ディコンストラクティビスト・アーキテクチャー展(読み)でぃこんすとらくてぃびすとあーきてくちゃーてん(英語表記)Deconstructivist Architecture

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ディコンストラクティビスト・アーキテクチャー展
でぃこんすとらくてぃびすとあーきてくちゃーてん
Deconstructivist Architecture

1988年6月23日から8月30日にかけてMoMAニューヨーク近代美術館)において開催された建築の展覧会。

 この展覧会は、MoMAのゲスト・キュレーターの建築家フィリップ・ジョンソンとアソシエート・キュレーターのマーク・ウィグリーMark Wigleyにより企画された。ジョンソン自身は1930~36年および46~54年、MoMAに勤務していた。そして、32年2月から3月には建築史家H・R・ヒッチコックHenry Russell Hitchcock(1903―87)とともにモダン・アーキテクチャー展を開催し、その展覧会カタログと『インターナショナル・スタイル――1922年以降の建築』The International Style(1932)を出版して建築領域にインターナショナル・スタイル(機能主義を特徴とする1920年代以降の建築様式)を定着させた。

 ディコンストラクティビスト・アーキテクチャー展には、F・ゲーリー、D・リベスキンド、R・コールハース、P・アイゼンマン、Z・ハディドコープ・ヒンメルブラウ、B・チュミらの建築家が出展者としてジョンソンにより招かれた。

 ディコンストラクション脱構築)とは、フランス思想家J・デリダによる用語である。彼は西洋形而上学にみられる二項対立構図には位階秩序が成立しており、そこには決定的な根拠など存在しないとした。そして、その構図をただ単に逆転するだけではなく、構図そのものをずらそうとし、それをディコンストラクションと呼んだ。ディコンストラクションは、日本では脱構築と訳されることが多い。

 この展覧会は、招かれた建築家たちが建築においてこのようなディコンストラクションの傾向をもっているとされたが、彼らすべてがデリダやその思想を意識していたわけではなく、アイゼンマンとチュミだけがデリダに関心を寄せていたにすぎない。デリダ自身は、ディコンストラクションとは制度、社会、政治などの構造にかかわるものであり、アイゼンマンやチュミの建築は文学哲学のディコンストラクション的な実践よりもディコンストラクション的であると評価していた。

 この展覧会は名称こそ哲学、思想におけるディコンストラクションと関連をもたせているが、そもそもジョンソンは1986年にイリノイ大学シカゴ校において開催された「バイオレイティッド・パーフェクション」という展覧会にインスピレーションを得てこの展覧会を企画した。また、彼は1930年代に終焉を迎えたロシア構成主義の延長としてディコンストラクティビスト・アーキテクチャー展を位置づけていたが、ウィグリーは、デリダに関する博士論文を書いていることもあり、この展覧会で建築をディコンストラクションと関連づけて論じており、ジョンソンとは明確に立場を異にした。両者がそうした違いをもちながらこの展覧会は開催された。

 この展覧会は、展覧会カタログを含めた出版物の影響もあり、建築領域でのディコンストラクションのイメージを、「複雑に形態操作された建築」として固定するものとなった。その後、ディコンストラクションに対して多くの評論がなされ、80年代後半から90年代にかけて、建築領域でディコンストラクションやディコンストラクティビスト・アーキテクチャーという語が頻繁に使われるようになった。

[入江 徹]

『ヘンリー・ラッセル・ヒッチコック、フィリップ・ジョンソン著、武沢秀一訳『インターナショナル・スタイル――1922年以降の建築』(1978・鹿島出版会)』『J・デリダ著、高橋允昭訳『ポジシオン』(1981・青土社)』『佐々木宏著『「インターナショナル・スタイル」の研究』(1995・相模書房)』『Philip Johnson and Mark WigleyDeconstructivist Architecture(1988, Museum of Modern Art, New York)』『Franz SchulzePhilip Johnson; Life and Work(1996, The University of Chicago Press, Chicago)』

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