テノール(読み)てのーる(英語表記)tenor 英語

デジタル大辞泉 「テノール」の意味・読み・例文・類語

テノール(〈ドイツ〉Tenor)

男声の最高音域。また、その声域歌手テナー
声部、特に四声部の楽曲で、バスより一つ上の声部。テナー。
同一種の楽器で、1に対応する音域をもつもの。テナー。
[類語]ソプラノアルトバスメゾソプラノテナーバリトンソプラニスタカストラートカウンターテナー

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精選版 日本国語大辞典 「テノール」の意味・読み・例文・類語

テノール

〘名〙 (Tenor tenor)⸨テナー⸩
中世初期の多声音楽で楽曲構成の基礎をなす部分。ミサモテットオルガヌムでは、グレゴリオ聖歌や世俗シャンソンなどの定旋律がテノールの部位に置かれた。
② 男声の高音部。バスとアルトの中間。次中音。また、その音域をもつ歌手。
※歌劇フォーストを聴くの記(1907)〈永井荷風〉「第一高音と第一低音(テノール)
③ 四声の音楽の下から二番目の声部。
④ ②に対応する中音域の管楽器略称
※風俗画報‐三二二号(1905)人事門「吹奏楽に就て〈略〉サクサホーヌ(ソプラノ)(アルト一番、二番)(テノール一番、二番)(バリトン)」
⑤ 単旋律聖歌の詩篇頌の旋律形式で、始唱部に続いて反復される部分。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「テノール」の意味・わかりやすい解説

テノール
てのーる
tenor 英語
Tenor ドイツ語
ténor フランス語
tenore イタリア語

音楽用語。テナーともいい、次の四つの用法がある。

(1)中世の多声楽曲なかで上声部を支えるもっとも低い声部(定旋律。ラテン語でcontus firmus)。この声部は、一般に長い保持音から構成されていたため、「保持する」の意のテネーレtenere(ラテン語)に由来するテーノルの語があてられた。その後、テーノルより低い声部にバス声部が加えられ、テーノルは下から2番目の声部となる。バロック以降、テーノルは現在のようにテノールとよばれ、四声体の合唱曲における下から2番目の声部をさすようになった。

(2)男声のなかでもっとも高い声域。その音域は一般にC3-A4であるが、オペラ独唱などの場合、しばしばC5まで要求される。さらに、オペラのテノールの場合、声質によって、優美で甘い声のテノーレ・リリコtenore lirico(イタリア語)や、輝かしく力強い声のヘルデン・テノールHelden Tenor(ドイツ語)などに分類される。

(3)テノール声部のために使用される音部記号テノール記号tenor clef(英語)という。これはハ音記号であり、五線譜の第四線をC4と定めたものである。

(4)多種の大きさがある同族楽器のなかで、テノールの声域と同じ音域をもつものに、テノール・リコーダーやテノール・サックスのようにテノールの語がつけられる。

[黒坂俊昭]

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改訂新版 世界大百科事典 「テノール」の意味・わかりやすい解説

テノール
tenor

ラテン語のtenere(保つ)を語源とする音楽用語で,ラテン語ではテーノル。〈テナー〉ともいう。時代とジャンルにより主として次の五つの意味で使われる。(1)単旋聖歌の朗唱定式や詩篇唱定式において,イニティウム(始唱部)に続く主部(同一音の反復により音高を一定に保って言葉が唱えられる)を指す。(2)1250年ころから1500年ころにかけての多声音楽においては,楽曲の構造を支える基礎となる声部を意味する。ここに定旋律が置かれ,他の声部に比べてゆっくりと,つまり各音を長く保って奏される場合が多い。(3)テーノルとディスカントゥス(のちのソプラノ)に第3の声部としてコントラテーノルが添えられたが,それがコントラテーノル・アルトゥス(テノールに対して高い声部,のちのアルト)とコントラテーノル・バッスス(テノールに対して低い声部,のちのバス)に分かれて,15世紀末に4声作法が標準化すると,テノールは下から2番目の声部を指すようになった。(4)このような声部を受け持つ声種,すなわち男性の最も高い声種のこと(およその声域は図参照)。転じて(5)同族楽器の中で男声のテノールに当たる音域をもつ楽器。例えばテノール・トロンボーンなど。
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百科事典マイペディア 「テノール」の意味・わかりやすい解説

テノール

テナーともいう。音楽用語。高い音域の男声(裏声によらず自然発声),あるいはこの音域に相当する楽器(テノール・トロンボーンなど)。また,4声部の楽曲では下から2番目の声部,ルネサンス期の対位法的ポリフォニーの基本声部などをさす。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「テノール」の意味・わかりやすい解説

テノール
tenor

音楽用語。 (1) 最高音域の男声,およびその音域を有する声楽家。記譜は,かつてはテノール記号を用いたが,現在はト音記号により,実音は記譜より1オクターブ低い音を歌っている。 (2) 中世ルネサンスの多声楽曲において,グレゴリオ聖歌,あるいはその他の楽曲構成の基礎となる旋律を保持する声部。

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