チュウゴクモクズガニ(英語表記)Eriocheir sinensis; Chinese mitten crab

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チュウゴクモクズガニ」の意味・わかりやすい解説

チュウゴクモクズガニ
Eriocheir sinensis; Chinese mitten crab

軟甲綱十脚目モクズガニ科。旧名シナモクズガニ,流通名は上海ガニ。甲幅 7cmに達する。額歯と前側縁の歯が鋭いことと甲面の凹凸が強いことを除いては,形態,習性などがモクズガニに酷似している。大韓民国(韓国)の黄海沿岸と中国北部の河川クリークに広く分布し,食用として重要で,日本にも輸出されている。1913年にドイツのオーデル川で初めて捕獲されて以来ヨーロッパ各地に広がり,オランダやフランス,イギリスなどの河川でも大繁殖している。ヨーロッパへの移入は,ホワン(黄)河あるいはチャン(長)江から船倉の水に入って運ばれたものと思われる。アメリカ合衆国から日本に移入されて広まったアメリカザリガニとともに,甲殻類帰化の代表例としてよく知られている。1991年,中国福建省からベトナムとの国境近くまでの中国南部に生息する個体群は別種 E. hepuensis とされた。本種によく似ているが,甲面の凹凸があまり強くないという。日本では,2006年に特定外来生物に指定され,認可を受けた業者だけが輸入することができる。(→十脚類節足動物軟甲類

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改訂新版 世界大百科事典 「チュウゴクモクズガニ」の意味・わかりやすい解説

チュウゴクモクズガニ
Eriocheir sinensis

日本産のモクズガニによく似た甲殻綱イワガニ科のカニで,甲幅8cmに達する大型種。かつてはシナモクズガニと呼ばれた。形態的にはモクズガニに酷似しており,やはりはさみ脚の掌部に軟らかい毛の房がある。額縁と甲の前側縁の突起がいずれも鋭くとがっていることにより区別がつく。韓国の黄海沿岸の忠清南道付近でモクズガニと分布の境を接し,その他中国全土の河川やクリークに広く分布している。1913年にドイツのオーデル川で最初の1個体が捕獲されたときには,すでに大繁殖が始まっていたものらしく,今日ではオランダやフランスなどヨーロッパ各国に広まっている。中国からヨーロッパへの移住は黄河か長江揚子江)から船のバラストタンクに入った幼ガニが運ばれたものと考えられるが,アメリカから日本へ入ったアメリカザリガニとともに,甲殻類の移住の好例としてあげられることが多い。韓国ではしょうゆ漬,中国では老酒(ラオチユウ)に漬けて食べるが,モクズガニと同様に肺吸虫症を引き起こすウェステルマン肺吸虫の第2中間宿主であるので注意を要する。
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