六訂版 家庭医学大全科 「チック(チック症)」の解説
チック(チック症)
チック(チックしょう)
Tic disorder
(こころの病気)
どんな病気か
チックとは一種の癖のようなもので、乳幼児期から学童期にかけ、心と体の成長・発達の過程で多くの子どもにみられるものです。これが固定・慢性化して激症化するとチック症と診断されます。
子どもにみられるチックは、一過性・発達性チックといわれるものが大多数です。しかし、子ども専門の精神科では、心身症ないし神経症レベルのチック症が比較的多くみられます。チック症の重症型といわれる慢性多発性のチック症(トゥーレット症候群)は、学童・思春期に比較的多くみられます。
原因は何か
発症の原因としては、身体因(チックの中枢として脳の
症状の特徴と診断
チックは、「ある限局した一定の筋肉群に、突発的、無目的に、しかも
症状は、まばたき(
発症年齢は、3~4歳の幼児期から始まり(初発)、7~8歳の学童期(ピーク)に多くみられます。男児に多い傾向にあり(男女比は3対1)、その意味づけに関して定説はありませんが、一応この時期の男女の成長・発達の特異性によるものと考えられています。
診断は、一般には症状や治療経過の特徴などからなされています。ここでは、子どもの精神科などで用いられている診断基準を紹介しておきます(表17)。
治療と対応
治療は、「チック症という病気を治すのではなく、チック症の子どもを治療する」ことになります。治療の目標は、ストレスなどへの適応性を高め、人格の発達援助を目指すことです。
子ども専門の精神科などでは比較的重症な患児が多く、その場合には薬物療法(主としてハロペリドールやリスペリドンなどの向精神薬)が行われます。一方、軽症の場合は、
対応としては、症状を誘発する緊張や不安を軽減、除去することや、それへの
むしろ、本人が症状にとらわれすぎないように配慮し、全身運動の発散に関心を向けさせ、一方では、何か興味を抱いて熱中できるもの(趣味的なもの)をもたせることが有効です。
しかし、症状が長期・慢性化し、多発・激症化する場合には、子ども専門の精神科などの医療機関への受診が必要になります。
根岸 敬矩
チック
Tic disorders
(子どもの病気)
どんな病気か
チックは、体の一部あるいは全身が
チックは、一過性チック、慢性チックとトゥーレット症候群の3つに分類されます。チックが1年以内に治まってしまうものを一過性チック、1年以上続くものを慢性チックといいます。体のチックに加えて声の出てしまう音声チックが1年以上続くものをトゥーレット症候群と呼びます。初発年齢は7~9歳です。
原因は何か
原因は不明です。脳波やCT、血液検査ではまったく異常はありません。トゥーレット症候群には親子や兄弟でともになることがあり、遺伝が関係している場合もあります。
症状の現れ方
多くは目をぱちぱちさせる、口をゆがめる、首をふるといった小さな運動ですが、ジャンプしたり、体全体を揺り動かすような大きな動きのこともあります。また咳払いや舌打ちがチックの症状である場合もあります。声が出る場合には、単純な声を出す場合もありますが、
チックの症状は、本人の意思に関わりなく(不随意に)現れます。精神的緊張があると起こりやすく、また、ある程度起こらないようにコントロールできる場合もあります。
チックはそれ自体に苦痛はありませんが、人の前で起こると社会的に不都合な場合が多く、そうしたことが本人にとって大きな精神的苦痛になりえます。
トゥーレット症候群では、身体的なチックに加えて、汚言症などの音声チックが起こりやすく、社会生活上大きな支障になります。また、注意欠如多動性(ちゅういけっじょたどうせい)障害や強迫性(きょうはくせい)障害などをいっしょにもつことが多く、社会適応が困難になることがしばしばあります。
治療の方法
ある程度は、気持ちをコントロールすることでチックを減らすことができることがあります。まわりから注意すると精神的緊張のためにかえってチックが多くなります。
向精神薬(ハロペリドール、リスペリドン、ピモジド)の服用で症状を軽快させることができます。
榊原 洋一
チック
Tic disorder
(脳・神経・筋の病気)
どんな病気か
チックとは、自分の意思とは無関係に、突然起こる体の動き(運動チック)や、発声(音声チック)のことをいいます。
発症年齢は小児期で、比較的男児に多い傾向があります。運動チックの症状として、顔のしかめ、頻回のまばたき、首すくめなどがあり、音声チックにはのど鳴らし、
チックはそのほかに症状を示さない場合と、トゥーレット症候群と呼ばれる、チック、強迫性(きょうはくせい)障害、注意欠如多動性障害を合併する病気によるものである場合があります。
原因は何か
大脳の深部にある
検査と診断
典型的な動きから診断は容易です。チックのみなのか、トゥーレット症候群の一部なのかを調べるのに、知能テストを受けたり、小児精神科の受診をすすめられることもあります。
治療の方法
軽度のチックは自然に軽快します。軽度の場合、両親などが過度の心配をせずに温かく見守っていく態度が大切です。重症の場合は薬物治療の対象となりますが、副作用が出る可能性がありますので小児精神科、小児神経内科などの専門医の診察を受けることをすすめます。
野寺 裕之, 梶 龍兒
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報