ティロール(読み)てぃろーる(英語表記)Jean Marcel Tirole

精選版 日本国語大辞典 「ティロール」の意味・読み・例文・類語

ティロール

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ティロール」の意味・わかりやすい解説

ティロール
てぃろーる
Jean Marcel Tirole
(1953― )

フランスの経済学者。フランス北部のトロア生まれ。フランスの高等教育機関(エコール・ポリテクニク)を卒業後、1981年にマサチューセッツ工科大学MIT)で経済博士号を取得した。MIT教授やフランスのトゥールーズ第一大学教授などを経て、フランス首相官邸の経済分析官となる。専門分野は産業組織論、規制、行動経済学・心理学、ゲーム理論、国際金融、企業ファイナンスなど幅広い。独占企業が多い通信、電力、鉄道などの産業分野で、消費者の利益を守るための新たな規制のあり方を示す理論モデルを構築した功績で、2014年のノーベル経済学賞単独受賞した。ノーベル経済学賞を贈ったスウェーデン王立科学アカデミーは「現代でもっとも影響力のある経済学者のひとり」「経済学がいかに実用的で重要な意義をもつかを示した」と高く評価している。

 従来少数の大企業によって市場が支配されている通信や電力などの産業分野では、価格が高くなったり、新規参入が妨げられたりする弊害があった。伝統的な経済学はこれを防ぐため、合併による寡占化やカルテルを規制し、価格に上限を設けることが有効であるとしてきた。しかしティロールは、画一的な規制や上限価格の設定は独占企業に過度な利益をもたらす場合があることを解明。ゲーム理論や行動心理学に基づいて、さまざまな規制にいかに対応すべきかを分析し、市場原理が働きにくい産業では、それぞれ業種に応じた規制や競争政策が必要であることを理論的に示した。また政府がもつ情報はかならずしも十分でないため、行き過ぎた規制は経済をゆがめるとも主張した。ティロールの一連研究成果は、欧米各国が通信、電力、鉄道などの公営企業を民営化する際、規制政策や制度設計に取り入れられた。またIMF(国際通貨基金)などの国際金融機関や世界各国の規制当局に多大な影響を与えた。さらにティロールは従来あまり分析されてこなかったM&A(買収・合併)などの企業の意思決定という分野で、ゲーム理論や情報経済学などを応用した新しい分析モデルを構築。1988年に著した『産業組織論』The Theory of Industrial OrganizationはM&A分野の古典とされ、上梓(じょうし)から30年近くたった現在も大学の教科書として使われている。

[矢野 武 2015年3月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ティロール」の意味・わかりやすい解説

ティロール
Tirole, Jean

[生]1953.8.9. トロア
フランスの経済学者。1976年エコール・ポリテクニク,1978年エコール・ナシオナル・デ・ポン・ゼショセ ENPCで工学学士号を取得するとともに,パリ・ドフィーヌ大学で 1976年決定理論の修士号,1978年博士号を取得。その後,アメリカ合衆国のマサチューセッツ工科大学 MITに留学して経済学を学び,1981年に博士号を取得。1981~84年 ENPCで研究生活を送り,1984~92年 MITの経済学教授,1992年に帰国してツールーズ第1大学産業経済研究所学術担当所長に就任。その後ツールーズ・スクール・オブ・エコノミクスを共同設立し,2007~09年理事長を務め,2009年会長に就任した。2011年にツールーズ社会科学高等研究院の中枢メンバーとなる。数十年にわたって寡占市場(→寡占)における産業組織(→産業組織論)を研究し,なぜ競争が,低価格で高品質の製品やサービスが提供される完璧な市場をもたらさないかを説明した。1986年にジャン=ジャック・ラフォンとともに規制政策の理論を提示し,この理論は 1980~90年代に広く適用された。1980年代,規制の研究は政府による市場介入や価格統制に集中し,あらゆる業界に一律に適用できる解決策が模索されていたが,ティロールは,ゲーム理論(→ゲームの理論)や契約理論を産業組織や規制に理論的かつ実際的に応用し,それぞれの産業の実態に即したよりよい政策を策定するための一般原則を確立した。2014年,寡占市場での適切な規制のあり方を分析した功績によりノーベル経済学賞を受賞した。

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