チョウジ(読み)ちょうじ(英語表記)clove tree

改訂新版 世界大百科事典 「チョウジ」の意味・わかりやすい解説

チョウジ (丁子/丁字)
clove
Syzygium aromaticum(L.)Merr.et Perry(=Eugenia aromatica(L.)Kuntze)

フトモモ科の常緑高木。モルッカ諸島原産で,スパイスの丁香(丁子,クローブともいう)をとるために,熱帯各地に栽培される。とくにアフリカ東海岸のザンジバル島,ペンバ島が世界生産の9割を占める。樹高は4~7m,ときに10m以上。花は小枝の先に群がってつき,紅色の萼筒の先に4枚の白い花弁が開く。おしべは多数,子房は下位。つぼみが開花する少し前に摘みとり,天日または火力で乾燥する。これがスパイスとなるもので,その形が釘状なので同音の丁の字をあてて丁子,丁香と名づけられ,また英名のクローブcloveもフランス語のクルーclou(釘)に由来する。昔はモルッカ諸島の特産で,ここからヨーロッパに輸出された。記録では前3世紀の中国の宮廷で用いられており,エジプト,ギリシアでも知られ,正倉院御物の中にも保存されている。しかし,ヨーロッパでスパイスとして利用が多くなったのは,中世からである。香りの主成分はオイゲノールで,ほかにオイゲノールアセタートやセスキテルペンを含む。料理用のほか,蒸留して得られる丁子油は化粧品や薬品の賦香料などに用いられる。また抗菌・駆虫・健胃作用などが知られ,薬用にもされる。
執筆者: 丁子(丁香)は辛い刺激性の焦げ臭いような香味をもち,防腐・殺菌力は香料の中で最も強いため,日本刀のさび止めのほかにさまざまな薬用とされ,とくに胃,腹,肝臓の妙薬とされる。そのほか,香水,びんつけ油,歯磨き粉,菓子,線香,タバコに香料として混ぜたり,香染,丁子染の染料ともされる。一方では,肉料理のスパイスやウースターソースの原料としても用いられる。

丁子(丁香)は古代から代表的な媚薬(びやく)の一つであり,中世アラビアではこれを食べれば老いず白髪にもならぬといった。中国では古く鶏舌香とよばれ,後漢の応劭の《漢官儀》には宮中で皇帝と話すときに口臭消しとしてこれを口に含んだとある。日本に渡来したのは8世紀ごろとされ,薫香や防腐用として珍重されたが,平安時代に五月節供に辟邪(へきじや)延命の呪具(じゆぐ)として身につけた薬玉(くすだま)に,麝香(じやこう),沈香(じんこう),丁子などの香料を入れたという。この薬玉に似た風習が,沖縄の八重山群島でかつて見られた背守りの風習である。これはマムリイ(守り)と呼ばれ,丁子やミカンの葉などの香料を入れた袋で,産婆に火の神に祈って作ってもらい,着物の背縫いの上部に魔よけとしてつけたのである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「チョウジ」の意味・わかりやすい解説

チョウジ
ちょうじ / 丁子
clove tree
[学] Syzygium aromaticum (L.) Merrill et Perry
Eugenia aromatica Kuntze

フトモモ科(APG分類:フトモモ科)の常緑高木。モルッカ諸島原産であるが、現在では熱帯地域で栽培されているものが主になっている。著名な産地としてはアフリカ東部のザンジバル島、ペムバ島、マダガスカルインドネシアマレー半島ペナン島インド南部があげられる。樹高は9~12メートルで、主幹は直立し、周囲1メートルに達する。地上から1.5~1.8メートルで枝が分岐し、ピラミッド形ないし円錐(えんすい)形の樹冠となる。葉は披針(ひしん)形で両端がとがり、対生する。葉の大きさは長さ7.5~12.5センチメートル、幅2.5~3.5センチメートル、腺点(せんてん)をもち、芳香を放つ。つぼみは枝の先に小さな房状につき、初めは淡緑色であるが、しだいにピンク色となる。長さ10~17ミリメートル、太さ約3ミリメートルの棒状の花床の先には、萼片(がくへん)4個、花弁4個、雄しべ多数、雌しべ1個をつける。開花前のつぼみを、色が変化するときに摘み取って乾燥したものが漢方薬の丁子で、色は暗褐色を呈する。丁子のおこりは、乾燥したものが、ねじ釘(くぎ)のような形をしているので「丁」の字をあてたもので、「子」は種子のように小さいものという意味である。1本の木から、1年に2.5~4.5キログラムのつぼみが採取できる。中国でこれを丁香(ちょうこう)とよぶが、由来は、その強い芳香によっている。

[長沢元夫 2020年8月20日]

薬用

チョウジは全体に油室がたくさんあり、精油16~20%を含有する。その約90%がユーゲノール(オイゲノール)である。葉、枝、つぼみなどを水蒸気蒸留して得たちょうじ油(ゆ)(クローブ油)はそれ自体香料に用いられるほか、ユーゲノールはバニリン合成の原料ともなる。薬としての丁子は健胃、鎮嘔(ちんおう)、鎮痛、興奮剤として腹痛、下痢、胃腸病の治療に使われるほか、歯科での消毒、防腐、止痛剤としてむし歯の治療に用いられる。また、顕微鏡標本の封入剤、刀剣の防錆(ぼうせい)料(さび止め料)にも用いる。なお、つぼみによる丁子は高価なため、花柄(軸丁子という)や未熟な果実(母(ぼ)丁子という)も利用されている。

[長沢元夫 2020年8月20日]

文化史

ギリシアや中国では紀元前から知られ、中国では後漢(ごかん)のころには鶏舌香(けいぜつこう)の名でよばれていた。花または若い果実を乾燥させたものを、二つに割ると鶏の舌に似ることによる。1世紀にはインドからローマにまで伝わっていたがその産地がモルッカ諸島と知られたのは16世紀のことである。1621年にオランダは香料貿易の独占を果たし18世紀末まで続いた。中世のアラビアなどでは媚薬(びやく)として用い、日本でも江戸時代には丁香油が媚薬に使われ、西鶴(さいかく)の作品にも登場する。

[湯浅浩史 2020年8月20日]

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百科事典マイペディア 「チョウジ」の意味・わかりやすい解説

チョウジ

モルッカ諸島原産で,インドネシア,マダガスカル,ザンジバルなどで栽培されるフトモモ科の常緑高木。高さ10m内外,枝先に,淡紫色の4弁花を開く。つぼみが紅色になったころ採集し,乾燥したものを丁子(丁字,クローブ)といい,粉末にして消化促進,健胃剤,かぜ薬などとする。また蒸留して丁子油をとったり,香辛料としても用途が広い。
→関連項目オールスパイス香辛料五香粉

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デジタル大辞泉プラス 「チョウジ」の解説

チョウジ

フトモモ科のグローブの蕾。健胃作用があり生薬として使用される。表記は「丁子」とも。

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栄養・生化学辞典 「チョウジ」の解説

チョウジ

 →クローブ

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世界大百科事典(旧版)内のチョウジの言及

【香料】より

…クリット・ラワン(丁子ようのにおいの強い皮)とカユ・マニス(甘い皮の意味で,シナモンとカシアに近い)で,中世のイスラム世界でいくらか使用されたようであるが,ほとんどマレー半島住民の使用にあてられ,ヨーロッパにも中国にも伝播していない。 丁子(クローブclove)と肉荳蔲(ナツメグnutmeg)は,18世紀まで,モルッカとバンダの小島以外には産出しなかった。この二つは,ヨーロッパ人の鳥獣魚肉とオリーブ油を主体とする調理に,防腐,刺激,種々の味とにおい,すなわち香味を与え,日常の食卓の飲食品を快適なものにするため欠くことのできないものである。…

【オイゲノール】より

チョウジのにおいの精油成分の一つ。沸点255℃,比重1.0664(20℃),屈折率1.5405(20℃)。…

【香料】より

…現代以前の香料は,小アジア,アラビア,東アフリカからインド,スリランカそして東南アジア,中国の西南部にかけての熱帯アジアに産した各種の植物性と若干の動物性の天然香料からなる。そしてそれらは,後に述べるように焚香(ふんこう)料,香辛料,化粧料の三つに大別される。これらの香料は,人類の歴史にあって古くより東西の文化圏に需要され伝播された。したがって主要香料の原産地の究明とその需要・伝播の解明はとりもなおさず東西の文化交渉の歴史を明らかにする手だての一つであろう。…

【中国料理】より

…中華料理とも称される。中国語では料理は〈菜〉と表し,〈菜単〉とはメニューを指す。中国各地方の料理,さらに宗教に由来する〈素菜〉(精進料理),〈清真菜〉(イスラム教徒の料理)などをふくめて中国料理という。
【特色】
 中国料理は世界に類のない長い歴史と普遍性をもった料理である。一般的にどの国の誰が食べてもうまい料理として,フランス料理とともにあげられる。それぞれブルボン朝,明・清王朝などの宮廷料理から発達しており,洗練されつくした国際性の高い料理といわれる。…

※「チョウジ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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