日本大百科全書(ニッポニカ) 「テムズ川」の意味・わかりやすい解説
テムズ川
てむずがわ
Thames
イギリス、イングランド南部をほぼ東流して、ロンドン市内を通り、北海に注ぐ川。イギリスでもっとも重要な川で、全長338キロメートル、流域面積1万3600平方キロメートル。グロスターシャー県コッツウォールド丘陵東斜面のテムズ・ヘッド(高度約110メートル)を源とし、オックスフォード付近でチャーウェル川Cherwellが北から合流する。チルターン丘陵南端部でチョーク質岩石のつくるケスタ地形の鞍部(あんぶ)を越えてレディングに達し、西からケネット川Kennetを合流する。これより下流は緩やかな勾配(こうばい)でゆったりとロンドン盆地を東流し、ロンドンを貫流したのち、河口の三角江を経て北海に注ぐ。川幅はオックスフォードで約45メートル、テディントンTeddingtonで約75メートル、ロンドンで約225メートルである。潮差の大きい北海に流入するので(ロンドンで大潮差6.2メートル)、河口から90キロメートル上流のテディントンまで潮の干満が及ぶ。河口からグレーブゼンドGravesend(ロンドン下流約30キロメートル)までは外航船が、ロンドンまでは800トン級の船が入港できる。ロンドンより上流は、グランド・ユニオン運河で中部イングランドの工業地帯と結ばれているのをはじめ、多くの運河網でセバーン川、エイボン川、トレント川などとも結ばれており、18世紀の水運に利用されたが、現在でもレジャー用小型船舶の航行が盛んである。
流域の大部分は中生層~古第三紀層よりなるなだらかな地形で、地層はロンドンを中心とする盆地構造を呈し、ケスタ地形がよく発達する。中・上流域はイングランドでもっとも古くから開けた農業地帯で、ロンドンより下流の両岸は工業地帯として発展を遂げた。テムズ川の水は上水道用水としても利用され、テムズ河川局によって管理されている。またロンドン東部のドック地帯にみられるように、下流域には多くの港湾設備が整えられている。テムズ川を横断するロンドン市内の主要な橋として、ロンドン・ブリッジ、ウォータールー・ブリッジ、タワー・ブリッジなどが有名で、1843年には世界最初の河底トンネルが貫通している。上・中流部は美しい風景をもつ田園地帯で、ヨット、ボートなど舟遊びをする観光客が多い。また下流の三角江北岸のサウセンド・オン・シーは海浜保養地としてロンドン市民の憩いの場となっている。毎年3月に、ロンドンのパトニー・ブリッジ付近で開催されるケンブリッジ大学とオックスフォード大学との対抗ボートレースは世界的に有名である。
[小池一之]