パロアルト
アメリカの医師,細菌学者。夫人のグラディス (細菌学者) と協力して,猩紅熱の原因,予防および治療法を発見した。 1905年,シカゴのラッシュ医科大学を卒業し同大学教授 (1913~33) ,同医学部長 (33~45) 。猩紅熱の病原体である溶血性レンサ球菌を分離し,毒素 (ディックトキシン) による免疫や抗毒素による治療を創案した。また 24年,予防と治療にあてるための毒素と抗毒素を抽出し,猩紅熱に対する感受性と免疫を検査する皮膚反応 (ディック反応) を開発した。

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百科事典マイペディア 「ディック」の意味・わかりやすい解説

ディック

米国のSF作家。カリフォルニアを拠点に,SF的設定にそった,分裂症的で被害妄想的な多数の長編と無数の短編を残す。《アンドロイドは電気羊の夢を見るか》(1968年)は,映画《ブレードランナー》(1982年)の原作であり,SF作品の傑作。ほかに,枢軸軍が勝利した大戦後の世界を描く《高い城の男》(1962年),自身の薬物中毒の体験にもとづく《暗闇のスキャナー》(1977年),自伝的要素に加えて古今東西の神学・神秘思想を導入した作者の世界観の集大成ともいえる《バリス》(1981年)など,いずれもSFジャンルの内外に大きな影響をあたえた。

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世界大百科事典(旧版)内のディックの言及

【異次元】より

…これを〈パラレルワールドparallel world〉と呼び,ブラウンF.Brownの《発狂した宇宙》(1949)はそうした平行世界の望む部分へ旅行できる夢物語である。一方,現代SFではディックの《流れよ我が涙,と警官は言った》(1974)のように,不条理の世界に追い込まれた人間を扱う上で平行世界の理論を使ったものが流行している。また,歴史の分岐点で異なった方向へ進めば,平行世界の一つに出るだろうと想像するのが〈もう一つの歴史テーマ〉で,やはりディックの《高い城の男》(1962)は,第2次世界大戦において連合国軍が敗北し,日本とドイツにアメリカが占領されている世界を舞台にしたこのテーマの傑作として知られており,一般に歴史SFと呼ばれるものはこの設定による作品が多い。…

※「ディック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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